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残業に、残業。毎日誰もいない駅を歩いていた。明日は休みだ。あと少し頑張れ、私の脚。今日はタクシーを使わず歩くぞ。自然と前を向いて歩くようになれた私は、来都くんに会えたらこの間のラジオのことを聞こうと思った。
少し歩いたところにあるタクシー乗り場は、私の家の通り道だった。そこには、見慣れた影があった。来都くんだと思う。話しかけようと走ったが、間に合わなかった。明日こそは会えるといいな。そう思って家に帰った。
休みが突然すぎて、遊ぶ友達もいなかった。
「今日は家でのんびりするか…」
そういえば、引っ越してきてからゆっくり家にいられたこともない。久々に掃除でもして、久々に買い出しにも行こう。ど平日の昼間にこの辺をうろうろできるのも初めてかもしれない。少しワクワクしながら散歩した。
少し歩くと、来都くんに会えた思い出の公園がある。あの頃の私はものすごく暗く、下を向いて歩いていた。今日は天気もいいし、座ってコンビニの弁当でも食べることにした。
しかし、1人でピクニックをするには、目立ちすぎた。みんなが私をジロジロと見ながら通り過ぎていく。恥ずかしすぎて、黙々と箸をすすめた。
「ねえもしかして!」
大量に米を頬張っている時に、来都くんの声が聞こえた。やばい。こんな顔、見られたくなさすぎる…急いで飲み込もうとしたら、盛大にむせてぶちまけてしまった。
「大丈夫?ごめん…これ飲んで!」
来都くんは飲みかけのお水を差し出してきた。え?どういう状況?間接キス?喉に詰まって苦しい上に、胸の鼓動でさらに苦しくなった。考える間も無く、差し出された水を飲むしかなかった。
「ハハッよかった…ごめんね本当に!窒息しないでよかったよ!」
やばい…って顔をしていた来都くんが、いつもの高笑いで場を和ませてくれた。お陰様で、”窒息”もしないで済んだ。
「ところで隣いい?ちょっと休憩!」来
都くんはランニングの最中だった。あっ、そうだこの間のラジオのことを聞かなきゃ。せっかく会えたことだし、私のことじゃなくてもいいや。恥ずかしい思いはもうしてしまったから、やけに勇気があった。
「そういえば…」「そういえば!」
ハモってしまった。恥ずかしい気持ちが勝って、むせたフリして来都くんに話を振った。
「そういえば、この間のラジオ聞いてくれた?」まさかの同じことを聞こうとしていた。
「あの日、タクシーに乗ってて聞いたの!あれって私のこと?笑」
口が滑ってついガツンと聞いてしまった。すると、来都くんはたくさん頷いた。
「僕ずっともものことが忘れられなくて、今も頑張ってるのかなあって夜を過ごすことが増えたんだよ。聞いてくれてよかった!ほら、僕にエールは?」
私のことだったんだ…とわかった瞬間、鳥肌が立って現実がわからなくなった。あ、そうだそうだ。エール、エールね。
「来都くん!いつもお疲れ様!」
飾ったことが言えなかった。普通の言葉しか出てこなくて自分を責めた。恥ずかしくて仕方がなかった。
そしたら来都くんから突然両手で手を握って、
「僕も頑張るから一緒に頑張ろうね!」
って言ってくれた。テレビで見るよりも何億倍もカッコいい笑顔で、私を見つめながら…倒れそうになった。多分、これも夢なんだろうと。