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傷の手当てが一段落したリビングで、今度は別の不穏な動きが始まっていた。ソファの主導権を握ったソ連と、その隣にぴったりと並んだ現国のロシアが、何やら怪しい笑みを浮かべて日帝を挟み込んだのだ。「おい、日帝。せっかく復活したんだ、景気付けに一杯どうだ?」ソ連がどこからともなく取り出した、度数96パーセントのスピリッツが眠るウォッカのボトルを日帝の目の前に突き出す。
「そうだぞ、日帝。親父の持ってきた現世の酒は最高に美味い。お前も飲むべきだ」ロシアもまた、ソ連と全く同じ笑顔で日帝にじわじわと肉薄する。身長が優に190センチを超える大男二人からの、視覚的にも精神的にも凄まじい「酒の圧力」が日帝を襲った。
「いえ、私はこれでも帝国陸軍を率いる身。職務中に、いえ、今は職務中ではありませんが、お酒を嗜むのは少々……」日帝は真面目な顔をして丁重に断ろうとした。しかし、戦友たるソ連の
「おいおい、俺の酒が飲めないってのか?」という無言の威圧と、ロシアの笑顔の圧迫感に完全に押し切られてしまった。とことん押しに弱いしっかり者である。
「……くっ。分かりました、一口だけですよ」日帝は意を決して、差し出されたショットグラスのウォッカをぐいっと煽った。しかし、大日本帝国陸軍、実はめちゃくちゃにお酒に弱かった。世界最強クラスのアルコール度数を誇るウォッカを、お酒の弱い日帝がストレートで飲まされたのだ。どうなるかは火を見るより明らかだった。
「――っ、はぅ……」一発で泥酔した。日帝の白い頬が、一瞬にして林檎のように真っ赤に染まる。いつもピシッと伸びていた背筋がふにゃふにゃになり、座高がみるみる下がっていった。「ん、にゃ……。なんだか、とても……眠い、です……」酔った日帝は、まるで本物の猫のように、コクコクと頭を揺らしながらうとうとし始めた。そして、完全に理性のタガが外れたその瞬間、信じられないハプニングが起きた。ポロッ。日帝が常に深くかぶっていた陸軍の軍帽子が、うとうとした拍子に床へと落ちたのだ。その頭頂部から、愛らしい二つの黒い「猫耳」がぴょこんと飛び出した。さらに、軍服の裾の隙間から、しなやかな「白いしっぽ」が、酔った心地よさを表すようにゆらゆらと揺れ始めた。「にゃ、にゃ……むにゃ……」日帝は自分の秘密(猫耳としっぽ)が晒されていることなど、全く気に留めないほど完全に酔い潰れ、そのままソファのクッションに顔を埋めてすやすやと寝息を立て始めてしまった。
「「「「「は、はあああああぁぁぁっっ!?!?!?!」」」」」
それを見た現国側(日本、ロシア、アメリカ、イギリス、イタリア、中国、国連)の全員の絶叫が、イギリス家に木霊した。
「ち、父さん……!? 頭に、お耳が……!? お尻に、しっぽが……!?」日本が驚愕のあまり、持っていた救急箱を床に落とした。
「キャーーーーーーッッッ!!! お父様がネコミミ美少女(※男です)になってるーーー!! 可愛い、可愛すぎて世界が爆発するーーー!!!」床に倒れていたにゃぽんがガタッと飛び起き、凄まじい勢いでスマホの連写シャッターを切り始めた。もちろん鼻血はノンストップだ。「オーゥ! 日帝chyan、めちゃくちゃキュートじゃん! ちょっと触ってもいいかい!?」空気の読めないアメリカが、大はしゃぎで日帝の猫耳に手を伸ばそうとする。その瞬間。ドガァァァァァッッ!!!!!
「ぎゃあああーーーっ!?」アメリカの体が、リビングの壁まで吹き飛んで激突した。ナチスの容赦のない「いつも通りの蹴り」が、アメリカの脇腹に炸裂したのだ。ナチスはギザギザの歯を剥き出しにし、狂暴な肉食獣の目でアメリカを睨みつけていた。
「貴様、我が戦友の睡眠を邪魔するな。その汚い手を日帝に近づけたら、次はその腕を食い千切るぞ」
「ひ、ひぃぃ……! 黒歴史が本気で僕を殺しにきてるよぉ……!」アメリカが涙目で壁際でガタガタと震える。ソファの上では、ナチスが日帝の頭にそっと軍帽子をかぶせ直し、ソ連が
「ガハハ、日帝の酒の弱さは相変わらずだな」としっぽを指でつついている。イタ王も
「日帝、可愛いんね〜」と暢気に笑っていた。旧国組の3人は、日帝の猫耳のことを最初から知っていたため、全く動じていなかった。しかし、目を覚ましたアメリカは、恐怖でパニックになりながらも、持ち前のポジティブ(無神経)さで余計な一言を口にしてしまった。
「で、でもさぁ! 日帝chyanってば、帽子をとるとさらに身長が小っちゃく見えて、ちんちくりんで可愛いよね! まるでマスコットキャラみたいだ!」その言葉が、イギリス家のリビングに響いた瞬間。ピキッ。空間の空気が、これまでのギャグ時空から、一瞬にして「ガチの戦場」の冷気へと凍りついた。日帝を看病していたドイツとイタリア、そしてロシアの顔から、一斉に血の気が引いていく。(あ、アメリカのバカ……!! よりによって、その言葉を……!!)現国たちが絶望に目を見開く。そう、この場には、絶対に口にしてはならない【最大の禁句】が存在した。それは――「身長が小さい」など、身長に関わるすべてのワード。この旧国4人衆の中では、一番大きいのがソ連。そして数センチ差でイタ王が続き、そこから数十センチという絶望的な差を開けられて、ナチス、そして日帝という順番の身長順になっていたのだ。つまり、ナチスと日帝にとって、「身長が小さい」という指摘は、誇り高き旧国としてのプライドを粉々に打ち砕く、最も地雷な禁句だった。
「……おい、米国。今、なんと言った?」すやすやと眠っていたはずの日帝が、ゆっくりと、しかし完全に据わった目をして上体を起こした。その手は、神に戻してもらったばかりの、腰の「刀」の柄へと伸びている。
「フン……。生かしておいては、我が軍の尊厳に関わるようだな、米国」ナチスもまた、全身からどす黒い殺気を放ちながら、ギザギザの歯をギリリ……と鳴らした。
「ひっ、え……!? な、何!? 僕、なんか悪いこと言った!?」アメリカが恐怖に顔を青ざめさせる中、日帝が静かに刀を抜いた。シャキィン、と美しい刃がリビングの蛍光灯を反射して怪しく光る。酒のせいでうとうとしながらも、その殺意だけは最高潮に達していた。
「あー、もう!! アメリカ、今すぐ逃げなさい!! 国際連合の権限をもって、今回の件はアメリカの自業自得とします!!」国連が全力で机を叩いて避難勧告を出す。
「上司死ね!! アメリカも死ね!! 巻き添えを喰らう前に私は退避します!!」
「俺も逃げるよー! 昔の俺たち、怒ると本当に怖いんだからー!」ドイツとイタリアが真っ先にリビングから脱出し、日本は
「父さん、落ち着いてください!!」と日帝を必死に止めようとするが、日帝の耳としっぽは怒りでピンと逆立っていた。
「米国……覚悟」「我が牙の錆びにしてくれるわ!!」
「マ、マミィーーーッッ(ママ)!!! 助けてーーーっ!!!」アメリカがイギリスの後ろに隠れて絶叫する中、日帝の刀とナチスのギザギザの牙が、容赦なくアメリカへと襲いかかるのだった。
コメント
1件
結構なカオスだったね、第7話(笑) 日帝がまさかのネコミミ美少女(男)化するとは思わなかったよ。あの軍服と猫耳のギャップが完全に頭に焼きついた……しかも酒に弱いって。 で、禁句を踏んで戦場と化す流れも見事。アメリカの「ちんちくりん」発言、あれはもう完全に自爆だよね。旧国4人衆のプライドってまさにそこなんだなあって伝わった。世界観の細かい設定が笑いとシリアスの境目をいい感じにしてる。