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いつの話だ。
昨日?
さっき?
それとも、まだ起きてない?
分からない。
分からないのに、
チャイムだけは鳴る。
鳴った。
鳴ってない。
鳴る前だった気もする。
⸻
机に伏せた顔を上げると、
ミオがいる。
……いる?
ミオ「……」
喋らない。
いや、
喋った。
ミオ「ねえ」
聞いたはずなのに、
口が動いた記憶がない。
影だけが、
先に動いている。
⸻
黒板。
文字が書いてある。
《出席番号》
俺の名前が、
ない。
空欄。
代わりに、
薄く紫の線。
花の形。
……ヒヤシンス?
違う。
アリウム。
⸻
「……誰だよ」
声に出した瞬間、
それが
俺の声じゃない。
低い。
遠い。
遅れて響く。
後ろから、
同じ声が
重なる。
「誰だよ」
振り向く。
誰もいない。
――いや。
俺が、
もう一人立っている。
でも、
顔がぼやけてる。
輪郭が、
定まらない。
⸻
スマホが鳴る。
鳴ってない。
手の中にあるのに、
画面が映らない。
通知だけが、
頭の中に直接流れ込む。
【アリウム】
まだ理解していない。
君は戻っているんじゃない。
世界の方が、
君に追いつこうとして
失敗している。
⸻
教室が、
反転する。
天井が床になって、
床が空になる。
ミオが、
落ちる。
いや、
俺が落ちる。
ミオ「……やめて」
声が、
遠い。
近い。
耳元。
⸻
「やめて」
誰の声だ。
ミオ?
ユウ?
俺?
分からない。
分からないまま、
手が伸びる。
触れてない。
触れた。
記憶が、
上書きされる音。
⸻
場面が、
切り替わる。
駅前。
ユウが、
いる。
スーツ。
疲れた顔。
俺を見る。
ユウ「……」
口が動く前に、
場面が崩れる。
新聞。
見出し。
【身元不明】
顔写真が、
黒く塗られている。
それが、
俺。
⸻
「違う……」
誰かが、
そう言う。
でも、
否定の主語がない。
⸻
ミオが笑う。
ミオ「大丈夫だよ」
ミオ「だって、
何もなかったことに
なるんでしょ?」
笑顔が、
途中で止まる。
表情が、
読み込めない。
バグ。
⸻
チャイム。
鳴る。
また鳴る。
重なって、
重なって、
音が潰れる。
⸻
「……俺は」
俺?
僕?
私?
「……誰だ」
答えは、
返ってこない。
代わりに、
紫色の花が
視界を埋める。
咲いている。
枯れている。
最初から
存在していない。
⸻
【観測ログ】
記録者:不明
対象:不定
周回数:測定不能
備考:
物語は既に崩壊しているが、
終了条件が満たされていない。
⸻
笑い声が、
どこかで聞こえる。
俺のものか、
違う誰かのものか、
判断できない。
ふふ。
……あー。
なんだよ。
⸻
ページが、
終わらない。
次の章が、
始まらない。
でも、
終わってもいない。
これが、
グチャグチャになった世界。
意味も、
罪も、
救いも、
全部混ざって、
――それでも、
進んでしまう。