「――聖女の役目を果たしてください、ヴァレナ様」
突き放すような冷たい声音で、神官・ヨシュカが告げた言葉は、ヴァレナにはこう聞こえた。
――死んでください。
その理由は、ヴァレナの目の前に空いた「穴」だ。
石造りの高い足場のある祭壇に立ち、聖女巡礼の最後の儀式を終えたと同時に現れた、巨大な穴。
「あなたがこの穴に飛び込み、初めて聖女巡礼の儀式は完了します」
動く気配のないヴァレナに、追い打ちをかけるように淡々と語りかけるヨシュカ。
「このときのために、あなたは聖女として、聖獣騎士たちを集め、この儀式を行ったのです」
(そんなこと……わかってる。でも――)
震える手が、聖女の正装であるベールの長い裾を強く握る。
ヴァレナの足は竦んで、進むことができない。
(私、死にたくない……!)
穴に背を向けて振り返ると、反対側の祭壇下には男性が四人――聖獣騎士たちが立っている。
一人は、先ほどからヴァレナを追い詰める声の主、神官のヨシュカ。
「――このために、俺たちを無理やり引っ張って来たんだろ。早く終わらせろよ」
「っ」
三白眼を持つ赤髪の青年――シュヴェルト王国第三王子・レオンが、吐き捨てるように言う。
「これでようやく解放されるんだからな!」
「ああ、オレも元の傭兵生活に戻れるってもんだ」
「っ……」
続けたレオンの言葉に応えたのは、顔に傷のある傭兵のエルヴィン。
(ああ……誰一人として、止めてはくれないのね)
絶望と同時に、ヴァレナの胸には腑に落ちるものもあった。
「聖女サマの目的を果たすまでの付き合いだからな」
「よかったなぁ、散々オレたちを振り回してまで果たしたかった役目が完遂できてよぉ」
(……そう……すべては役目を果たすために、彼らをここまで連れてきた……)
ヴァレナは、聖女の役目を完遂することにすべてをかけていた。
――かつて、剣を取り築いたシュヴェルト王国の土地は、魔物の生息地だった。
しかし、女神の加護を持つ聖獣を宿した聖獣騎士と、その力を束ねる聖女によって、魔物の動きを封じた。
そしてシュヴェルト王国は今――各地で魔物が活性化しつつあった。
女神の加護を失った頃に生まれる聖女が、各地に散らばった聖獣騎士の力を束ね、儀式を行えば、シュヴェルト王国の加護を取り戻せる。
自分はその役に立てるのだ、と――ヴァレナは役目を果たすために邁進していた。
そしてその聖女巡礼の最後の仕上げが――聖女という生贄。
ヴァレナはそのことを今、初めて知った。
「おい、お前も何か言ってやったらどうだ。聖女サマの最期だぞ」
レオンが声をかけたのは、唯一口を開かない青年。
「……」
いつもフードを目深に被ったローブ姿で、ほとんど口もきいたことのない青年の顔を、ヴァレナも知らない。
今ヴァレナを見上げている姿は見えても、フードの奥の目は見えない。
他の聖獣騎士たちと違い、ローブ姿の青年――魔術師のフィンは、感情が読めない口元だけをヴァレナに向けた。
(何も言わないけど……きっと、他の人たちと同じことを考えてるんだろうな)
聖女は、聖獣騎士を率いる力――彼らを従わせる力を持つ。
その力を使って、個人的な事情を口にして旅に出ることを渋った聖獣騎士たちを、無理やり連れてきたのだ。
――だが。
(ただ死ねなんて……死ぬことが、役目を果たすことだったなんて……)
神官ヨシュカは、今も油断ない目つきでヴァレナを見つめている。
(ここにいる全員が、私が死ぬことを望んでいる……私が生きた十八年間は……このときのためだったってことなの?)
絶望が、ヴァレナに諦めの気持ちを植え付ける。
だが。
(でもやっぱり……死にたくない……死にたくないよぉ……)
ヴァレナの意思に反し、膝から力が抜ける。
同時に、バランスを崩した身体は後ろに倒れ――浮遊感。
ヴァレナの身体は、背中から穴の中へ吸い込まれるように落ちていく。
確定した死と落下の恐怖で、目を閉じる。
だが次の瞬間――身体に穴を空けられたような痛みが走った。
執拗に穴を空けられ――獣に噛み砕かれるような衝撃と痛みに耐えられず、ヴァレナの意識は途絶えた。
◆
「――ッ」
死の未来以外想像できないほどの苦痛を感じていたはずのヴァレナは、なぜか目覚めた。
「はっ……はぁっ……はっ……」
空いた穴を確認するように、ヴァレナは自分の身体を抱きしめた。
血が流れるどころか、穴が空いている様子もない。
(な、何……? 夢? それにしては生々しかった――)
傷一つないことを自覚したヴァレナは、ようやく今の自分の状況に気づいた。
見覚えのある顔――自分が生まれ育った孤児院の子供たちが、怪訝そうに自分を見ている。
粗末な木製の長テーブルを子供たちが囲み、目の前にはパンとスープといった最低限の食事が置かれていた。
ヴァレナを見ていない子供たちは、手を組んで目を閉じ、食事前の祈りを捧げる。
ヴァレナはそれを見て、今いる場所が孤児院の食堂であり――聖女として旅立った半年前に戻っていることを自覚した。
(どういうこと……? 私はさっきまで祭壇にいたはずなのに……聖女になる前に、時間が戻ってる?)
今の状況を悟ると同時に、ヴァレナの中に僅かな希望が芽生えた。
――聖女だとわかった当初は、孤児として拾われた自分にもできることがあるとわかって嬉しかった。
だから聖女としての役目を全うするため、尽力してきた。
だが――巡礼の旅は、聖女が生贄になることで終わることを知ってしまった。
聖女を守るはずの聖獣騎士たちからは、その結末を悲しむどころか――喜ばれてさえいた。
ならば――
(――聖女になんか、絶対ならない!)
聖女になってから抑制していた自我が、ヴァレナに強い誓いを立てさせた。
旅に出る前である今なら、その誓いが叶う――だが。
「……え?」
その希望に縋ろうとした直後――祈りをやめていたヴァレナの手が、微かに発光していた。
それを見たヴァレナの顔から、一気に血の気が引く。
(なんでよりによって、「聖女になんかならない!」って決めた直後に、聖女の力が目覚めちゃうの!?)
ヴァレナが聖女となったのは、生贄として祭壇に立つことになった――約半年前だ。
思わずヴァレナは手を下ろし、テーブルの陰に隠した。
「今、ヴァレナお姉ちゃんの手が光ってたよ!」
しかし祈りをやめたヴァレナを見ていた子供が、そう声を上げた。
「それって、聖女の証じゃ……」
子供たちが次々に騒ぎ始めると、祈りの時間を先導していた神官服を着た老齢の男性も気づく。
「本当か? ヴァレナ、手を……」
「い、いやっ!」
歩み寄ってくる神官を見て、ヴァレナは思わず立ち上がった。
手のひらの光は輝きを増し、子供たちの指摘が正しいことを物語る。
(逃げなきゃ……聖女になったら、死ぬしかない……!)
身体に穴が空いた瞬間の生々しい痛みを思い出したヴァレナは、その場から転がるように逃げ出した。
「ヴァレナ! 待ちなさい!」
(いやっ……いやっ……死にたくない……!)
「誰でもいい! ヴァレナを捕まえろ!」
食堂を飛び出すヴァレナの背中にそんな声がぶつけられたが、構わず逃げる。
(普通に外に出たら、捕まる……!)
玄関に向かっていた足を同じ一階にある部屋へ向けると、窓から出た。
どうにか孤児院を出て町中を抜け、町の内外を隔てる門へ向かう。
そこには、外にいる魔物を警戒するための見張りが配置されていた。
(まだ魔物の活性化は始まったばかりだから、警戒は緩い……だから隙を見て逃げれば大丈夫)
そう自分を奮い立たせ、見張りの隙を突いて駆け抜けて町の外に飛び出した。
馬車の移動のため舗装された道からすぐに外れ、薄暗い森を走る。
活性化を始めた魔物に襲われる危険はあるが、追っ手から身を隠すには都合がよかった。
――そもそも、今のヴァレナは魔物に襲われる可能性など頭にない。
聖女になることは、すなわち死ぬこと。
その事実から逃れることしか、考えることができなかった。
しばらく駆け回り、身を隠せる場所を探す。
「はぁ……はあ……とりあえず、ここに……」
古い大木に、人がギリギリ入れそうな洞を見つけた。
狭い洞に身体を滑り込ませ、膝を抱える。
(とにかく聖女にならなければ……聖女巡礼さえしなければ、死なないで済むはず……)
「――見つけましたよ」
ヴァレナの背筋がゾクリとしたと同時に、洞の外に神官服を着た下半身が覗く。
「……え?」
聞き覚えのある声に固まっていると、声の主が地面に膝を突き、洞から顔を覗かせた。
煌びやかな金髪と碧眼を持つ、一見すると優しく穏やかな物腰の青年。
――ヨシュカ・シュラゲンエサー
儀式の末に、ヴァレナに死を突きつけた神官。
(どうして……この人と会うのは、もっとあとだったはずじゃ……)
「その様子だと、私の接近に気づいて逃げ出したという感じでしょうか」
「なんで、ここが……」
「それはもちろん、聖女様と聖獣騎士は多かれ少なかれつながっていますから」
(なんで気づかなかったの……!?)
聖女巡礼は、聖獣騎士を集めることから始まる。
聖女覚醒と共に、シュヴェルト王国内に現れる四人の聖獣騎士を覚醒させ、その力を借りて儀式を行うことで、聖女巡礼の儀式が完了する。
(聖女の祈りが、聖獣騎士を見つける……先に私が気づいていれば、見つかる前に逃げられたのに!)
そこまで思って、ふとヴァレナは気づく。
「半覚醒状態の聖獣騎士が、私を見つけることなんてできたの!?」
聖獣騎士を探すのは、いつも聖女の役目だった。
聖獣騎士のほうから聖女に会いに来ることはなかったので、聖女自ら探しに行くしかなかったのだ。
(確かこの人、私が聖女になった何日かあとに会ったはず……その前から、町に来てたってこと?)
前世の記憶との違いに戸惑いしかないヴァレナに対し、微笑んでいたヨシュカが少し目を見開いた。
「聖女に目覚めたばかりだと思っていましたが、もう聖獣騎士や半覚醒のことまでご存じとは」
「!」
(なんか余計なことを言っちゃったかも……)
「では話が早いです。まずは、私の覚醒をお願いできませんか――」
そこまで言った瞬間、ヴァレナを見上げていたヨシュカの姿が掻き消えた。
代わりに現れたのは――白い蛇。
『この通り、半覚醒状態だと聖獣化をコントロールできません』
聖獣騎士――それは、女神を守る聖獣を宿した者を指す。
聖女が覚醒することで聖獣をその身に宿すが、聖女によって覚醒させない間は、聖獣の力を持て余す。
意図しないときに聖獣化――正確には、聖獣に近い動物の姿になってしまう。
しかも半覚醒状態では、言葉も聖女にしか聞こえない。
「覚醒はさせる……でも、条件がある」
このまま、ただ逃げることは叶わないと悟ったヴァレナは、震える声で呟く。
『条件? なんでしょう?』
「終わったら、私をそのまま見逃して!」
『見逃す……というのは?』
「これ以上、私を追いかけてこないでってこと!」
洞の中で、ヴァレナの悲痛な声が反響する。
碧眼に白い身体を持つ蛇が、ゆっくりと洞の中まで這ってくる。
『それはつまり……聖女の役目を放棄するということですか』
聖女の役目――身に宿した力を使って各地に散らばった聖獣騎士を集めて儀式を行い、シュヴェルト王国に女神の加護を取り戻すこと。
聖女の役目を放棄するということは、女神の加護を取り戻すことを放棄し――活性化した魔物を放置するのと同義だった。
(――だとしても、私は死にたくない……!)
だがその儀式が、聖女自身を生贄に捧げることで完了すると知った今――素直に役目を受け入れることはできなかった。
(人の役に立てるのが嬉しかった……儀式だって成功させたかった……でも……死ぬことでしか役に立てないなんて……そんなの……)
――今のヴァレナは、ただ自分が聖女の役目を果たしたくないという思いでいっぱいだった。
『……そうですか。それは残念です』
いつの間にかに、白蛇姿のヨシュカの頭がヴァレナの足元にあった。
「今、覚醒させるから……一度外に出てて」
返事はなく、白蛇がスルスルと洞の外へ出ていくのを、ヴァレナも追う。
「――え?」
洞の外に出ると、木の周りを囲うように人が立っていた。
ヨシュカや孤児院にいる神官たちと同じ神官服姿をしているが――妙に殺気立った気配が不穏だった。
(孤児院にいた神官たちじゃない……この人が連れてきた神官……?)
異様な雰囲気の神官たちを見て、ヴァレナの頭では警鐘が鳴っていた。
(この人、本当に見逃してくれるの? いや……)
『――聖女の役目を果たしてください、ヴァレナ様』
容赦なく「死ね」といったヨシュカの声が、ヴァレナの耳の奥で再生される。
その言葉で、ヴァレナはあることに気づいた。
(そうだ……この人は、儀式の最後で聖女が生贄になることを……最初から知ってたんだ)
でなければ、儀式の最後にできた穴に飛び込めなどという指示など出せない。
(なら、ここで覚醒させても、きっと――)
『――歴代の聖女様の中でも優秀そうに見えましたが、仕方ありませんね』
要求を呑まずに逃げることを考えると同時に、ヨシュカの声が頭に響く。
『半覚醒状態だと、他の者に私の声が届かないのが不便ですね』
そんな言葉を聞かせると、白蛇は地を這ってヴァレナから離れた。
一番近い神官の足元まで這うと、器用に身体をくねらせ、渦巻き状になって地面に落ち着く。
その動きが終わった直後だった。
「ちょ――」
――ドスッ
言い切る前に、ヴァレナの右足に衝撃が走った。
「……え?」
――ドスッ、ドスッ
次に左足、もう一度右足。
衝撃に遅れて痛みと、身体から何かが抜けていく感覚に気づき――投げナイフで刺されたことを自覚した。
ナイフを投げてきたのは――異様な雰囲気を纏っていた、神官たちだった。
(前は……私が聖女だったときは、こんな人たち……いなかったのに……)
「――この半覚醒状態は、本当に面倒です。意思疎通ができなくなったときのために、合図を事前に決めておく必要がありますからね」
いつの間にか白い蛇の姿は消え、再び他の神官たちと同じ神官服姿の青年が現れた。
「まあ、次の聖女に覚醒をしてもらえばいいだけですけどね」
「つぎの……せいじょ……?」
嫌な予感がした。
今この瞬間も、投げナイフの刺さった足からドクドクと血液が流れている。
だが背筋が凍るのは、このあとの展開を予感してしまったからだった。
「役目を果たさぬ者に、聖女の力を与えたままではおけません」
ヨシュカがヴァレナに歩み寄る。
「っ!」
反射的に逃げようとしたヴァレナの身体は、まともに動かない。
先ほどの投げナイフが脚の腱を切り、歩行不能にしたようだ。
「――聖女の役目を拒否するというなら、死んでもらうしかないのですよ」
ヴァレナが最期に聞いたのは、なんの感慨もないヨシュカの声だった。
――こうしてヴァレナは、聖女の役目を放棄しても死から逃れることはできなかった。
そして――
孤児院での食事前、祈りの時間――派手に椅子が倒れる音と、そこから落ちる音が響く。
その音に反応して孤児院の子供たちが視線を送ったのは――椅子から転げ落ちたヴァレナ。
脳裏に蘇る、容赦ない投げナイフの追撃。
血を流し過ぎて意識が遠のき、途切れた直後――ヴァレナは再び、聖女として覚醒した日に戻っていた。
――祈りをやめたヴァレナの手には、そのことを示す、聖女の証の光。
「っ……!」
誰かがヴァレナを見て声を上げる前に、なりふり構わず駆け出す。
(大丈夫……次は逃げられる……!)
すでに覚醒している今なら、ヨシュカの位置もわかる――騒がしくなった食堂を抜け出し、ヴァレナはそんなことを考えていた。
死の痛みや恐怖、そして嫌な予感を振り払うように、とにかく逃げることだけに集中する。
(絶対、聖女なんてやらない……死にたくない……!)
制止される前に、孤児院の外へ走り抜けた。
だが――ヴァレナの予感は当たってしまうことになる。
(――もう、何回目……?)
絶望に打ちひしがれたヴァレナは忘れてしまったが――聖女の力に覚醒する日に戻った、八回目の孤児院の倉庫の中。
二度目の回帰で孤児院を飛び出したあと、ヴァレナは聖女の力を使ってヨシュカの場所を把握しながら逃げた。
その結果――あのヨシュカが連れていた殺気立った神官たちに不意を突かれて殺された。
当然の話だ。
ヴァレナが聖女の力を使って逃れようとしていることに、ヨシュカが気づかないはずがない。
だがヴァレナは諦めなかった。
差し向けられる神官たちの存在を警戒し、常に身を隠しながら、町の出入口以外の場所から外に出た。
一度素直に聖女になることを受け入れ、旅に出る直前に逃げ出したこともあった。
しかしそれらは、すべて失敗に終わった。
どんなに逃げても捕まり、新たな聖女を迎えるために、聖女の力を持つヴァレナは殺される。
(……どうすればいいの、こんなの)
八回目の現在は、あえて孤児院周辺に隠れた。
町から出ないときが、ヨシュカや連れの神官との遭遇までの時間が長かったからだ。
(でも……これじゃすぐに捕まる……)
すでに、ヴァレナを探す声はそこかしこから聞こえた。
ヴァレナは仕方なく顔を出して辺りをうかがうと、そっと倉庫から抜け出した。
自分を追う声から逃れているうちに、ヴァレナは孤児院に隣接する神殿までやってきた。
シュヴェルト王国が信仰する女神――<プリエートシュッツ>を祀る神殿。
「聖女は親を持たない者から生まれることが多い」といった過去の記録から、神殿側で聖女を発見、管理しやすくするために孤児院が併設されている。
(聖女になっちゃったら、もう逃げるのは無理なのかな……)
石造りの神殿を見つめるヴァレナの胸には、絶望しかない。
「――ねえ」
ふと、声変わり前の透き通った少年の声がヴァレナの耳に届いた。
周りに人影はなく、自分に声をかけたのだと気づいたヴァレナはゆっくり振り返る。
短い黒髪に黒い瞳の、ヴァレナより八つ下――十歳くらいの少年が立っていた。
元は白かっただろう外套が、土埃などの汚れで黒ずんでいる。
(旅人? 子供一人で?)
「アンタ、聖女だよね」
「えっ」
予想外の言葉に、ヴァレナは一気に警戒心を強めた。
(私が聖女だってわかるってことは……聖獣騎士? でも子供の聖獣騎士なんて……)
「どうなの?」
「ち、違う!」
混乱しながらも否定すると、外套の少年は小さくため息をついた。
「まぁ、警戒されるのはしょうがないと思うけど……このままループし続けるのも、いい加減面倒」
「なっ……!」
言葉通り面倒くさそうに今の自分の状況を言い当てた少年に、ヴァレナは言葉を失った。
(次回へ続く)
コメント
1件
グロテスクな描写や痛みの表現がリアルで恐ろしく、主人公の焦燥感が伝わってきて本当に引き込まれます…