「買い出し、行くけど?」
昼すぎ。カップ麺の在庫も米も切れていたタイミングで、
るかがコンビニのエコバッグを肩に引っかけて言った。
「行ってらっしゃい」
「……手伝えって意味なんだけど」
「言い方考えろや」
渋々着替えて、スニーカーを履いて並んで玄関を出た。
外は曇り空。蒸し暑いけど、風だけは涼しい。
俺は駅前のスーパーに向かうのかと思っていた。
「え、そっち?」
「コンビニじゃ高いでしょ。ドンキ行く」
「ちょ、歩きだとちょっと遠くない?」
「は?運動しなよ。チャリでばっか動いてるから、足音デカいんだよ」
「足音って何だよ」
横並びで歩くには微妙な道幅。
なのに、彼女は俺のペースに合わせるように、
ゆっくりと歩いていた。
⸻
スーパーまでの道中、ほとんど会話はなかった。
けど、ふとすれ違った親子を見たるかが、ぽつりと呟いた。
「…子どもにアイス買ってもらって泣くとか、平和だよな」
「……なんかあった?」
「別に」
言い方は強気でも、
その横顔は少しだけ遠くを見ていた。
「そういうの、嫌い?」
「……わかんない。好きかも」
ふっと視線をそらして、
すぐにいつもの口調に戻る。
「てか、ドンキ着いたら別行動ね。お前、見るの遅そうだし」
「お前が早いだけじゃね?」
「いや、うちが基準だから」
歩く後ろ姿に、揺れるピンクのバッグ。
その中から覗くキーホルダーが、意外と可愛らしいキャラだった。
(あれ、確か昔見たアニメの…)
何も言わずにそのまま歩く。
言ったら「見てんなよキモ」って返されるのがわかってたから。
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