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***



天莉あまりに、「するなら……ちゃんとベッドで抱いて欲しい……。ダメ?」と潤んだ目で見上げられたじんは、すぐさま天莉を横抱きにかかえ上げた。


「ダメなわけがないだろう!」


せっかく熱い湯を張った浴槽には浸からず終いだったけれど、この際そんなことはどうでもいいと思って。


家ならば激情に駆られるまま、お互い濡れた身体のままベッドへ雪崩なだれ込むところだけれど、ここはホテルの一室だ。


そんなことをして客室係の手を煩わせることを、天莉は望まないだろうと思い至った尽だ。


幸い二人とも髪の毛はそれほど濡れていない。


はやる気持ちを抑えながら天莉にバスローブを羽織らせると、尽は自分も同じようにした。


「濡れたままは良くないからね」


近くにあったバスタオルで軽く天莉の髪の毛を拭いてやりながら言ったら、

「私ね、尽くんのそういうところが凄く好きなの……」

天莉がポツリとつぶやいて、タオルの隙間から尽を柔らかな眼差しで見上げてくる。


あえて口にはしなかった天莉だったけれど、きっと横野よこの博視ひろしは天莉が求めるような他者への配慮に欠けるところがあったんだろう。


その辺りのテンポが合わないと、一緒にいてしんどかったはずだ。


天莉への散々な対応を見聞きして知っている尽には、それが容易に推察出来て――。



「まぁ、家なら遠慮なく濡れたままの天莉をベッドに降ろして、俺もそのままキミに覆い被さったんだけどね」


ククッと笑いながら冗談めかして言ったら、「それ、びしょ濡れのシーツとか綺麗にするの、私なんだけどな?」と天莉が笑いながらぷぅっと頬を膨らませて見せる。


「おや、心外だな? 俺だってシーツの取り換えくらいは……」


「出来るの?」


「…………善処しよう」


尽が、生活能力が壊滅的にダメなことは天莉にはとっくにバレている。


天莉が一緒に住んでくれるようになるまでは基本的に家事全般は通いのハウスキーパーや、直樹に任せっきりにしていた尽だ。


今更〝出来る〟と取り繕ったところで、無駄なことは分かっていたから。

素直にそう告げて白旗を上げて見せたら、天莉がクスッと笑った。


「だが、俺もちゃんと出来るようになれる努力は惜しまないつもりだ」


実際、尽は物覚えが悪い方じゃないし、やり方さえ学べば割とすぐに何でも卒なくこなせるようになる。


自信満々に言い切って、水気を粗方ふき取り終えた天莉を再度横抱きにしながら尽が言ったら、天莉がどこか心配そうに尽を見上げてきた。


「尽くんが、学べば何でもすぐに出来ちゃうようになる人なのは私も知ってるよ? けど……副社長さんになって、お仕事忙しいよね? だから。そんな……無理はしなくて大丈夫だよ? 私、家事するの、苦じゃないから」


「気遣ってくれて有難う、天莉。けどね、俺は仕事とプライベートはなるべく分けて考えたい主義なんだ」


尽の言葉に、天莉がますます困惑したような顔をするから。


「だって……もし子供が出来たら、俺も手伝わないと大変なことになるだろう?」


天莉が身籠みごもったなら、合理的に会社から天莉を引き離せる。

だが専業主婦にしてしまったからと言って、尽は天莉を家政婦みたいに扱うつもりは微塵もないのだ。


今は天莉が家事をするのが楽しいと言ってくれているから甘えさせてもらっているけれど、例えば天莉が体調の悪い時なんかには、自分が動けなければ困るとも分かっている。


天莉がダウンした時、少しでも元気づけたいと思うのに……お粥の作り方にすら四苦八苦するような今の自分のままでは話にならないとも自覚しているつもりだ。


「俺は子育てもキミ一人に押し付けるつもりはないし……その……気が早いかも知れんがおむつ替えなんかもちゃんと出来る父親になりたいんだ」


これ、実はふわりが璃杜りとのお腹へ宿った時に、直樹が言っていたことの受け売りだったりする。


――子育てを妻だけに押し付ける男は最低だと思わないか、尽。そういう男を見るとさ、僕はお前も父親おやだろ?って……殴ってやりたくなるんだよね。だからな。お前も少しは自分で家事とか出来るようになっておかないと、将来大事な家族を守れないんじゃないかと心配になるんだ。


――もちろん、ハウスキーパーとか……プロの手を借りるのも悪くはない。だけどお前自身がある程度生活力を身に着けておけば、もしもの時に必ず役立つはずだ。ま、僕がお前を過保護にし過ぎてるのを自覚した上での自戒を込めた忠告なんだけどね。


そう付け加えてきた直樹に、その時には『俺に守りたい家族そんなものは出来ないと思うがな?』と聞き流していた尽だけれど――。

天莉と出会い、彼女との子供が欲しいと願うようになってから、今更のようにその言葉が自分の中へ入ってくるのを感じた。




「ねぇ尽くん。赤ちゃんが生まれたら、お風呂にも入れてあげてくれる?」


「ああ。いつも風呂場で天莉を綺麗にしてやってるみたいに、赤ん坊も俺がピカピカにしてやろう」


ククッと笑った尽に、天莉が「尽くんの……バカ……」と耳まで真っ赤にして尽の首筋にギュウッとしがみ付いた。


「私たち、まだ子供も出来てないのに夢物語みたいなこと、いっぱい話しちゃったね。けど……そんな日が一日も早く来るといいなって……思うの」


尽は自分の耳元、囁くように希望を述べてきた天莉の温もりを腕の中に感じながら、「そうだな」とうなずいた。



***



ベッドに天莉あまりを下ろすなり、じんは愛しい妻の身体中にキスの雨を降らせた。


おでこ、鼻先、両頬、唇、あご、両肩、鎖骨、それから――。


唇には特に念入りに口付けをしたのは言うまでもないのだけれど、先ほど脱衣所で羽織らせたバスローブの前をはだけさせながら、ふわふわの乳房の先、期待に震えてツンと立ち上がった乳首も丹念に優しくねぶった。


「あ、……尽く……、んっ」


天莉はじんと出会ったばかりの頃、セックスが好きではないみたいだった。


横野よこの博視ひろしのせいで、男に触れられている間、声を出すことはいけないことだと刷り込まれていたようだし、性行為で気持ちいいと思ったこともないみたいで、何なら挿入は『痛い』ことだと認識している嫌いさえあった。


それが、今ではほんの少し肌に触れるだけで、可愛らしくいて、無意識に尽を求めるみたいに腰を揺らせる。


瞳を熱にうるませて「尽くん……」と声音に切なさをにじませる。


トロトロと止めどなく愛液を溢れさせる蜜口は、ひくひくといやらしくうごめいて、ほんの少し角度を変えただけで、尽の欲望をいとも容易たやすく膣内へ迎え入れようとしてくるのだ。


「天莉、もぉ挿入いれて……いい?」


スリスリと焦らすように天莉のぷっくりと膨らんだ小さな陰核を、彼女自身の愛蜜と尽の先走りに濡れたたかぶりでこすりながら問い掛けたら、天莉が「んっ」とあえぎまじりに短く答えて、熱に浮かされた表情でうなずいた。


それは明らかにゴーサインだったのだけれど。


「ね、お願い、ちゃんと言葉にして……俺を求めて? 天莉」


尽はどうしても……。天莉からハッキリと乞われて彼女の中を侵食したいと思ってしまったのだ。


天莉は尽の言葉に、一瞬戸惑うみたいに瞳を揺らしたのだけれど――。


「……お願い、じ、んくんっ。……私の膣内なかを、……アナタので……いっぱいに、して……?」


まるで顔を見られたくないみたいにギュゥッと尽にしがみ付くなり、尽の耳元……ハッキリと情欲をにじませた声でそう告げる。


尽は、天莉が言い終わるか終わらないかの内に、ぶわりと膨らんだ劣情れつじょうのまま、天莉を一気に最奥までつらぬいた。


「っ、ひゃ、ぁっ……ん!」


途端、驚いたように小さく悲鳴を上げて、尽にすがりついていた天莉の腕に一層力がこもって。

二人の間で押しつぶされた天莉の柔らかな乳房の感触が、尽をこれ以上ないくらいの充足感で満たしていく。


それは天莉も同様らしく――。


「あんっ、……じんく、んっ、大好、きっ。愛、してるっ……」


天莉が感じてくれているのは、自分を痛いくらいにキュウキュウと締め付けてくる肉ひだの感触で分かる尽だ。


「俺も……愛して、るよっ、天莉……」


初めて女性の膣内なかに避妊具なしで挿入したけれど、ここまで相手の熱や感触をダイレクトに感じられるとは思っていなかった尽だ。


しかも相手は初めて心の底から愛しいと思えた女性ひと


尽はすぐにでも吐精とせいしそうになるのをグッと下腹部に力を入れて抑えると、天莉を抱く腕に力を込めた。


「天莉……ごめん。情けない、けど……そんなに長く持ちそうに、ないっ」


――ゴムなしでするのは初めてだから。


そう小声で付け加えたら、天莉がハッとしたように腕を緩めて尽を見詰めた。


「……尽く、……それ、本……当?」


「ああ、ホント、……だっ」


尽がそう答えると同時、天莉の中がキュウッと尽の屹立を締め付けてきた。


「……天、莉っ、そ、んなに締め付けたら……」


「んっ、……っ、て? 尽、くんっ……、私も、もぅ……っ」


天莉の言葉と同時、尽は腰を一際激しく天莉の身体へ打ち付けるようにして密着させると、生まれて初めて……女性の膣内なかに欲望を吐き出した。

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