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第8章
壊さずに、壊す方法
第39話:静かな敗者たち
王都の復旧は、静かに進んでいた。
壊れた建物。
封鎖された区画。
それでも人々は、日常に戻ろうとしている。
健は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
(……俺は、勝ってない)
災害は止まった。
だが原因は消えていない。
世界の拒絶も、弱まっていない。
「英雄扱いされないのは、慣れてきたな」
自嘲気味に呟くと、背後から声がした。
「自分で言う辺りが、まだ余裕ね」
エリナだった。
相変わらず感情の読めない表情で、健の隣に立つ。
「あなた、今のままじゃ――
“どちら側にもなれない”」
「守る側でも、壊す側でも?」
エリナは頷いた。
「ええ。 そして世界は、中間を一番嫌う」
健は、無言で拳を見つめた。
第40話:融合を“使わない”訓練
「今日から、訓練を始める」
エリナの宣言は、唐突だった。
「融合を――使わない訓練よ」
「無理じゃね?」
即答だった。
「あなた、歩くのに足を使うのを禁止されたら歩ける?」
「無理」
「でも赤ん坊は、最初から歩けない」
健は、少し黙った。
「……つまり?」
「能力に頼る前の“判断”を鍛える」
エリナは魔法陣を展開する。
そこには、 歪みかけた空間。
だが、融合反応はわずかしかない。
「止めてみなさい。
拳も能力も使わずに」
「え、素手で世界と対話しろと?」
「そう」
健は苦笑しながら、一歩踏み出した。
(……無茶振りにも程がある)
第41話:壊さない拳
健は、深く息を吸った。
融合を“起動”しない。
代わりに、
歪みを“観察”する。
(……引っ張り合ってる)
空間が、複数の法則に引き裂かれている。
健は、そこに手を添えた。
殴らない。
叩かない。
「……落ち着け」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
数秒後。
歪みは、自然に収束した。
健は、その場に座り込む。
「……今の、地味すぎない?」
エリナは、わずかに目を見開いた。
「できたじゃない」
「でも、めっちゃ疲れる……」
「それが、“人間の処理”よ」
健は息を整えながら思った。
(これが……
世界を壊さない方法)
第42話:壊す者と、守る者
訓練場の外縁。
そこに、レオンが立っていた。
「……ずいぶん大人しいことをしてるな」
「そっちは、相変わらず派手だな」
軽口。
だが、空気は重い。
「俺は、止めるために斬る」
レオンは、静かに言う。
「お前は?」
健は、少し考えた。
「……壊れないように、耐える」
レオンは鼻で笑う。
「甘い」
「かもな」
健は否定しなかった。
「でもさ」
視線を上げる。
「誰かが耐えないと、
全部“正しい破壊”になるだろ」
レオンは、しばらく黙っていた。
「……だから嫌いじゃない」
そう言って、背を向けた。
第43話:世界側の動き
同時刻。
観測層。
複数の監査官が、演算空間に集っていた。
「対象《野山 健》
拒絶反応、緩和傾向あり」
「許容誤差、拡大」
「危険」
一体が、結論を下す。
「対処方針を変更する」
映像が切り替わる。
別の名が表示された。
――《融合起点・外部由来》
「“彼”ではない」
「世界を歪めているのは、
別の存在だ」
演算が進む。
「ならば――
人間を使う」
第44話:新たな役割
夜。
健は一人、屋上にいた。
王都の灯りが、遠くに揺れている。
(俺は、万能じゃない)
分かっている。
もう、分かってしまった。
だが――
「それでも、やるしかないか」
拳を開く。
壊す力。
壊さない選択。
その両方を知っているのは、
今のところ――自分だけだ。
背後で、エリナが言った。
「あなたには、役割がある」
「また重たいこと言うな」
「世界と、人の間に立つ役割」
健は、笑った。
「……板挟み専門?」
「ええ」
エリナは、はっきりと告げる。
「それが、
均衡が崩れた後に生まれる――
新しい立場よ」
健は夜空を見上げる。
星は、まだ戻らない。
だが――
確かに、次の段階が始まっていた。
第45話:次の災厄は、人の形をしている
翌朝。
ギルドに、一つの報告が入る。
「各地で、
人工的な融合反応が確認されました」
健の手が、止まる。
「……人工?」
報告書の最後に、こう記されていた。
融合使用者――
人間によるものと推定。
健は、静かに息を吐いた。
(来たな)
世界だけじゃない。
人もまた、
融合を欲し始めている。
「次は……
敵が、俺と同じ場所に立つ」
それは、
これまでで一番――
逃げられない戦いだった。
第8章・了