俺のすべてを君にくれてやる。
今から俺、笹川 凪斗(ささがわなぎと)と、君─雨水 琴音(あまみことね)─との思い出をここに述べる。
この決意が、揺らいでしまわないように……。
2月×日。
第一志望の高校に落ちた俺を励ましてくれたのは、君だった。
「落ちこんでる?」
「……ったりめーだろ」
「私も」
あの時の俺は、君まで俺に失望したのかと正直へこんでいた。だって、そうだろう?
君があんなこと言うなんて、夢にも思わなかったから。
「凪くんがいない学校なんて、つまんないから。辞めようかと思ってる」
嘘とも冗談ともつかないことを君は言った。泣きそうな目で、俺を見つめながら。
「仕方ねえな。……同じ高校に、行ってやるよ」
俺は単純なヤツだ。仕方ないから、同じ高校に行ってやるか。君のために。そうやって、自分の進路を決めた。
第一志望に落ちて、すべり止めの高校に入学。そんな俺を周りのヤツらはバカにしたけれど、気にならなかった。君のためだからと思えば、多少の嫌味くらいは、耐えられんだ。
3月×日。
「今の成績じゃ、ムリなんだけど……」
そう前置きして、夢を語る君の横顔を。俺は、きれいだと思った。
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「はいはい。ちゃんと聞いてるよ」
あの時は、茶化してごめん。でも、本当にちゃんと聞いていたんだよ。動物のお医者さんになりたいなんて。君らしくて、かわいいなと思った。
正直には、言えなかったけれど。
「でもそれ、獣医って言わない?」
「えっ!?」
俺の言葉に、じわりと頬を赤く染めて。でも、少しだけ微笑んで。
「やっぱり、凪くんは頭が良いね」
なんて、君は褒めてくれたね。
「別に。雨水がバカなだけだろ?」
あの時の俺は、どうしてもっと素直になれなかったんだろう?
今でも後悔している。
だって、知らなかったんだ。想像すらしなかった。
君が笑顔でいてくれるのを。
君が俺の隣にいてくれることを。
当たり前の……日常のひとコマだと思っていたから。
3月1×日。
君の母親から電話があった。君が事故にあったと。
「琴音が、車道に飛び出した子どもをかばって……」
それは、あまりにも突然の出来事で。
「雨水……が?」
君の名を『琴音』と呼ぶことすら、できなかった。
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