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「お母さん,お帰り。」
榎煉が帰って数時間経った頃にお母さんが帰ってきた。こんなに帰ってくるのが遅いのは日常茶飯事。多分寄り道をたくさんしてきている。
「ねぇ芽依,榎煉君のお母さんから連絡があったんだけど榎煉君って見てない?」
「ん?2時間前ぐらいに帰ったよ。」
「それまでここで遊んでたぞ。」
テレビで野球の試合中継を見終わったお父さんも玄関にやって来た。
「そう…。」
「榎煉がどうかした?」
お母さんはリビングに向かなり深刻そうな口調で話した。
「榎煉君,まだ帰ってきてないんだって。」
お母さんはそう言った。榎煉はお母さんと違って寄り道なんてしない。まっすぐ家に帰るはずだ。時計は8時14分を指している。家を出て2時間しか経っていないから,警察は行方不明とは断定しないだろう。
「私,探してくる!」
学校の体操服のまま,私は榎煉の家まで走った。
「芽依ちゃん!」
榎煉のお母さんが玄関の前に立っていた。かなり汗をかいてたから本当に焦っているのだろう。大切な我が子がいなくなるんだから。
「探した場所,教えてくれませんか?」
「ここの近所,学校までは探したわ。」
榎煉はああ見えて方向音痴だから遠くには行けない。かといって人ごみの多い商店街にはいかない。となったらまだ学校の中ということになる。
「榎煉がいつも帰る道は探しましたか?」
「ええ。」
いつも帰る道は探した。…まさか!
「近道…。」
私と榎煉だけが知っている近道。私の家から帰るとき,もしその近道を使って家に帰ろうとしたときに何かあったとしたら。
私はすぐにその近道へ走った。
「榎煉!」
街灯がひとつしかないのにも関わらず今日はもう光っていない暗黒の道。その近道の奥に,榎煉が座っていた。
あの綺麗な顔はなかった。誰かに殴られでもしたのだろうか。
「榎煉,聞こえる!?」
「_い?…ってぇ。」
頭からは血が出ている。何が起きたのか。榎煉がこんな目に合うなんて私には耐えられない。喧嘩の強い榎煉なら数人相手だったとても余裕で相手できるのに。
「何があったの?」
「はは,芽依みたいに変われるかなって思ったけど…案外,しんどいものだな…。」
榎煉の顔色が悪くなってきている。もうすぐで榎煉のお母さんが来るはずだから,きっと。
「何人?」
「…5。」
ニコニコと笑っている榎煉だが,きっとしんどいと思う。今まで喧嘩をしてぼこぼこにしてきたのに,今度は自分がやられる番。また,昔みたいに。
「榎煉!」
もしも榎煉が動けなくなった時を予想して榎煉のお母さんには車で来てもらった。案の定榎煉は骨折でもしているようで足が曲がっていた。ここまでする奴らはある程度予想できている。
上院寺龍。高校2年生なのに下級生をいじめるのがすごく好きなウザイ男。私はあの男が誰よりも嫌いだ。
「これから病院行こ。」
「えぇ…めんどくさい。」
そんなこと言われても無理やり連れていきます。
私がきっと,この手であいつを堕としいれてあげるから。