「さすがに重いですね」
重たい鞄と手渡された袋を覗く
爽やかな香りとは裏腹にずっしりとした黄色い果実が顔を見せる
あぁしっかり断ればよかった
前に無償で治した患者さんに会い、実家が農家で毎年沢山貰うからお裾分けをしたい、腐らせたくないからと頂いたのだが
思っていた量ではなかったのだ
3個くらいかななんて
正直舐めていたのだ、農家のお裾分けの恐ろしさを
鞄に詰められ、なんなら箱を車に積まれ
袋を手渡され足早に送り出された
もう逃げる術を失った私は足早に家に戻り
後悔と共にスタッシュに詰め込んだ
「もう、どうすれば良い」
先ほど貰ったレモン達眺め現実を逃避するしかない
3食レモンまみれの生活をすることになるのかなこれ
「ひとまず何か作るか」
何かに使おうと思った大きめの瓶が2つある
ケインさんがレモネードが、好きだと言っていたな
好きすぎて頭の中が、ホットドッグになったんだっけな
最悪レダーさん達にも押し付け
いや沢山お裾分けしよう
農家さん直伝のレモンシロップを仕込む
レモンを、洗い軽く周りをキッチンペーパーで拭く
朝食べようと思っていたりんごもついでに拭く
キュッキュと周りを拭くとキラキラと磨かれていく
「そういえば、あの機械どこにレモネードが、入る隙間が…」
どこになにが入ってるのだろうかなんて
疑問を抱きつつ、レモンに罪はないので消費して貰おう
レモン達をとんとんと薄めにスライスしていく
途中で輪っかが、切れてしまったレモンを興味本位でパクりと味見をする
「ーーッー!」
ゔぁぁあすっぱ
思わず声にならない悲鳴をあげた
衝撃から逃れようと足をバタバタと酸っぱいダンスしてしまう
鳥肌も凄い、ぞわぞわする
口がいたくなり唾液がだばたばと出る
あぁこりゃヤバイぞ、口が常に酸っぱい
動きすぎてガンっとテーブルにも足をぶつけてしまった
おのれ、レモン、貴様の罪は重いぞ!
思わずキッとレモンを、にらむ
にらんだ相手は変わらずすまして爽やかな香りを振り撒いている、相手が悪かったな
「はぁ、作るか」
もう正直萎えているが仕方ない、ここまで来たから作ってしまおう
スライスしたレモンを入れていく
隠し味にリンゴも時折入れていく
交互に層になっていくのは見ていて楽しい
重ねていくうちに何かに忘れていたことに気づく
あぁ蜂蜜だ、このときのために買っておいたんだった、黄金色の輝く幸せをトロリと落とす
蜂蜜は、蜂の人生を貰ったもの
大切に使わせて貰おう
明日の朝のトーストは蜂蜜をたっぷり使おう
紅茶にもレモンの輪切りを入れてレモンティーにしてしまえば、レモンは消費できるだろうか
シロップの仕込みはできた
3日後楽しみだと蓋を閉めた
まずは紅茶を飲もうとヤカンに水をいれ
まだまだあるレモンの山を見ないふりをした
これが3日前の話だ
現在もこの貰ったものに苦労をしている
ちまちまと唐揚げにかけてみたりしたが全然減らない
なんならパスタやら、魚やら、紅茶やらに使用しても使う量が使う量なのでなくならないのだ
さすがに箱のレモンの消費はとてもきついのものがある
現実を逃避するために冷凍庫にさく切りレモン一袋作ったがきっとこれはお酒の時にしか使わないだろう
自分一人でどうにかできる量ではない
つまりやることは決まっている
というかもうそのつもりである
「よしやりますか、お裾分け」
ジャムを作ろう
消費するにはジャムが一番良いだろう、余ったらホットケーキにでも混ぜ混んでしまえば良いのだ、上から垂らしてもきっと美味しい
そうと決まれば後は早い
レモンを塩で擦り洗いをして、ザクザクと乱雑に切って、大きい鍋にぽいぽいといれていく
7分目ほどいれると既に圧巻であるがここで致死量の砂糖をドサドサと
「うわぁ…砂糖2袋なくなった、ヤバイですね、これは」
今、お裾分けを大量に作ろうとしている私しか見れない光景だろう、雪山ができている
砂糖の雪山である
火を入れればこの雪山は消えるだろうが、きっとこれはしばらく記憶に残る
思い出になるだろうか
カチッと火をつけ、木ヘラで山を開拓する
甘い匂いに頭をくらくらさせながら
果汁が混じった白い物をひたすら混ぜる
混ぜて、混ぜて、混ぜて、混ぜる
甘い香りとレモンの香り、透き通りグツグツと煮える指に跳ねたそれをちらりと味見をする
まったりとした甘さとさっぱりとしたレモンの酸味が
良い
でもこれは…
「後味が苦い、皮を剥くべきだったな」
でもお陰で、さっぱりするな
これでパウンドケーキを作っても美味しいかもしれない
バター1本と山盛りの砂糖のジャムを使い作るお菓子
それはそれはカロリーはバカにならないが、それが幸せの塊と言うものだ
まあパウンドケーキは次回にしよう
今回は3日前に仕込んだレモンシロップと今、作っているジャムをお裾分けするつもりだ
炭酸で割ればレモネードになる優れもの
たっぷりの蜂蜜と隠し味のりんごが入ったそれは
お酒と割っても旨いのだ
渡すために2瓶ほど作ったが既に1瓶は一時間前に消えてしまった
腹の底へ
私は悪くない
「そろそろいいですかね」
グツグツと艶やかに踊るジャム達を火から下ろし、濡れたタオルの上に置き冷やす
その間に瓶達をお湯に潜らせ、火傷しないように取り出し
お玉を用意して、あら熱が取れたつやつやしたジャムを掬う
中くらいの瓶達を、並べゆっくりと溢れないようにコポコポと粘度があるジャムをいれていく
渡すものだから、しっかりとたっぷりいれ、とんとんと気泡を抜いていく
「大丈夫ですかね」
周りについていないことを確認して
冷凍庫に冷やしてあった大きい瓶を取り出す
中の液体がトロリと揺れた
《皆さんどちらにいますか?》
《ん?今みんな砂漠の俺の家にいるよ》
《渡したいものがあるのでいきますね》
《は~い!待ってるね》
テラテラと輝く瓶達の蓋をキュッキュと閉め、作ったものを紙袋に詰め込み、急ぎ足で車に乗り込む
サイドミラーに写る己の顔は酷く穏やかだった
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