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『俺はそんな君をずっと見守ってきたし、信頼している。だから君なら良い皇妃になってくれるのではと期待している』
『…………はい?』
……こうひ?
その単語を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になって固まってしまった。
アルフォンス様はクスクス笑い、私の頬に手を添えて見つめてくる。
『フェリ、俺の妻になる気はないかい?』
『つ……っ、つまっ』
大それたお誘いを受け、私はこれ以上なく目を見開いて復唱する。
『驚かせたならすまない。今までずっと兄のように振る舞ってきたから、いきなり求婚されても戸惑うだろう』
彼は照れくさそうに言ったあと、咳払いをして少しまじめな表情になる。
『俺は皇太子として、何人もの女性と会ってきた。結婚相手にどうかと紹介された事もあったし、王族にも貴族にも〝ぜひうちの娘と結婚してください〟と頼まれた事もあった」
そう聞かされても驚かない。
アルフォンス様は美貌の皇太子殿下で、彼の妻になりたがる女性は数え切れないぐらいいる。
皇太子という地位や美貌を抜きにしても、優しくて人を思いやれる方だから、その性格に惹かれた女性がいてもおかしくない。
〝じゃないほう〟の私に目をかけてくれるぐらいだし、帝国の令嬢ならアルフォンス様と接する機会が多い分、私より彼の魅力を知っているんじゃないだろうか。
……そう思うと、嫉妬してしまうけれど。
私の心境を察してか、アルフォンス様は温かく笑った。
『でも俺の心にはずっと君がいたんだ。初めて出会った時はお互い子供だったし、十四歳の少年が五歳の子を恋愛対象として見るなんてあり得ない』
その言葉を聞いて、私は半ば安心しつつ頷いた。
『けれどあの事件がきっかけで、俺は君を気に掛けるようになった。〝泣いてないだろうか?〟〝元気にやれているだろうか?〟〝心ない言葉に傷付いていないだろうか?〟……心配する気持ちはまるで兄のようだが、長い時間想い続ける事によって家族以上の感情を含むようになっていった』
笑ったあと、彼は私をまっすぐ見つめて言う。
『今、君はまだ十四歳だが、生き生きとした美のある女性になったと思っている』
アルフォンス様に褒められ、私はポッと頬を赤らめる。
目立たない地味な存在でも、私は一応王女だ。
加えてジョゼにアドバイスされ、美容にも気を遣っていた。
日焼けしないように努め、美肌ケアもし、好き嫌いなく食べて適度に運動をしている。
レティは好き嫌いがあるけれど、私は何を出されても美味しく食べているので、城のコックと仲が良かったりする。
ジョゼはこうも言っていた。
〝世の高貴な女性は白くて細いほどいいとお思いですが、こだわりすぎて体調を崩しては元も子もありません。きちんと食事をして適度な運動をすれば体型をキープできますし、みんなの仰る〝良さ〟を必ずしもご自身に当てはめる必要はありません。姫様の良さは、健康的な美にあると思っております。流行に踊らされず、あなた様の事を第一に考える私の言葉を信じてください〟
彼女の言う事を信じて実践した結果、私はいまアルフォンス様に褒めてもらえている。
あとでジョゼにお礼を言わなければ。
『……ありがとうございます。私一人の努力ではなく、侍女のお陰でもあります』
お礼を言うと、アルフォンス様はニコリと笑う。
『そうやって侍女に感謝できる点も、君のいいところだ。王族や貴族は傅かれて当然と思いがちだが、君は使用人にも庶民にも感謝の念を忘れずに生きている。庶民でも驕り高ぶる者はいるのに、王女の君がそんな姿勢をとれるのは、誇るべき事だ』
彼の言葉を聞いて、脳裏に城下町の人々が浮かぶ。
確かに彼らとはうまくやれているけれど、すべてが美談でない。
『そうなれたのは、私が〝特別〟ではないからです。私は聖なる力を使えないので、〝持たざる者〟側の気持ちが分かるのかもしれません』
と言っても、城下町のみんなは私より立派な魔術を持っている。
『謙遜しなくていい。王族として、民の目線で物事を考えるのはとても大切な事だ』
アルフォンス様に言われると、薄っぺらく感じる自分の人生に厚みができたように感じる。
『ありがとうございます』
素直にお礼を言うと、彼は満足そうに微笑んだ。
『そういう訳で、俺は君に魅力を感じている。皇妃には気品や誇り高さも必要だが、ただ高圧的なだけでは務まらない。国にとって最も重要なのは民だ。民の心を掴み、支持されてこそ国が発展していく。……そのためには、民に好かれる皇妃でなければならない』
『……私、そんな立派な女性じゃありません』
事実を口にしたけれど、アルフォンス様は優しく笑って首を横に振った。
『そのままのフェリでも、十分魅力的だと言っているんだ』
『……ありがとうございます』
彼の気持ちは嬉しい。
大切に想っている人に認められ、求められて、浮かれたあまり気持ちがフワフワしている。
けれど私の心には常に〝ハズレ姫〟という足枷がついていた。
(アルフォンス様はこう言ってくださるけど、みんなは聖女が皇妃になったほうが嬉しいんじゃないかしら)
卑屈な感情に心が傾くと、なかなか自分に価値を見いだす事はできない。
黙っていると、彼は小さく息を吐いてポンと私の肩を叩いてきた。
『いきなり色々言って混乱させたな。すまない』
『いえ』
『だが君が誰かに見初められる前に、俺の気持ちを伝えたいと思った。君はまだ十四歳で、結婚と言われてもピンとこないだろう。もう少し待っているから、その間に気持ちを整理してくれると嬉しい』
『はい、分かりました』
猶予をもらえると知り、私は安堵した。
アルフォンス様の言う通り、結婚と言われてもすぐに実感が湧かない。
今まで私は、自分には価値がなく、求める男性も現れないだろうと思い続けてきた。
だから求婚されても嬉しいと思うより、戸惑いのほうが大きい。
(もう少し成長して大人の女性になったら、恋心が分かるようになるかもしれない)
早く彼の求める〝理想の女性〟になりたいけれど、心の成熟具合はどうにもならない。
『そういえば、インビジブルハンドの訓練はどうなった?』
話題を変えられ、私は日々の訓練内容や、どれだけ遠くの物に触れ、どれだけ重たい物を持てるようになったかを話し始めた。
**
『……殿下はフェリがお気に入りなのね』
私――レティシアはテラスの窓から庭園のガゼボを見て呟く。
その言葉を聞き、周囲にいた令嬢たちはヒソヒソと言葉を交わし合う。
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