遊園地の奥にそびえる大観覧車は、夜の空気をまとってゆっくりと回っていた。
ライトは柔らかく点滅し、まるで星を抱えているみたいに静かに光っている。
「……ここにも、誰かとの記憶があるんだよな。」
じゃぱぱは観覧車を見上げながら小さくつぶやいた。
胸の奥がじんわり熱くなるような、不思議な感覚がする。
扉が開き、じゃぱぱは一歩乗り込む。
その瞬間――ふわっと温かい空気が流れた。
「よう。来たんやな。」
足元から響いたその声に、じゃぱぱは思わず顔を上げた。
そこに座っていたのは、
落ちついた優しい目をした青年――たっつんだった。
「たっつん……?」
「久しぶり、なのか? まあ、こっち側としては“記憶としての俺”なんやけどな。」
軽く笑うたっつんの声は、機械の揺れにも負けないほど安定していて。
じゃぱぱの心はふっと軽くなった。
観覧車が静かに動き出す。
二人の間に流れるのは、
風の音と、わずかな機械音と――
言葉にしなくても伝わる安心感。
「なあ、たっつん。
俺、みんなのことを……ところどころ忘れてるみたいなんだ。」
「知っとるよ。やからここにおるんやろ?」
たっつんは足を組み直し、外の景色へ目を向けた。
「あの時、お前よく言っとったやろ。
“みんなと一緒ならどこでも楽しい”って。」
「……言ってた、気がする。」
「気がする、やなくて。――言っとったんやで。」
観覧車が半分ほどまで上がると、
遊園地全体が一望できる高さになる。
その光景を眺めながら、たっつんは続けた。
「お前はいつだって、俺たちの背中を押してくれとった。
企画で悩んでるときも、撮影でグダってるときもさ。」
「俺が……?」
「そうや。お前が笑うから、みんなが笑えたんやで。」
静かに告げられたその言葉は、
じゃぱぱの胸の奥に深く沈んで、
ゆっくりと暖かく広がった。
頂上に差しかかる。
動きが一瞬ゆるんだ瞬間、
じゃぱぱの脳裏に光が走った。
――楽屋で肩を並べて話す自分たち。
――動画の企画を夜遅くまで一緒に考えた時間。
――「楽しいね」って笑い合う瞬間。
記憶の断片が、静かな湖に落ちる石みたいに波紋を広げていく。
じゃぱぱは息をのむ。
「……思い出した。
俺、本当にみんなと一緒にいる時間が、何より好きだったんだ。」
「やろ? そんな顔しとる。」
たっつんの声はどこか誇らしげだった。
「お前はまた、ちゃんと戻ってこれるで、 断片を集めれば。
それが“俺たちの記憶”なんやから。」
観覧車がゆっくり降りていく。
光の粒が二人を柔らかく包み込む。
「ありがとな、たっつん。」
「ええって。
……お前がまた笑うなら、俺の役目はそれでええから。」
ゴンドラの扉が開いたとき、
たっつんの姿はもう消えていた。
でも不思議と、じゃぱぱの胸はとても軽かった。
「次の記憶へ……行こう。」
いつのまにか手に持っていた、黄色い光を 放 つ欠片をそっと握りしめ、じゃぱぱは前へ歩き出した。
コメント
2件
このお話しめっちゃ好き!虚しいような悲しいようなホッとするような感情…
なんだろう。この話めっちゃ好き。ガチで最終話で泣く未来しか見えん、、、 なんか、何処か虚しいような安心する物語めっちゃ好き。 何でもっと良いね付かないんだ、、?←(10良いねしか押せない