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十月に入り、いよいよわたしは、ラブメイクとのお仕事のメンバーとして正式に参加することになった。


他のみなは士気が高く。上司からの信頼も厚い。


そしてそのあたりからわたしは実質フルタイム勤務となり、一ヶ月様子を見て、定時までの勤務にするよう、契約を結びなおすこととなった。


毎日、張り合いがある。お客様と連絡を取ること自体が楽しいし、憧れのラブメイクの環境をよりよくするお手伝いが出来て感激している。本社に行って、コスメの現品を頂いたときにはもう、泣いちゃいそうだった。


お客様と直接メールのやりとりをしたり、電話対応をしたり。責任のある仕事を任されること自体が快感だった。それまでのサブ扱いに内心では不満を抱いていたのだな。自分の気持ちがよく分かった。

わたしは、インテリアには詳しくはなかったが。韓国系のインテリアが流行っているのは知っていたし、プライベートの時間に、動画をたくさん見ていた。それを踏まえて、キッチュでキュートでプチプラの神であるラブメイクの雰囲気に合う、ファッショナブルな空間を提案した。デザイナーが提案する資料を見るのも楽しかった。素敵なラブメイクを益々素敵にするお手伝いが出来る……仕事の情熱に燃える自分がいた。


鷹取の義理両親には、クリスマスイヴに、外食をしましょうと正式に連絡した。


これまで子どもたちが小さい頃には、クリスマスに、鷹取の実家に集まることはあったが。比較的小さい、明日奈ちゃんや詠史が小学校にあがった辺りから行かなくなった。面倒だし、学校もあるし。保育園と違って平日は休めないし。


なので、義母は、わたしからの電話を貰ったときは、あら、いいの? と言っていたが。まぁ、現時点で作戦を打ち明ける必要はないし、予定を確保出来れば。そんな程度、だったのだが。

仕事が忙しくなると余裕がつい、なくなってしまい、出来合いの惣菜を買って帰ることもしばし。夜の七時に帰宅するともう、夕食を作る気力も湧かない。夫はぶぅぶぅ文句を言っていたが、知らん顔を貫いた。


このまま特に証拠も集まらず、Xデーを迎えるのだろうか。内心では焦燥を感じていた頃に、水萌からの、二通目の手紙が届いた。


中身を見て仰天した。


『有香子へ


単刀直入に言うね。


真由佳の自宅前を見張っていたの。すこしでも証拠かなにか手がかりが見つかればと思って。


先ず真由佳の旦那さんの姿が見当たらないの。離婚したとか、そんな話、聞いてる?


それと。真由佳は介護と育児で忙しいと言っていたけど。おむつとか、介護に必要なものを買っている様子はないわ。それも不思議なの。


関係あるか分からないけれど、真由佳は、車を出してホテルで二人の女と会っていた。もしかしたら、この中に、有香子の知っている女がいるかもしれないと思い、写真を同封します。


また今度、会って話そう。


取り急ぎ、写真を送ります。


鈴原水萌』

同封されていたのは、三人の女がホテルの入口付近で談笑する写真だった。こないだ会ったときとは別人のように、色気づいた真由佳とそれに――。


「汐音さんと、……山崎さん?」


なんということだ。


◯◯さん=中島さん=夫の浮気相手だと思っていたのに。中島さんは、無関係だということか? それに、この三人にどんな繋がりがあるというのか。


汐音さんは、わたしからすると義理の妹で、夫の妹だ。彼女がかつて不倫をしており、そのことを赤裸々に、ブログに綴っていたことを知っている。今回の一件とひょっとしたら、関係があるかもしれないと思い、時間を見つけては、ブログを読み返していた。


手紙には、動画へのアクセスコードも書かれていた。アクセスすると、ホテルの入口で待ち合わせ、友達のようにゆったりとした表情を見せる三人の姿……。


こんな真由佳の顔を久々に見た気がする。


真由佳は、女子会では、疲れきった主婦の顔を見せていた。


なのに、この動画では、鮮やかな、いわゆるZARAっぽい、艶やかな服を着こなしており、つばの広い帽子まで被って。ネイルまでして化粧はバッチリだ。誰か好きな相手にでも会うのか? そんな印象だ。

あの、女子会での地味っぷりはなんだったのか……。


そして女子会の後に、詠史から言われたことを思い返していた。


『母さん。


母さんが、身ぎれいにして、努力をしているのはとっても素敵なことだけれど。


だからといって、ちょっとふっくらしているひとや、自分に余裕がなくって身だしなみに気が行かないひとを見下すのは。違うんじゃないかな、とぼくは思うんだ』


じゃあ、会社で、ダルマみたいに太ったひとをいつも決まった時間に見かけてもやもやするときはどうすれば、と息子に相談すれば、


『やさしそうなひとだと思えばいいんだよ』


これではどちらが親だか分からない。


見た目は確かに大事だけれど。だからといって他人を見下すことはいけないことなんだなと、改めて思い知った。


そんなわたしに降りかかるこの事実。


いったいどうしたらいいのだ……。


* * *


「この金髪の女と、□□さんが同じで。


もうひとりの金髪の女が、〜〜さんと同じです」


みどりさんに動画を共有したところ、みどりさんは力強く言い切った。間違いありません、と。

「いままで一億人以上の歩き方を見てきて、三千人以上にフィットネスを教えているんです。


□□さんの歩き方はややがに股気味でX脚ですね。


〜〜さんの歩き方は、左利きの人間に特有のものです」


こうして、金髪女ふたりの正体が判明した。


しかし、わたしのこころは、曇り空のように、どんよりとくすんでいた。


申し訳ないですが、許しません。

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