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座り込んでぐったりとしている。顔が紅く火照っていて熱があることが分かった。体中傷だらけだ、傷から菌が入ったのだろう。髪に隠れてよく見えなかったが、よく見るとその男が身につけているイヤリングは表が桔梗の模様で、裏に三輪の弟切草の模様が入っていた。
(反乱軍の者か…?)
都軍に捕まって拷問でもされて必死で逃げてきたのだろう。その場合先程居た都軍に見つかればまた捕まるだろう。シヴェルはまだ反乱軍に入ると決めていない。ここでこの男を庇えば自分も捕まるかもしれない。そんな事になればこの国に来た意味がなくなってしまう。
でもシヴェルはその男を見捨てることができなかった。
自分が身につけていたマントをその男に被せてからシヴェルが唯一使える転移魔法を使った。
「わぁっ!?シヴェル団長…ってどうしたんですかその人!」
「すまないファルシオこいつを部屋に連れて行ってくれ早く!」
「えぇ…?あっはい!」
会議室にファルシオ以外の乗員を呼び出して緊急会議が開かれた。
「…なるほどなぁ。だいぶ荒れてんな今の龍宮」
セイレスが苦笑いした、シルクが口を開いた。
「要約すると今の龍宮は反乱軍と都軍に別れていて、肆神獣様達と会話するには反乱軍に入らなければ行けないと言うことですね」
「俺は火之迦殿に賛成だが、お前らの意見を聞いて火之迦殿の要望に応えるつもりだ」
その場に居るほぼ全員が賛成した。だがネロだけは反対した。
「…捕まれば連れてきたあいつみたいになるんだろ?別にここに居る全員の実力を舐めてるわけじゃないけどな、もし全員捕まったらどうするんだよ」
「ふん、お前ならそう言うと思ったからその点についてはちゃんと考えてある」
「船に残る者と反乱軍に入る者で分かれる」
残る者達はティティア、エフロレ、フォルトゥナ、ネロ、ラメール。反乱軍に入る者はシヴェル、セイレス、シルク、ノア、ファルシオ。体力が回復次第連れてきた男も。
「ネロこれで問題ないか」
「…わかった」
「今日は遅い、俺は明日もう一回火之迦殿に会いに行ってくる」
「各自準備していてくれ」
深夜、連れてきた男の様子を見ようと薄暗い廊下を歩き、部屋の前に立ちドアノブに手をかけようとしたその時。冷たく鋭い声がシヴェルの名を呼んだ。ネロだ。顔は笑っていた。いつものような周りの人に振り撒くあの腹立たしい顔。しかし彼の夜の様なあの目だけはシヴェルを鋭く見つめていた。
「シヴェル」
シヴェルは咄嗟にドアノブから手を離した。
「なんだ」
「なぁ、お前は何でそいつを連れてきたんだ?困ってる奴を助けるのが騎士団長の務めだからか?お前の良心が痛んだから?いや違うな_」
ネロはシヴェルの前に立ちシヴェルを嘲笑う様な声で話しかけた。
「アイツにそっくりだったから?」
シヴェルはネロの胸ぐらを掴み、壁に押し付けた。その時のシヴェルの瞳は怒りで満ちていた。ネロは予想通りだと言わんばかりの顔をし、喋りだした。
「なぁシヴェル、これは警告だ。お前のちょっとした行動、言動一つでこの船の乗員の奴らは運命が左右されるんだよ。だからちゃんと考えて行動しろよ」
「…お前に何が分かっ_」
ネロはシヴェルの頭を自分の方に寄せて小さな声で囁いた。
「また、前の様になりたくなければな」
シヴェルはゆっくりと胸ぐらから手を離した。
「じゃ、また明日」
シヴェルに背を向け、手をひらひらと振りネロは薄暗い廊下を歩き出した。
「…」
シヴェルはドアノブに手をかけ扉を開けた。その部屋のベッドに寝ている彼はあまりにもシヴェルの知っている者に似すぎていた、だがシヴェルはその者がもう亡くなっている事を分かっていた。シヴェルは確かに見た、彼の死際を。シヴェルは赤黒い血で汚れた彼の体も、彼の生命の光が消える瞬間もちゃんと、この目に焼き付けている。ここにいるこの男が彼がじゃないということはシヴェルは心では理解していた、でも体が言うことを聞かなかった。シヴェルは彼によく似たこの男を見殺しにすることはできなかった。
「また、 前の様にお前をに失いたくなかったと言ったらお前はきっと笑うだろうな…」
シヴェルはそう呟いた。