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……そう思った。
そう思って、
信じてしまった。
みんなが、
俺のことを忘れる。
名前も、
顔も、
声も。
それだけで、
この悪夢は終わるんだって。
⸻
なんだよ。
なんでなんだよ。
俺はもう、
主人公じゃない。
選んでない。
望んでない。
なのに――
⸻
……目を開けた。
天井。
白い。
ひび割れ一つない。
心臓が、
一拍遅れて
強く打つ。
この感覚。
知っている。
知りすぎている。
⸻
チャイムが、
鳴る前の
静けさ。
朝の、
まだ誰も騒いでいない
教室の気配。
俺は、
震える手で
机を触る。
ある。
木目。
傷。
前に刻んだ、
意味のない落書き。
⸻
「……嘘だろ」
声が、
掠れる。
机の中。
恐る恐る、
引き出しを開ける。
――制服。
きちんと畳まれて、
そこにある。
⸻
なんだよ。
なんなんだよ。
「終わったって……」
「終わったって
思ったのに……!!」
⸻
チャイム。
鳴る。
逃げ場は、
ない。
世界が、
確定する音。
⸻
ミオが、
席に座っている。
何事もなかったみたいに。
ミオ「おはよ」
その声。
優しい。
何も知らない。
俺の中で、
何かが
完全に折れる。
⸻
……でも。
前と、
違う。
⸻
ミオの影が、
薄い。
完全にじゃない。
でも、
確実に。
存在が、
“残りカス”みたいに
削れている。
ミオ「……どうしたの?」
ミオ「そんな顔、
初めて見る」
俺は、
答えられない。
だって、
これは――
俺が“戻らなかった世界”の
続きだから。
⸻
スマホが、
震える。
通知は、
最初から
開かれている。
【アリウム】
勘違いするな。
忘れられれば
終わるわけじゃない。
君は、
“観測点”になった。
世界が壊れきるまで、
君は
ここに戻される。
今度は、
修正じゃない。
清算だ。
喉が、
ひくりと鳴る。
「……清算?」
⸻
アリウム
ミオは、
もう
元に戻らない。
ユウも、
完全には救われない。
君だけが、
全部覚えたまま
立ち会う。
それが、
“主人公をやめた罰”だ。
⸻
視界が、
滲む。
ミオが、
こちらを見る。
ミオ「ねえ」
ミオ「……私さ」
ミオ「なんで、
こんなに
あなたのこと、
怖いんだろ」
その言葉で、
分かった。
もう、
取り返しはつかない。
戻るたびに、
彼女は
“人”から
遠ざかっていく。
⸻
俺は、
笑ってしまう。
ああ。
そうか。
忘れられることは、
救いじゃなかった。
忘れられないまま、
何も変えられないことが
本当の地獄だった。
⸻
チャイムが、
もう一度鳴る。
始業じゃない。
次の周回の合図。
俺は、
机に額をつける。
逃げない。
もう、
壊れきっている。