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僕は館の外に出た。
そして、しきりにあの髭の男の姿を探す。
全速力で走ったせいで乱れた呼吸を整えながら。
すると、そう遠くない場所で言い争っているのが見えた。
髭の男「こっちは急いでいるんだ!馬車はあとどれくらいかかるんだ?!」
髭の男は血相を変えながら細身の男を問いただしていた。
細身の男「そんな急に言われましても、順番ですから、もう少々お待ち下さい。旦那様。」
細身の男は忙しそうに整理券を渡しながら答える。
馬車待ちをしてるのは、おそらく八組くらいだろうか?
細身の男「はい、貴方は八番目となります、整理券をどうぞ。」
髭の男は不満そうに細身の男から整理券を奪い取るとフン!と背を向けた。
髭の男は不満そうだけど、僕としては幸運だった。
襟元を正し、ぐしゃぐしゃだった髪を少しばかり整えると僕は髭の男の近くへ、さり気なく並んだ。
そして細身の男から九番目の整理券を受け取ると彼に耳打ちした。
僕「お代は弾むから、八番目の馬車と相乗りさせて貰える様にしてくれないかい? 」
そう言うと僕は腕に着けていた高そうな時計を細身の男に渡すふりをした。
すると細身の男の目の色が変わり、受け取る仕草をしたところで僕は一言付け加える。
僕「上手く、やってくれたら、ね?」
念を押した。
違和感なく、相乗りに持ち込みたかったからだ。
細身の男はそれを聴くと、僕に目で分かったとしっかり頷いた。
そうして、細身の男はそそくさと髭の男の傍に行くと、小さな声で交渉を持ちかけ始めた。
相乗りに出来れば、後はなんとでもなる。
僕には考えがあった。
いや、そんなに大した考えという訳でもないが。
髭の男についていくことで、僕と繋がりがあるのかどうか、一つはわかる。
とても小さな″確か″だが。
そして、もう一つはその″白い花″の存在を知る事。
白い花というものは、きっと沢山あるのだろう。
だが、この髭の男は少なからず植物や薬品の知識があるに違いない。
その知識に触れる必要が僕には、ある。
だから、この機を逃すわけにはいかなかった。
高価な時計など、記憶の欠片と比べればなんてことない対価である。
時計で足りなければ指輪でもネックレスでもなんでも、渡せるものはくれてやる気でいた。
記憶より大切なものがあるだろうか?
記憶は己自身と等しく、唯一無二のものなのだ。
何かで埋める事も、代えも効かないんだ。
例え思い出せずとも、身体が憶えていることもある。
その小さな一つ一つのヒントを集めればやがて…
僕は、途方もないことをしようとしているのかもしれない。
これから先、何十年とかかることをしようとしているのかもしれない。
そう思ったら、ただ怖がって逃げてはいられなかった。
掴みにいかないと知らずと手の中から、砂のように零れ落ちてしまうかもしれないんだ。
失うことを怖れるより、掴みに行こうと、思った。
それで失敗しても、どうせ何が正解で、何が不正解なのか、僕にはわからないのだから。
僕は、眼光鋭く、決意したんだ。