テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#あべさく
もずくぷりん
1,718
愛月☆
1,903
junp_Sn-Fk.
9,250
11,936
六月。
大会まであと一週間。
放課後の体育館には、いつも以上に張り詰めた空気が流れていた。
「もう一本!」
顧問の声が響く。
照は汗を拭く暇もなくコートを走り続ける。
練習が終わった頃には、制服に着替える気力もないほど疲れていた。
「お疲れ」
「お疲れー」
部員たちが次々と帰っていく。
照もバッグを肩に掛け、昇降口へ向かった。
その途中。
ふと保健室の明かりが目に入る。
まだ電気がついている。
(こんな時間までいるんだ)
何となく足が止まった。
別に用事はない。
そのまま帰ろうとした時だった。
「失礼します!」
女子バスケ部の生徒が保健室へ駆け込んでいく。
照は少し離れた場所から様子を見た。
深澤はすぐに立ち上がり、椅子を引く。
💜「どうした?」
「指を突いちゃって……」
💜「見せて」
慌てる生徒とは対照的に、深澤は落ち着いた声で処置を始める。
「痛い?」
「ちょっと……」
💜「骨は大丈夫そうだけど、今日は冷やそう」
その様子を見届けて、照は静かに歩き出した。
(みんなにああなんだ)
少しだけ安心した。
自分だけ特別に優しいわけじゃない。
深澤は、誰に対しても同じだった。
────────
翌日の昼休み。
照は保健室へ行かなかった。
教室で友人と弁当を食べ、くだらない話で笑う。
その翌日も。
その次の日も。
保健室へ行く理由がなかったからだ。
────────
金曜日。
六時間目。
体育館で大会前最後の実戦練習。
終了の笛が鳴った瞬間。
「よし、今日は終わり!」
部員たちがほっと息をつく。
照もタオルで汗を拭いていると、顧問が近付いてきた。
「岩本」
💛「はい」
「大会前だからな」
「無理だけはするなよ」
💛「大丈夫です」
「その”大丈夫”、保健の深澤先生も言ってたぞ」
照は思わず顔を上げる。
💛「え?」
「職員室で会った時にさ」
「『岩本くん、頑張り屋だから心配です』って」
「先生、ちゃんと見てくれてるんだな」
顧問はそれだけ言って体育館を出ていった。
照はその場に立ったまま動けなかった。
(……見てくれてたんだ)
保健室で会う時だけじゃない。
自分がいないところでも、気に掛けてくれていた。
それが少しだけうれしかった。
────────
その日の放課後。
照は保健室の前まで来ていた。
ノックしようとして、手を止める。
(いや……)
(用事ないし)
結局、そのまま帰ろうと踵を返す。
すると、ドアが開いた。
💜「岩本?」
照はびくっと肩を揺らす。
💜「どうした?」
💛「……いや」
💛「通りかかっただけです」
深澤は少しだけ笑う。
💜「そう」
💜「大会、頑張ってね」
その一言だけ。
照は軽く頭を下げた。
💛「ありがとうございます」
保健室を後にしながら、照は小さく息を吐く。
“頑張って”
その言葉はなぜか、顧問や友達に言われるのとは少し違って聞こえた。
その理由は、まだ照自身も分からなかった。
コメント
3件
それは〜 好きだかr(((殴
うふ(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)♡
読んだわ。第5話、めちゃくちゃいい空気感だった。 照が深澤先生の優しさを「自分だけじゃない」って気づいて、ちょっと距離を置くところ、すごくリアルだった。で、先生の方から顧問通して気にかけてくれてるって伝わってくる流れ、刺さるわ。最後の「頑張って」が照の中で特別に聞こえるの、まだ自分でも理由が分かってない感じが青春すぎる。こういうじわじわ来る距離感、めっちゃ好き。