「そして最初に行く国…そこは」
「天龍の国、龍宮だ。」
龍宮には、南北東西、それぞれの方角を守る肆神獣という神に近い存在が居るらしい。そして、龍宮を管理している神は霧氷の神、彼は霧氷を司る神でありながら、真理も司っている。この世界の真理などを聞き出せるかもしれない。 肆神獣も魔龍と神々の戦いに参加していたらしい。もしノアが魔龍だったら神やそれに近しい者達に会うことで、記憶が戻るかもしれないというのがシヴェルの考えだ。もし記憶が戻り、ノアが暴走しても肆神獣の中の一人が邪悪な物を封印する術を使えるらしく、被害を抑えることができるらしい。
シヴェルの隣で会議を聞いていたノアは会議が終わり、皆がその場から去った後。シヴェルに感謝しに行った。ノア自身が魔龍かもしれないのに、シヴェルが一番憎んでいる相手かもしれないのに、少年一人の為に危ない道を選んで歩いている。流石国一つを守る騎士だとノアは思った。
「あの、本当にありがとうございます」
「いいんだ。神と契約した後に俺も疑問には思ってはいたからな。これでやっと疑問が解ける」
「そろそろ暗くなってきたから寝たらどうだ?明日からは忙しくなるからな」
「そうなんですか…?分かりました。では先に」
「あぁ…」
船が天下の国の港から出発してから3〜4ヶ月経っていた。これからの旅に備え、ファルシオに基本的な魔法や治癒魔法を教えてもらった。基本的な魔法はほぼ使えるようになったので、今は治癒魔法を教えてもらっている。下級の治癒魔法は傷の治癒を早くする程度で、中級は小さなかすり傷や捻挫などはすぐに治せる。大きな傷も時間はかかるが治せる。上級は魔力の消費が早いが、致命傷などをすぐに治せる。今ノアは中級を習得しようと頑張っている。
そしてノアは同時にセイレスに護身術を教えてもらっている。覚えていて損は無いとシヴェル達からも武器の扱い方を教えてもらっている。ノアはどちらかと言うと魔法の方が体と相性が良いらしい。 今更だが、初日シヴェルの言っていた「忙しくなる」というのはこのことか、とノアは思った。
そして半年たった日、深い深い霧を掻き分け進むと島が見えた。あの島が龍宮だ。島の港に船を止めて、数分話し合った。
「まずは俺がそれぞれの地方を治める当主達と会って話してくる。それまではここで待っていてくれ」
船に居る全員が賛成し、数日船の中で待っていることになった。
シヴェルは船を降りて港の近くに居る青年にに話しかけた。
「君が伊月であっているか?シヴェルだ。君の主に用があり、来た。案内してもらえるか」
「お待ちしておりましたシヴェル殿。主人の屋敷へご案内します」
薄い氷が張ったような湖の様な瞳。見た目は20から24歳に見えるが顔はもっと若く見える。引き締まった体で、腰に刀を差している。ホライゾンブルーの短い髪はよく手入れされている様だ。伊月の身に付けている銀のブレスレットは桔梗の模様が掘ってある。
「あぁ、ありがとう」
先程から村の皆がシヴェルを見ている。異国の人というのは、ここの人達からすればそんなに珍しい物なのだろうか。
シヴェルは小声で伊月に話しかけた。
「ここではそんなに異国の人が珍しいのか?先程から皆が俺を見ているようだが」
「あぁ…そうですねぇ。最近はほぼ異国人とか村の人達は見ませんから」
「ふむ、そうか」
屋敷に着くと伊月はシヴェルを客室に案内し、主人にシヴェルが来たことを知らせに行った。屋敷、建物の中に入ると龍宮は靴を脱ぐらしい。文化の違いは面白いとシヴェルは思った。
「天下の国の兄ちゃんはじめまして。俺は現当主、焔 火之迦だ。よろしく」
くすんだ薄い紅の髪に、黄金の向日葵の様な瞳。手入れの行き届いた髪は腰より少し下まで伸びていて座るとそれはさらさらと床に広がった。火之迦のチョーカーには 伊月と同様に桔梗の模様が入っていた。
「シヴェル・レディーアテインだ。火之迦殿に願いがありここへ来た」
「天下の国には世話になってる、俺にできることならできるだけ協力しよう」
「感謝する。こちらの願いは…」
「肆神獣様と会って話がしたい」
「…少し、むずかしいな」
「何かあったのか」
「多分、そちらも知ってると思うが、肆神獣様この土地の肆神獣様、神辰様の社に入るには、神玉の埋め込まれた神具が必要だ。それが今は無い。他の土地の奴等も今神具を持ってない」「…神具は受け継いだ者の血筋が管理し、その家より位の高い血筋の者であっても、神具の管理、利用は受け継いだ者の血筋以外は触れることも重罪となる。そうだったよな」
「…兄ちゃん、よく知ってんな」
「だとしたら、その神具は今は誰が持っているんだ?」
険しい顔で火之迦は口を開いた。
「陸辺香 尊だ。今、この国を統治してる家の現当主だ。当主になった途端、好き勝手やり始めたよ…今の龍宮はほぼ鎖国状態だし、 村の奴らは毎日奴隷のように働かされてる。」
火之迦は大きなため息をついた。
「シヴェル、だったっけか?こっちもお願いがある、交渉だ」
「そちらの願いはなんだ」
「俺が尊に渡した焔家の神具、燭籠 斬嘉御津っていう太刀、|半分偽物だ。 埋め込んである神玉、それっぽいやつに変えといたんだ。太刀本体は無いけど神玉があれば、ぎりぎり神辰様、反応してくれるかもしれねぇ」
「俺の願いは、俺ら反乱軍の仲間になって一緒に都軍と戦ってくれないか。勝ったら他の神具も戻ってきて神辰様以外の肆神獣様とも話せるかもしれねぇ」
「少し考えさせてくれ」
「あぁ。分かったいつでもいい、考えがまとまったらまた来てくれ」
そしてシヴェルは火之迦の屋敷から出た。 シヴェル達は肆神獣、霧氷の神との会話。 少しだけだが陸辺香は霧氷の神の眷属の血も流れているらしい。元々そう簡単に神に会えるとは思っていなかったし、肆神獣とも最低一人だけと会話ができたらそれでいいと思っていた。 もし反乱軍に入り、尊に勝てば得れる物が多い。シヴェルは賛成だが一旦船に戻り他の仲間の意見を聞いてから考えることにした。港に帰っている途中。都軍らしき者たちが慌ててシヴェルの横を走り去った。何があったのか分からないが、自分は関わるべきではないと無視した。もう少し歩くと今度は周りの人々に絵の描かれた紙を見せ取り調べをしている様だった。紙の絵は何かのマークの様で、話を少し聞いていると紙に書かれたマークは反乱軍のマークらしい。三輪の弟切草が書かれた模様だ。またもう少し歩くと港の光が見えてきた。シヴェルは少し早歩きで歩くと、急に 路地裏から黒猫がひょこっと出てきた。後ろ姿をこちらに向けた後。こちらを振り向き、鋭い目つきでこちらを見つめていた。まるで「ついてこい」と言っているようだった。何故か胸騒ぎがし、黒猫について行くと。そこでシヴェルが見たものはあまりにも信じられないものだった。
「お前…もしかして…」
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