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『〝ハズレ姫〟なのに皇太子殿下のお気を引くなんて図々しい……』
『殿下も聖女様がおいでだというのに、どうして』
『きっと皇太子殿下はフェリシテ様に、聖女様の事を聞かれているに違いないわ』
みんな慰めの言葉なのか口々に好きな事を言うけれど、私の心は曇ったままだ。
フェリは私の大事な双子の妹だ。
彼女だけ聖なる力を持たずに生まれてしまったのは可哀想だと思うし、それが理由で何をするにも遠慮がちになったのは気の毒だと思う。
けれど私や両親、弟がフェリを遠ざけていた訳ではない。
フェリが勝手に疎外感を得て『迷惑になるならいないほうがいい』と家族の輪に入らなくなっただけだ。
でも本人は自分だけが傷付いていて、私たちが彼女に気を遣っていると気づいていないのでは……と思う。
私たち双子は何かにつけて比較されたし、そのたびにフェリは傷付いていただろう。
けれど私だって『フェリシテ様より優れている』と言われて嬉しい訳じゃないし、自分の力をひけらかして妹を見下したい訳じゃない。
でも加護を持っているなら、聖女として務めをこなさなければならない。
私が面白くない公務に赴いている間、フェリは自由気ままに城下町を歩いて民と触れ合っている。
フェリの人気は私の耳にも届き、孤児院を慰問した私を彼女を間違える子供もいた。
『今日は演奏してくれないの? 姫様の演奏大好き!』
そう言われた時、とても複雑な気持ちになった。
フェリは自分なりに、できる事をしているだけだと分かっている。
私は私で、自分のすべき事をこなせばいいはずなのに……。
(……どうしてこんなにモヤモヤするの)
妹が遊びで城下町に行っている訳ではないと分かっているけど、『私だって城下町を自由に歩きたい』と思ってしまう。
私が鳥籠の中のカナリヤなら、フェリは自由に大空を羽ばたく鳩だ。
彼女は私を羨んでいるだろうけど、私だってフェリが羨ましい。
私が決められた毎日を送っている一方で、彼女は積極的に外へ出て色んな人と関わっている。
私も聖女として人と関わっているけれど、聖女の恩恵に授かりたい人に受動的に囲まれるのと、自ら人の中に入って能動的に行動するのとでは天地の差がある。
同じ双子なのに、フェリばかりがどんどん成長しているように思えてならない。
だから私は――、ほんの少し意地悪をしてしまった。
ドレスの好みを尋ねられたら、フェリより先に自分の希望を口にした。
ピンクが好きなのは本当だけれど、いつも同じ色ばかり着たい訳じゃない。
ブルーだっていい色だと思うし、たまに違う色を着ると新鮮味があるだろう。
でもフェリはピンクに強い憧れを持っている。
『ごめんね、フェリ』
だから私は、いつも彼女が着たがったドレスに身を包むのだ。
今日だってフェリの視線を感じて、優越感を抱いていたのに――。
(……どうしてアルフォンス様は、いつもフェリばかり気に掛けるの)
彼とフェリが接点を持ったのは、五歳の時からだと知っている。
確かにあの道化の悪戯はやりすぎだし、妹は傷付いただろう。
でもあれがきっかけでアルフォンス様に特別扱いされるなら、私が道化に馬鹿にされれば良かった。……なんて考えてしまう。
だから私は、周囲にいる令嬢がフェリを批判して私を持ち上げるのを聞いて、少しだけ溜飲を下げた。
そんな彼女たちに、私は聖女らしい笑みを浮かべて言う。
『皇太子殿下は慈悲深い方ですし、フェリを気遣ったのよ。私も彼女に気を回せず、非があったわ』
そう言うと、令嬢たちは口々に「お優しい……」と私を讃美した。
私はそのような形で褒められる事でしか、自己肯定感を上げる事ができなかった。
**
俺――、アルフォンスは二十六歳で皇帝として即位した。
先帝である父カールは存命だが、健康面に翳りが見えたので生前退位の形をとってもらったが、容易い事ではなかった。
もともと父は厳格ながら寛容さもあり、人々から尊敬される人物だった。
父がそのままの為人だったなら、自身の体調を鑑みた上で、息子に帝位を譲る事を承諾していと思う。
だが父は昔の父ではなくなった。
もともと帝国は小国だったが、周辺国と戦って領土拡大していった。
歴代皇帝の手腕の結果でもあるが、それを手助けする陰の力が大きく影響している。
その力は初代皇帝が魔王と契約して得たものだ。
宮殿の地下には魔王が帝国に授けた巨大な魔石があり、皇帝たちは魔王から授かった指輪で魔石の力を引き出し、破壊をはじめ人を操る能力など、様々な力を行使した。
今はそんな力に頼らなくても、〝人〟の力で帝国を維持できている。
しかし古の盟約により、魔石と指輪は代々の皇帝が受け継がなければならない。
もし継承を拒否すれば、帝国は一夜にして滅び、皇帝の血筋は絶やされると言われている。
近年の皇帝なら『魔王との約束を破ったぐらいで巨大な帝国が崩壊する事はない』と考えただろう。
貴族たちの中にも、魔王との約束など破棄して構わないと言う者がいる。
一方で、古くからの約束は守るべきと言う者もいる。
子供の頃の俺は前者だったが、父が年を経るごとに性格を変えていくのを見て、信じざるを得なくなっていた。