吐きそうな気もちを抱えて、あたしは今日もステージに上がる。
どこかでまた、高校の同級生の目が、こちらをじっと見ているのかと思うと、
足がぶるぶると震えて止まらなくなるほどだった。
それでも、このツアーを最後にすると自分自身で決めたからには、
せめて完ペキにやり遂げたかった。
だって、これを逃したら、あたしにはもう歌う機会もないかもしれないんだもの。
なら、どんなに苦しくたって、ちゃんとアイドルらしく終わりまでは過ごしていたいから。
──あたしの自作の歌は、ツアー最終日のアンコールで、一度だけ歌うことになっていた。
20曲近くを歌い切って、ステージを降りた七瀬リオに、
「アンコールッ!」
「アンコールッ!!」
と、たくさんの声が飛んでくる。
割れんばかりの手拍子と歓声に包まれて、あたしは満を持してアンコールのステージに立った──。
何を歌うんだろうと、みんなが息を呑んで見守る中、
突然に、あたしの誕生日を祝うハッピーバースデーが流れ、ワゴンに乗せられたケーキが運ばれてくる。
「ワァー! お誕生日おめでとうー!」
「ハッピーバースデー! リオちゃん!」
会場から、口々に声がかかり、
あたしは、「すごーい! 信じられない!!」なんて、大げさに驚いて見せる。
けど、本当はこれはわかってたこと。
だって、リハーサルでもケーキの演出はやってたことだし。
サプライズでもなんでもない。ただの、やらせ。
ケーキに灯されたキャンドルを吹き消すと同時に、照明が落とされ、ステージは真っ暗になる。
そこへ1本のスポットライトが当たり、七瀬リオの姿を映し出す。
スポットライトに照らされ、あたしは歌い始める──。