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「そんなのアリなのよ!?」
「これぞフェリスクベル様の御力……やはりあの方は女神なのだ!」
叫ぶパフィとテンション爆発中のラッチ。その両者が見ているのは、小屋の壁に描かれたミューゼの絵。アリエッタによって等身があげられ、所々美化されているが、知り合いならば見ただけでミューゼと分かるくらいには特徴は残されている。
まるで聖女か何かのように杖を掲げたその絵は淡く光り、杖の先端付近から、複数の蔓を伸ばしていた。
「みゅーぜ、がんばれっ!」
アリエッタはミューゼの絵に向かって、覚えきれていない言葉で応援をする。すると、蔓がさらに伸び、ウネウネと元気に蠢き始めた。
アリエッタ自身は魔法を使えない。自分で魔法を使う道具を描いても、潜在意識レベルでの常識化まではしていないので、発動自体が困難である。
だが、アリエッタの中で「ミューゼは植物の魔法を使える」という常識は完全に定着していたのだ。そしてその他人の常識ならば、自分の潜在意識など関係なく、その人の能力として発動出来る…という訳なのだ。
《流石私の娘! 彩の力の使い方が上手になったわねー。誰かの力を再現するなんて考えもしなかったわ》
全く同じ神の力を持つエルツァーレマイアだが、アリエッタと同じ事は出来ない。そもそも絵心が皆無である。その逆も然り。
実りと彩の力は、元々エルツァーレマイアが自分の世界の野菜や果物などを創造するために生み出した力。力を与えられたアリエッタには、彩の力の使い方のみを教えている。
理由は簡単、アリエッタに実りの力を説明しても、首を傾げながら「凄いね!」という反応で終わった為である。つまりピンと来なかったのだ。これでは実りの力は発現すらしない。
その代わり、色を操る彩の力に対しては、物凄い食いつきがあり、1年も経たないうちに、小さな世界を引っ掻き回す程度には力を使いこなしている。趣味と能力の相性が良すぎたのだろうか。
《ふふふ、これだけ可愛くて、力の使い方も上手なら、父上にも怒られないわ。今度自慢してこよーっと》
自由奔放な女神である。次元をあちこち移動して無自覚で迷惑かけまくる程に。
そしてそのトラブル体質(発生源が自分)は、着実に娘にも伝染し始めているのだった。外では、アリエッタが操る「ミューゼの蔓」が、今にもシーカー達に向かって伸びようとしている。
そしてシーカー達も、突然現れた蠢く蔓に、警戒を強めた。その中でも、一番最初にアリエッタの方向を見ていたのは、着ぐるみのドルナだった。
「………………」
「あのドルナ、アリエッタをケイカイしているのか?」
「あー…そういえば、ドルナってアリエッタの力を食べましたよね?」
「……あっ、うあ~~~もう!」
エテナ=ネプトでの事を思い出し、ピアーニャは頭を抱えた。
ドルナはアリエッタの力に惹かれ、その色の付いた物を食べ、その能力を自分の物にする。前は光るだけだったが、今回は最低限蔓が伸びる能力が付いている。対処が難しくなるのが目に見えているので、食べさせるわけにはいかないのだ。
「アリエッタのところまでいくぞ、ミューゼオラ、ムームー!」
「はーい」
「はいっと!?」
走り出そうとした矢先、ついにアリエッタの出した蔓が動き出した。これはマズいと、ピアーニャが慌てて駆け出すのだった。
そんなピアーニャの焦りなど知る由も無く、アリエッタのテンションは急上昇している。
「みゅーぜ! みゅーぜ!」(どうしよう、このみゅーぜは絵だけど、自分の考えが通じるのが嬉しくなってきた!)
「アリエッター? ちょっとー? 楽しいのよー? なんで泣いてるのよ!?」
「うおおおおおお!!」
普段は大人しいアリエッタの変貌ぶりに驚いて、パフィが思わず小声で語りかけている。
まだまだ意思疎通が難しいせいで、大好きな人の絵が自分の思い通りに動いてくれるのがよほど嬉しいのか、叫びながら涙を流す少女。泣き虫がここでも発揮されていた。
(あそこにいる人達、全員やっつけて縛っちゃって! 『うん、任せなさい、あたしの可愛いアリエッタ』)
しまいには、自分でお願いし、ミューゼが応えるという妄想までし始めてしまった。その影響で、蔓が枝分かれし、大きく広がって、シーカー達に伸びていく。
「なんだこりゃ! ミューゼちゃんと同じやつか!?」
「新手のドルナか!?」
「よく分かんねぇけど、気をつけろ!」
アリエッタの能力をほとんど知らないシーカー達は、多方向から伸びてくる蔓に向かって構えた。武器を置いた者達も、慌てて武器を手に取り、ちゃっかり着ぐるみのドルナを囲んで蔓を迎え撃った。結局ドルナは逃げられない。
「アイツら、ヨクボウがからむと、すごくなるな……」
「気持ちは分かりますけどねぇ」
「もうやだアレ全部糸でズタズタに引き裂きたい……」
ムームーから、ちょっぴり殺意が漏れ出している。
結局ピアーニャ達が何かする前に、アリエッタからの蔓がシーカー達に襲いかかってしまった。
『うおおおおおお!』
魔法を放って蔓を消し飛ばす者、機械仕掛けの爪を振るって斬り飛ばす者、雲を変形させて串刺しにする者、様々なシーカー達の攻撃が、蔓を撃ち落としていく。
「……なんという強者どもの宴リムなのか。パルミラお母さんにを引けを取らぬとは」
「いやまぁ、みんな私達の先輩なのよ。強くて当たり前なのよ」
「シーカーって凄い……」
近接戦闘であれば、パフィよりも強いシーカーが沢山いる。それでもパフィがそれなりの実力者でいられるのは、フォークで刺せばナイフで何でも斬れるというカトラリーの力と、変幻自在な食材操作のお陰でもある。
今回新しいリージョンであるネマーチェオンの調査に来たのは、半数以上がピアーニャやバルドルも認める実力者。数が多いとはいえ、真っ直ぐに向かってくる蔓を撃退するくらいは問題無い。……普通ならば。
「むーっ」(みゅーぜが負ける訳無い! 美人で優しいお姫様で、最強の魔法使いなんだぞ!)
誤解も交えて、ミューゼに対するアリエッタの評価は異常に高い。その評価は、そのまま絵のミューゼの力となる。
「あ、増えた」
多数の蔓が一気に倍増した。
「ちょっと待てえええええ!!」
「うあちっ! なんか硬くなった!?」
ついでに硬度も増していた。
余裕を持って観察していたシーカー達もいたが、これには慌てて本気で迎撃し始める。
アリエッタの女神の力は、潜在意識の『常識』によって発動、具現する。それは言い換えれば『信じる心』が現実化しているとも言える。
正に神らしい力の根源ではあるが、それは同時に『思い込み』によって発動しているとも言える。つまり、『ミューゼが最強』とアリエッタが信じ込めば、本当に最強の魔法使いの絵になってしまうのだ。
「あたしあんな事出来ないけど!?」
「だろうなぁ……」
無数になって硬くなってしまった蔓を見て、本物のミューゼが愕然とする。蔓を同時に魔法で操るには、全ての蔓を意識しなければいけない。当然、一度に操れるのは数本が限界である。
同じく操作タイプの能力を持っているピアーニャも、『雲塊』を3つ以上同時に操ろうとは思っていない。数が多い程、同時操作が困難になり、動きが荒くなるからだ。
「とにかくアリエッタを止めなきゃ」
ミューゼ達が興奮しているアリエッタの元にたどり着くまで、あと少し。頭を撫でて、大人しくさせれば落ち着く筈……と、ミューゼもピアーニャも考えている。近くで楽しそうなアリエッタを見続けているパフィがいるが、液状化した興奮を鼻から出している間は、アリエッタを全肯定する姿勢なので、まったく当てにならない。
再び動き出そうとしたその時、シーカー達が騒めいた。
「なんだ?」
「あれって……蔓?」
シーカー達の中心から、蔓が8本伸び上がり、襲い来る蔓を十数本絡めとった。
「……手伝ってくれるのか?」
蔓の主は、着ぐるみのドルナだった。胴体を降ろし、布の蔓を10本同時に伸ばし、操っていた。
このチャンスを逃すようなシーカーは、ここにはいない。
「っしゃあ!」
「いくぜ!」
動いている残りの蔓を落とし、すぐに絡めとられている蔓を落としていく。蔓だらけだった視界が晴れ、辺りの様子が少し見えるようになった。
「あれは!」
「パフィちゃんの鼻血!?」
「ありがたい! 今夜のドリンクに頂こう!」
「なんでだよ!!」
思わずピアーニャが大声でツッコミを入れた。
鼻血を見てドリンクと言った彼は、とあるリージョンからやってきた吸血人種のシーカーである。手に血を纏わせ硬化し、鋭い爪の様に使う格闘タイプの戦法を持っている。そして、特に美女の鼻血を好む変態だったりする。
それはさておき、蔓の発生源が、多くのシーカーに見破られていた。
「行くぞドルナ。この蔓の元凶は、あの小屋だ。力を貸してくれ」
初老のシーカーが小屋を指差し、ドルナに話しかけた。言葉が通じたのかは分からないが、ドルナは蔓を動かし、小屋の方向へと動き出した。そこへ再び蔓が襲い掛かる。
しかし、ドルナが蔓を2本使い、蔓を空中で絡めとった。その蔓の上をメネギット人のシーカーが走り、絡めとった蔓をナイフで斬り裂く。
「なんでドルナとキョウトウしてるんだよっ」
「まぁ、迷惑なだけで、ドルナって善悪とか無いですし?」
「……それもそうか」
そう、ほとんどのドルナに悪意は無い。ただ自分が夢だという事に気付かず、生活しているだけなのだ。
「むむーっ!」(負けるか! みゅーぜの力はこんなもんじゃない!)
想像のミューゼは現実のミューゼの限界を遥かに超えているが、そんな事は知らないアリエッタはムキになって、さらに『ミューゼの魔法』を強くする。
「蔓が棘になった!?」
「いやもう、アリエッタのヤツ、いーかげんにしろよ!」
結局絵が食べられたらドルナに力を与えてしまうという心配以前に、アリエッタの対処が順調に難しくなっていくのだった。