テラーノベル
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____佐野勇斗side.
仁人が家を出てからの時間は、何も癒してくれなかった。
仕事は続いた。
毎朝いつもの時間に起きて、身支度を整え出社する。
「佐野勇斗」は、何一つ失っていないように見えたと思う。
でも、家に帰ると何もなかった。
電気をつけると、広すぎるリビング。
誰の気配もしない空間。
仁人がいなくなってから、作り置きには一切手をつけなくなった。
食べる気がしなかった。
というより、食べてしまったら本当に全部終わってしまう気がして。
冷蔵庫を開けるたびに、もう存在しないはずの仁人の気配を探してしまう。
「……なぁ、じんと、?ほんとに…いないの…?」
いるわけないのに。
謝るタイミングは、何度もあった。
連絡しようと思った夜も、数えきれないほどあった。
でも、指が動かなかった。
――今さら、何を言うんだ。
――傷つけたのは俺だ。
そう思うたびに、自分には資格がない気がして、画面を閉じた。
眠れない夜が増えた。
夢に仁人が出てくるから。
何も言わず、ただ笑っている。
その笑顔が一番残酷だった。
目が覚めると、 胸の奥が空洞みたいに痛んだ。
____吉田仁人side.
曽野舜太の家での生活は穏やかだった。
「仁ちゃん洗濯やっとくよ〜」
「ご飯、一緒に作ろか!」
優しい言葉ばかり。
責められることも、追い詰められることもない。
それなのに、心はずっと重かった。
夜になると勇斗のことを考えてしまう。
怒っていた顔
冷たい声
でも、それ以上に思い出すのは昔の優しかった勇斗だった。
《もう終わったんだよ、》
そう言い聞かせても、気持ちは簡単に切り替えられなかった。
『…俺まだ好きなんだな、笑』
認めてしまうと、余計に苦しくなる。
舜太は何も聞かない。
それが、逆につらかった。
誰にも責められないから、自分で自分を責めるしかなかった。
――あの時、言わなければ。
――もう少し、我慢していれば。
後悔ばかりが増えていく。
____佐野勇斗side.
一年が経った。
部屋の中は、相変わらず整えられたままだ。
仁人が出ていった日のまま、時間が止まっている。
ふと、外に出たくなった。
気分転換のつもりで、 柔太朗と街を歩いていた時だった。
人混みの中に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「……仁人、?」
声が勝手に出た。
振り返った顔は、確かに仁人だった。
一瞬だけ、目が合う。
でも、すぐに逸らされる。
「知り合い?」
仁人と一緒にいた友達がそう聞くと、仁人は何でもない顔で答えた。
『いや、知らない…』
その言葉で、 胸の奥が音を立てて崩れた。
《ああ、もう他人なんだ。》
それ以上、何も言えなかった。
____吉田仁人side.
声をかけられた瞬間、心臓が跳ね上がった。
振り返らなければよかった。
でも、体が勝手に動いた。
勇斗は、変わっていなかった。
少しだけ痩せたように見えたけど、それでもちゃんと「佐野勇斗」だった。
「知り合い?」
そう聞かれて、 一瞬、言葉に詰まる。
本当は知っている。
誰よりも知っている。
でも、そう答えたら、 また全部戻ってしまいそうで。
『いや、知らない…』
口から出た言葉は、 思っていたよりも冷たかった。
歩き出した後、 胸が苦しくて、息がうまくできなかった。
――これでいい。
――これで、終わり。
そう思わないと、前に進めなかった。
to be continued…
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