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―――
💛視点
…遅い。勇斗を送り出してからもう1時間半以上経つ。
今日はたくさん寝たから眠くはなかったけど。
時計は0時を周りもうすっかり深夜だ。
昨日、俺といた勇斗の携帯に柔太朗から着信があった。
―吉田、酔いつぶれる。
そのまま柔太朗の家に連れて行ってもいいか、と律儀に勇斗に連絡が来た。
…なぁんか嫌な予感がした。
というか酔いつぶれるってなに……アイツ、勝手な行動しやがって…。
いつもふわふわとしていてこちらのペースを全て持っていかれる事ばかりだけど今まで吉田は俺が困るような事は一切していなかった。
―🟡「別にいいよ!本体の為に俺がいるんでしょっ」
いつもそんなふうにニコニコしながら言っていた。
面倒臭いとか、嫌だとか、それくらい自分でやれとか、そういう事は一切言わないアイツを…俺はかなり便利に使っていたと思う。
だってそれは俺の代わりになる為に生まれた吉田だから…
それにアイツも望んでいたからで…
…本当に望んでいた?
そもそもアイツは……………
―バタンッ
💛「あっ…帰ってきた」
玄関の方からドアの音が聞こえて思わず立ち上がる。
ガチャッ
🟡「ただいま!」
💛「……おかえり」
🩷「……」
いつもの調子の吉田と、その横で気まずそうに口を一文字に閉じた勇斗。
💛「……おい」
🟡「あっ、仁人ごめんね?勝手な行動して」
💛「…それは分かってんだ」
🟡「うん。仕事終わったあと柔太朗に誘われてご飯行ったんよ。そしたら俺お酒飲みすぎちゃって」
💛「…飲みすぎんなよ」
🟡「うん、ほんとにごめんっ」
両手を合わせて謝罪する吉田の顔はいつもと寸分たがわず、ついほだされそうになるが…。
🩷「……」
💛「…勇斗はなんか隠してるねー」
🩷「いやあ…」
💛「そもそもなんでこんな遅かったの」
🩷「うん…ちょっと…事実確認をしてまして」
💛「は?なんの?」
🩷「うん、まあ、とりあえず着替えてきていい?」
💛「…」
🟡「俺もー」
なんだか逃げるみたいに寝室に向かった勇斗に吉田が続く。
まじなんだコレ。
今日の事はたまたまなのか?それに…
ひょいと寝室の方を覗くとなにやら勇斗が吉田に真剣になにかを語りかけている。
指示している、に近い感じがした。
吉田が現れたあの日から俺と勇斗で吉田を匿い時に俺に代わって勇斗が吉田の手網を引いていた。
自分と同じ顔の吉田にそういう変な、勇斗となにかあるとかは思った事はない。
勇斗がしっかりしてくれていたから。
けど…今日の勇斗はなにか違う。
…俺に隠し事をしている…?
そう思った瞬間カッとなるのを感じた。
🩷「ごめんごめん」
🟡「お待たせー」
💛「……おまえらさ」
🩷「え…」
💛「なに隠してんの?俺に言えない事でもあるの?」
🩷「…いや、」
🟡「…仁人?」
ドス黒い感情に支配されそうだった。
明確な理由はわからない。
ただ、俺の知ってる吉田は俺に従順で、勇斗は俺に隠し事は絶対にしないヤツで。
……なんか俺、蚊帳の外みたい…?
💛「吉田。」
🟡「はい」
💛「今日なにがあった、言え」
🟡「……えっと」
🩷「仁ちゃん、ちょっと待って…」
💛「うるせー勇斗は黙ってろ」
🩷「…」
💛「吉田。話せ」
🟡「……はい」
俺の明確な怒りを感じ取ったのか吉田は少し身を小さく縮めた。
勇斗も、なんとも言えない焦ったような、困ったような顔をしていて更にイラついた。
―――
勇斗をソファの隣に座らせテーブルの向こうに吉田を座らせた。
いつか買ってきた吉田専用の座布団に座った吉田が俺をじっと見ている。
まるでご主人様に命令されるのをビクビクと待っているような姿にため息が出る。
💛「今日あったこと全部話せ」
🟡「…うん。わかった」
💛「…」
🟡「あの…柔太朗にバレてたと思う」
💛「…え?」
🟡「ううん、柔太朗が俺のこと見付けてくれて、それでご飯の時お酒飲みすぎて」
💛「待て待て待て。意味がわからん」
🟡「あ、ごめん。」
🩷「あのー…仁ちゃん俺も喋っていい?」
💛「…どこまで知ってんの」
🩷「うん、さっき帰る前に俺が事前に聞いといた」
💛「あ…そーなん?」
🩷「うん。だから俺が話してもいい?」
💛「…いいけど」
🟡「…うん」
どういう意味なのかはわからないが隣の勇斗の手が俺の手を包み握られる。
いつもの勇斗の手の感触に少し力が抜けた。
🩷「吉田、今日柔太朗に正体がバレそうになったんだって。でも完全にはバレてない。柔太朗の観察力がエグかっただけ。」
💛「……」
🩷「で、吉田はその事に動揺してお酒を飲みすぎた」
💛「ハァ…」
🩷「で、その後酔いつぶれた吉田を柔太朗が運んで柔太朗の部屋に行ったの。それで…」
話を聞きながら吉田の方を見ると何故か顔がさっきよりも赤い。
なんだ…?
🩷「それで…正体に気付かれたことが嬉しかったんだって」
💛「…は?」
🩷「仁ちゃんじゃない俺を見付けてくれた柔太朗のことが嬉しくて泣いたって言ってた。」
💛「……」
🩷「で………吉田は柔太朗のことが好きになってしまったそうです…」
2秒くらい勇斗を見て固まった俺はバッと吉田に目をやった。
…ゆでダコみたいな吉田がそこに居た。
💛「はい…?」
🩷「…そうらしいです」
💛「なんでそこで好きになるの?」
🟡「だ、だって…」
💛「え?は?おまえは俺と同じなんじゃないの?」
🟡「そうだけど…そうじゃなかった、というか」
💛「はあ?」
🩷「よっしーは今まで仁ちゃんの代わりとして行動してきたけど、初めて自分のままで居たいと思ったそうだよ」
💛「自分…?」
🩷「うん。仁人の代わりじゃない自分。それを見付けられそうになったから焦ったけど同時に嬉しかったって」
💛「……つまり?」
🩷「まー…つまり仁人じゃない自分に気づいて受け入れてくれた柔太朗に恋しちゃったんだと」
💛「えー……」
🩷「名前をつけて欲しいそうだよ」
💛「なまえ!?」
🩷「うん。…言い方悪いけど生まれたてのアヒルの子みたいな感じじゃないかと」
💛「……」
🩷「はじめて見た、見てくれた相手に恋したってことじゃない?って俺は認識したけど」
🟡「なにそれ…むり」
顔を覆って恥ずかしそうに言う吉田に面食らった俺は理解が追いつかず…。
💛「え……おまえ俺のコピーじゃなかったの?めっちゃ自我もってんだけど…?」
🟡「うん…よくわかんないけど柔太朗といるといつもの俺じゃなくなるの…」
💛「それが恋、ってこと?好きなの?柔太朗のことが」
🟡「……ハイ」
💛「……こわ。なんか俺怖いんだけど。吉田には悪いけど。」
🟡「うん…ごめんなさい」
💛「……」
吉田が柔太朗に恋をした…?
なんでよりによって柔太朗?
💛「あの…さ」
🟡「…?」
💛「お前のために言うんだけど」
🩷「……」
💛「多分柔太朗、俺の事好きだぜ?」
🩷「…あ」
🟡「え?」
💛「いや、これも多分なんだけどね?それにこらから柔太朗がどう変わってくのかはわからないけど。」
🩷「……多分ね。吉田、さっき言ってあげれなくてごめんね」
🟡「……柔が」
💛「うん」
🟡「……あ」
ふと顔をあげた吉田が宙を見つめる。
一瞬魂が抜けたような呆けた目をした…
なにかを思い出しているのか。
🟡「そうだった……俺どっかでわかってたのに」
💛「…だよな?」
🟡「…なんで都合よく忘れてたんだろ」
💛「フィルターかかってたんじゃない。恋愛してるとたまになるよねそれ」
🩷「…仁ちゃんも?」
💛「…まあ」
🟡「フィルター…そうか…。柔太朗は仁ちゃんのことが…すき」
💛「だからおまえ頑張るなら死ぬ気でいかないと、俺に勝てないよ?」
🟡「勝つ…」
🩷「…うーなんかつらっ」
💛「ハイハイ…。本当に柔太朗のことが好きなら柔太朗の前では俺を越えないと、多分お前自身は見て貰えない」
🟡「……」
🩷「……」
💛「…ハァ」
―――
あの衝撃的な夜を越えて、吉田が少しずつ変わり始めた。
そして俺も…。
💛「吉田ー今日どうしたい?」
髪をセットしながら吉田に今日の希望を聞く。
するとハッと顔を上げた吉田が嬉しそうに近寄ってきた。
🟡「え、俺が決めていいの?」
💛「うん、来るなら途中終わったら連絡するよ」
🟡「やった!じゃあ行く!」
💛「おっけー。そしたら勇斗にも言っとくわー」
今日は仕事が立て込んでいて、全部5人の現場なので吉田に希望を聞いた。
そこまで疲れてはいないけど別に代わってやらない理由もなかった。
あれから吉田は時々柔太朗と話しているらしい。
帰宅すると「今日柔太朗がね」、と嬉しそうに話してくる。
なんだか弟と話しているような感覚に近い、そんな感じ。
🟡「行ってらっしゃーい」
💛「はーい」
少し前まであった吉田への罪悪感や危機感みたいなものは今はあまり無く、俺は吉田を友人や家族のように親しみを感じ始めていた。
あまり深掘りするのは好きじゃない。
だって元々が超常現象過ぎる存在なのに説明なんてきっとつかない。
俺も吉田も…。
機嫌よく送り出してくれた吉田の顔を少し笑って振り返り小さく手を振った。
―――
🤍視点
💛「おはよー」
🩷「あ、仁ちゃんおはよう」
今日の仁ちゃんは普通の仁ちゃんだ。
というか、俺以外には普通の仁ちゃん。
🤍「仁ちゃんおはよ」
💛「…おはよ。」
🤍「昨日言ってたコレ持ってきたよ」
💛「あー……ごめん、また後で貰うわ、ありがとね」
🤍「…うん」
昨日仁ちゃんと話したアクセサリーのこと。
明日持ってくるよって言ったらあんなに喜んでいたのに、今はとてもあっさりしている。
後でって…いつの事?また雰囲気の違ういつもの仁ちゃんが来たらって意味?
来たら…というのは正しくないのかもしれない。
表現するなら……現れたら、って事かな。
なんとなく寂しさを覚えて立ち尽くした。
―――
その後の仕事はいつも通り進み、みんないつも通り。仁ちゃんも、カメラの前ではきっといつも通り。
違和感を感じてるのは俺だけのようで。
『『おつかれさまでしたー!』』
次の現場までまだ時間はある。
大抵その時間に仁ちゃんは一瞬居なくなる。
💛「〜〜で、」
🩷「うん、〜〜、」
仁ちゃんと勇ちゃんがなにか話していた。
なにかを打ち合わせているような、そんな雰囲気。
すっと2人が離れて仁ちゃんがいなくなる。
勇ちゃんはそれを名残惜しそうに見送っていた。
🩷「あはははは」
勇ちゃんが別の人と談笑し始めたのを確認してから俺は仁ちゃんの居なくなった方へ静かに向かった。
🤍「…なにしてんだ俺…」
人の行動を故意に探る、突き止めようとしている事に気が付いてなんだか後ろめたくなる。
探っても仕方ない。
仁ちゃんは日によって俺に対する態度がかわる。
日によって、というより時間単位で変わったりもする。
その正体が知りたくて、足を止められないでいた。
仁ちゃんが泣いたあの夜の事を俺はまだ説明出来ないでいる。
次の日にはケロッとしたような、普通の顔した仁ちゃんがなんでもない様子でこう言った。
💛「昨日は悪い、飲みすぎたんだわ」
そんな一言で片付けられた。
二人だけの秘密のような時間は、当の本人によって本当にあっさりと締めくくられてしまった。
顔も身体も同じ、変わらない仁ちゃんの中に変わった別の存在を感じる。
そしてそこから好意のようなものまで感じてしまう。
🤍「なんなんだよ……まじ」
独りごちながら廊下を進むと見慣れた人影が目に入る。
どことなく急いだ様子で駆け足で階段を降りていく。
外に出るのか…?
そこまで追うつもりはなかったがついその姿から視線を外せず結局そのまま仁ちゃんを追いかけて俺も外に出ていた。
🤍「あれ?」
一瞬の差で見失ってしまった。
ポツンと立ち尽くした俺はやれやれと諦めて戻ろうとしたが。
🟡「…柔太朗?」
🤍「……仁ちゃん?」
さっきとは違う仁ちゃんがそこにいた。
俺を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくるその姿に、ああ…また会えた…と思い何故だか安心した。
🟡「わー、こんなとこでなにしてるの?しかもそんな格好で!」
🤍「え……あっ、衣装のまま…」
🟡「いや、カッコイイけどね?そのまま外出たらダメだよ〜!」
とびきりの笑顔でそう言われ少し顔が熱くなる。
🟡「中入ろ?」
🤍「…うん」
不意に手を取られ少し慌てる。
そのまま仁ちゃんは俺の手を引き今来た道をまた歩き出した。
🤍「あ…仁ちゃん、昨日言ってたアクセサリー持ってきたよ」
🟡「え!!持ってきてくれたの!?」
🤍「あ……うん、あとで渡すね」
🟡「うん!!嬉しい!ね、今すぐ見たい!」
🤍「……うん」
さっきとは明らかに反応が違う。
というか初めて聞いたような反応に、疑念がまた核心へ近づく。
🤍「こっち、ロッカーにある」
🟡「やったー♪」
🤍「……」
バタンッと控え室の扉が閉まると誰も来ていないようで二人きりの空間になった。
ガチャッ
鍵を開けて小さな紙袋をバッグから取り出すとワクワクした様子の仁ちゃんが俺の手元を覗き込んできた。
🤍「…ほら」
🟡「わあ〜!…めっちゃ可愛い!」
仁ちゃんの手を開きそこにシャラッ…と袋の中身を出してやると嬉しそうな声が上がる。
🟡「すっごく可愛いね!!!てかオシャレ!!」
🤍「…これあげる」
🟡「え!まじ?」
🤍「うん…仁ちゃんに、似合いそうだなって思って持ってきたから」
🟡「めっっっちゃ嬉しい!」
その幼いような、とても素直な喜びの声に頬が緩くなると同時に不思議な胸の高鳴りを感じる。
🤍「…つけてあげる」
🟡「えー、いいの?」
🤍「うん、似合うと思う」
ロッカーの鏡を二人で見ながら首元に細いネックレスを回し後ろを留める。
🟡「可愛いーーー」
🤍「……」
目の前の一段下にある彼のふわふわの髪の毛からシャンプーの香りと愛用の香水の匂いがした。
🤍「……っ!」
…我慢できずに抱き締めた。
鏡越しに彼と目が合う。
🟡「……」
🤍「……」
驚いた様子の瞳が今にもこぼれ落ちそうに見開かれていて…。
🤍「……仁ちゃん……可愛い」
🟡「……」
好き……と言いかけてやめた。
その代わり思った通りのままを口にする。
彼が可愛い。どうしようもなく愛しい。
🟡「………俺は仁人じゃないよ?」
🤍「……え…?」
その言葉に、もう一度鏡を見るとそこに映った彼の瞳が濡れていた。
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