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閑話休題「黒瀬のトリガー構成」
訓練室。
個人戦用ブースから出てきた黒瀬を見て、 三上が呆れたように口を開いた。
「……お前またその勝ち方か」
「?」
「いや、“?”じゃねぇのよ」
モニターには、 さっきの個人戦リプレイが映っている。
バッグワーム。
接近。
カメレオン。
ハンドガン連射。
ベイルアウト。
最近よく見る流れだった。
「もう完全にそのスタイル定着したな」
三上が言う。
黒瀬は少し考える。
「まあ、かなりやりやすいです」
「最初ボロボロだったのにな」
「……否定できません」
最初期。
黒瀬はカメレオン解除のタイミングがかなり早かった。
まだ距離が遠い。
まだ射線が甘い。
結果。
反応される。
逃げられる。
撃ち合いになる。
「最初、“見えてから撃ってる”感じだったもんな」
「距離感まだ掴めてなかったので」
だから当時は、 サブマシンガンを入れていた。
奇襲が失敗しても、 そのまま撃ち合いへ移行できるように。
接近できなくても、 最低限戦えるように。
かなり“保険”寄りの構成だった。
「でも最近ほぼ使ってなくね?」
三上が端末を覗き込む。
黒瀬は少し黙った。
確かに。
ここ最近、 サブマシンガンを使う場面がかなり減っている。
接敵前に削ることも少ない。
撃ち合い継続もほぼしない。
奇襲が通るなら、 そのままハンドガンで落とす。
通らないなら、 無理せず引く。
スタイルがかなり固まってきていた。
「……二丁の方がいい気はしてます」
黒瀬が静かに言った。
三上が少し笑う。
「やっぱそうなるか」
「近距離火力上がりますし」
「まあお前の距離感ならそっちのが合ってるわな」
黒瀬は端末へ視線を向ける。
現在構成。
サブ側。
サブマシンガン。
最近、使用ログがかなり少ない。
「あと今の黒瀬、撃ち合い長くしないしな」
三上が言う。
「前より“通る時だけ撃つ”感じ強くなったか?」
黒瀬は小さく頷いた。
昔は違った。
通るか分からなくても仕掛けていた。
でも今は違う。
近づける時。
崩せる時。
有利を取れる時。
そこだけ撃つ。
だから継続火力より、 瞬間火力の方が重要になっていた。
三上が腕を組む。
「んで? 他どうすんの」
「グラスホッパー入れようかと」
「うわ、絶対嫌な動きするじゃん」
即答だった。
黒瀬は少し困った顔をする。
「そんなにですか」
「お前ただでさえどこいるか分かんねぇのに」
三上はモニターを指差した。
「今でも“気づいたら横いる”のに、機動力まで上げるな」
「でも逃げやすくはなります」
「……あー」
三上が嫌そうな顔をした。
「突っ込む用じゃなくてそっちか」
黒瀬は頷く。
「近距離で捕まると普通に負けるので」
三上が納得した様に頷く。
「お前、逃げ切れればもう一回やり直せるタイプたもんな」
かなり黒瀬らしかった。
その時。
後ろからのんびりした声が飛んできた。
「黒瀬くんさらに嫌な感じになるの?」
振り返る。
水瀬だった。
奈央も後ろにいる。
「グラスホッパー入れるか悩んでるらしい」
三上が説明する。
水瀬が少し考える。
「……あー」
嫌そうな顔をした。
「絶対急に消えるやつじゃん」
「結さんに言われると傷つきます」
「私、ああいうの嫌いだもん」
スナイパー視点だった。
位置を捕捉したと思った次の瞬間、 射線を切られる。
かなりやりづらい。
奈央が端末を覗く。
「でもかなり黒瀬くんらしい構成ですね」
「まあな」
三上が頷く。
「正面から撃ち合うタイプじゃねぇし」
黒瀬は新しい構成画面を見つめる。
ダブルハンドガン。
カメレオン。
グラスホッパー。
かなり尖っている。
だが。
今の自分には、 こっちの方が自然な気がした。
黒瀬は静かにトリガーを確定する。
三上がそれを見て苦笑した。
「……また対戦相手のストレス増えそうだな」
――そして数日後。
B級ランク戦。
市街地A。
実況席。
『黒瀬隊、現在二位!』
モニターには、 入り組んだ路地を移動するレーダー反応が映っていた。
「またこのマップかぁ……」
「黒瀬隊こういう地形強いんだよな」
「見失うんだよアイツ」
観戦席の隊員たちがざわつく。
その時だった。
路地裏。
黒瀬が接敵する。
カメレオン解除。
ダブルハンドガン。
至近距離射撃。
だが。
相手アタッカーが反応。
シールド。
『防いだ!』
実況が声を上げる。
しかし次の瞬間。
別方向から銃撃。
挟まれていた。
黒瀬は即座にグラスホッパーを起動する。
横方向へ高速跳躍。
弾丸が空を裂く。
さらに着地と同時に再跳躍。
入り組んだ路地裏へ飛び込む。
『速い! 黒瀬隊員離脱!』
「うわ、逃げ方嫌だなぁ……」
追撃側もすぐ動く。
「逃がすな!」
レーダー確認。
まだ反応はある。
だが。
建物が多い。
視界が通らない。
どこへ曲がった。
どこへ消えた。
判断が遅れた瞬間。
レーダー反応消失。
『ここでバッグワーム!』
「うわ消えた」
「これが嫌なんだよ黒瀬……」
追撃側が足を止める。
深追いは危険。
位置不明の相手を、 この地形で追うのはリスクが高い。
『一旦合流を優先する判断でしょうか!』
相手二人は警戒しながら移動を始める。
その頃。
黒瀬は建物上階にいた。
バッグワーム。
静止。
動かない。
焦らない。
下を通るレーダー反応を見下ろしている。
観戦席がざわつく。
「……待ってる?」
「マジか」
「普通そのまま離脱しない?」
数分後。
市街地中央。
二人の隊員が合流しようとする。
レーダー確認。
反応なし。
――いない。
そう判断した瞬間だった。
建物横。
カメレオン起動。
至近距離、解除。
ダブルハンドガン。
《BAIL OUT》
『うわぁ!?』
実況が叫ぶ。
『ここで再奇襲!!』
「うわ最悪!!」
観戦席から悲鳴が上がる。
落とされた隊員が消える。
残った一人が反射的に振り返る。
だが。
その時にはもう黒瀬はいない。
グラスホッパー。
横跳躍。
射線切り。
再び建物裏へ消える。
――試合終了後。
待機室。
「……グラスホッパー、完全に逃げと再奇襲用じゃねぇか」
三上が疲れた顔でソファへ沈む。
黒瀬は少し考える。
「思ったより使いやすかったです」
「いや相手視点最悪だろアレ」
水瀬がのんびり頷いた。
「だから嫌なんだよね黒瀬くん相手」
「結さんに言われると傷つきます」
「だって見失ったと思ったらまた横いるもん」
奈央も苦笑する。
「かなり黒瀬くんらしい構成でしたね」
三上が深くため息を吐いた。
「……味方で良かったわほんと」
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み ん と