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「佐伯佳奈さん。あなた最近、何か良くない事をしてないかしら?」 私の机の前に、桜子ちゃんが仁王立ちしてる。その目つきの冷たさと言ったら、冬も本格的になってきた今の季節より、ずっと冷ややかだ。
声は柔らかくて穏やかなのに、その声に含まれる圧と目線は、結構迫力がある。
それはさておき、桜子ちゃんが、向こうから接触してきたんですけど。二年の三学期になるまで、ほとんど絡み無かったのに。
なんで今頃。いや、こちらとしては手間が省けますけども。
「よ……良くない事とは、具体的にどのような?」
良くない事をしてるだろうと言われたら、私の存在自体が良くない。この世界にとってイレギュラーな、情報屋というキャラをやってる事がそもそも良くないのだけど、桜子ちゃんの癇に触るような事はしてないはず。
「みんな佐伯さんの名前を出すと、不安そうな顔をするの。佐伯さん、何かしでかしたんじゃないの」
それは多分、私がヒロインちゃんと距離を取るようにした結果、みんなにやたらと心配されるようになった件だ。
それもまあ、良くない事と言えば良くない事なのだけど、仲が良い故の反応なのだから、悪業ではないだろう。
「私が最近色々ありまして、お誘いを断っているので、心配させてしまっているのですよ。私用のためだと再三再四、申し上げてはいるのですが」
「……そう、それなら良いんだけど」
明らかに疑われてる。若干、軽蔑の色が混じってるような気がする。
うーむどうする。このまま流すべきか、何か弁明するか、いっそ営業トークに入るか。
軽蔑されたままは嫌だし、ここで弁明するのは、言い訳っぽすぎるかもしれない。
なら、営業だ。どうせ怪しまれてるんだから、胡散臭い言動をぶつけたって、これ以上マイナスにはならないだろう。
「ところで藤原さんは、お悩みなどはございませんか?
私、佐伯佳奈は、皆のお悩み、具体的には恋のお悩みや、喧嘩騒動などを解決して回った結果、席の温まる暇も無いほど羨望を集めまして、お誘いを断らなければならないほどになりました。
藤原さんは、私を疑っているご様子。一度実例を見ていただければ、その疑いも晴れましょう」
桜子ちゃんは、当然というかなんというか、露骨に困惑している。
怪しんでる相手に、いきなり営業かけられたら、そりゃ困惑もする。いや、怪しんでなくても、急な営業は困惑するか。
桜子ちゃんは、困惑しつつも、興味がなくはない、という顔をしている。
ふふふ、分かっているぞ。
いくらガードが固くても、桜子ちゃんはギャルゲーヒロイン、そして思春期真っ只中。興味を持たずにはいられまい。
「それはまあ……、私だって悩みくらいあるわよ」
よし食いついた、食いついたけど、その内容までは言わないか。ここは、こちらからグイグイ行くか。
「ほう、一体どのようなお悩みでしょうか」
問いかけに対して、桜子ちゃんは、ちょっと悩む様子を見せたあと、小さな声でぼそりと呟いた。
「朝倉君が、私にプレゼントくれたりするのって、そういう事よね? 応えてあげた方がいいのかしら」
あれ、もしかして、これまで好感度が上がりにくかったのって、ず〜〜っと保留してるだけだったりします?
ガードが固いというより、恋愛の仕方を知らないだけだったりします? 分からないから、気持ちをどう持ったらいいか、応えていいのか悩むっていう、そういう事?
「はい、朝倉くんアレはそういう事です、私も相談されました。藤原さんが、答えを迷っていらっしゃるのは、どのような理由で?」
好感度が上がらない理由が、桜子ちゃんの恋愛下手が原因だとしても、浮気男嫌いの件もあるし、理由は知っておいた方が良さそうだ。
「うちの親、結構厳しくて、男の人と遊ぶって事をさせてくれなかったの。それなのに、そろそろ恋の一つでもしろなんて、急に言い出すんだもん、イヤになっちゃう」
親が厳しいのは、ステータスにも書いてあったな。でも、桜子ちゃんは警戒心を育てつつ、親の言いつけには辟易としてたんだなぁ。
「私、そんなだから、男の人と、どうやって付き合ったらいいのか分からないの。その上、あちこちに唾付けて回ってる朝倉くんでしょ? 私が付き合える相手なのかなって」
うぶな自分と、遊び人の朝倉くん。桜子ちゃん目線だと、そういうふうに見えるんだろうな。
そう見えちゃってる原因の一端は、私にある。とりあえず、ヤリチンではないという事だけは、伝えておくべきだよね。
「まあ、非常にモテるので、女の子の友達も多いですが、あくまで友達関係で、藤原さんが思うような、ギラギラした男性ではありませんよ」
朝倉くんは、エンディングのイベントが起こるまでは、恋人関係まで発展しないんだから、現状でのヒロイン達は、友達でしかない。
だから、嘘は言ってない。もう結婚してても不思議じゃないレベルでスキスキアピールを食らいながら、いまだに友達をやってるとか、常識的に考えたらだいぶ変だけど、この世界がそうなってるんだから仕方がない。偽らざる真実だ。
「そうなの? それなら、もう少し親切にしてもいいのかしら」
現状の桜子ちゃんは、物凄い塩対応を朝倉くんにしてるから、多少は塩抜きしてもらいたい。秋田のぼだっこから、一般的な塩鮭くらいにはなってもらいたい。
「そうしてあげると、彼も喜ぶと思いますよ」
「そうね……、でも、今まで厳しくしすぎた気がして、ちょっと気まずいわね」
確かに。急に桜子ちゃんの達度が軟化したら、朝倉くんも不思議に思うかもしれない。
不自然にならず、且つ、私自身も嫌な思いをしない方法となると___
「では、伊集院さんのお家でされているお茶会に来ませんか? 男女問わず大勢集まるので、そこで親交を深めるというのは、いかがでしょうか?」
サシでの対話は気まずくても、大勢の中でなら、気まずさもいくらかマシだろう。
朝倉くんには話を通して無いし、マヤちゃんの名前も勝手に使っちゃったけど、まあ、どっちも快諾してくれるでしょ。
特にマヤちゃんは、私が久しぶりに参加すると聞いたら、大喜びで用意してくれそう。
「いいの? 私、伊集院さんとは、あんまり仲良くないんだけど」
「その点は心配ございません。伊集院さんは、友達が多いに越した事はないという考えですから、誰とでも仲良くしてくれる方ですよ」
「というか、本人が居ないけど、いいの?」
「ご安心ください。私と伊集院さんの仲でございますから、まず断られません」
結局、桜子ちゃんもお茶会に来る事になり、マヤちゃんは案の定、大喜びで受け入れてくれた。
これで、桜子ちゃん攻略の糸口は掴めた……掴めたよね? ヒロインちゃん達とも、久しぶりに遊べるし、お互い楽しめたらいいな。
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