テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#おんおら
ドズル社好き
1,226
#さんちゃんく!
あおい
1,964
6,529
#魔法パロ
薙刀 瑜菜🍃💌⚓️
104,062
通話に入った瞬間、聞き慣れた明るい声が耳に届いた。
「おんりー!おはよー!!」
「……おはよ、おらふくん」
「ん? なんか今日、声低ない?」
「普通だけど」
「ほんまー? まだ眠いんちゃう?」
「そっちこそ、朝から元気すぎ」
「えへへ。おんりーと遊べると思ったら目ぇ覚めた!」
——そういうことを、簡単に言う。
おんりーはマイクの向こうで、小さく息を吐いた。
心臓が、うるさい。
相手はα。自分はΩ。
それ自体は、珍しいことでもなんでもない。大人になった今では、自分の性質とうまく付き合う方法も分かっているし、仕事に支障が出ないように体調管理もしている。
ただ、ひとつだけ。
相手がおらふくんだと、どうにも調子が狂う。
おらふくんは、昔から距離が近い。
嬉しいことがあれば一番に報告してくれるし、何か面白いものを見つければ「おんりー、これ見て!」と真っ先に声をかけてくる。
ゲームで協力するときも、自然と隣にいる。
それが嬉しかった。
嬉しかったからこそ、いつからか、少しだけ苦しくなった。
自分に向けられる笑顔が、ほかの人に向けるものと同じだったら。
自分が特別だと思っているだけだったら。
そんなことを考えるたび、おんりーはいつも通りの声で返事をする。
「……早く始めよ。今日、やることいっぱいあるんでしょ」
「はーい! じゃあ、おんりー隊長についていきます!」
「隊長ってなに」
「え、かっこええやん!」
「はいはい」
笑って返す。
いつも通り。
何も変わらない、いつものふたり。
それでいいはずだった。
2.αの気配。
「おんりー、ちょっと休憩せえへん?」
数時間後。
集中して作業を続けていたおんりーに、おらふくんが声をかけた。
「まだいけるよ」
「いや、もう結構やっとるやん。目ぇ疲れてへん?」
「大丈夫」
「……ほんまに?」
少しだけ、声の調子が変わった。
おんりーはキーボードを打つ手を止めた。
おらふくんは、こういうときだけ妙に鋭い。
普段はふわふわしているくせに、おんりーが無理をしていると、なぜかすぐに気づく。
「……ちょっとだけ休む」
「よし!」
嬉しそうな声。
「飲み物取ってくるわ。おんりーもなんか飲みや?」
「ん。ありがと」
通話の向こうで椅子を引く音がして、それから少しの静寂が訪れた。
おんりーはヘッドセットを外し、ソファに背中を預ける。
その瞬間、ふと気づいた。
部屋に残っていたのは、自分ひとりの気配だけ。
それなのに、さっきまで隣にいたおらふくんの声が、まだ耳に残っている気がした。
——おんりーと遊べると思ったら目ぇ覚めた!
思い出しただけで、顔が熱くなる。
「……ほんと、そういうとこ」
誰にも聞こえない声で呟いた。
好きだ。
もう、ずっと前から。
相棒として大切に思っている。信頼している。一緒にいると楽しい。
それだけなら、こんなに困らなかった。
声を聞くと嬉しい。
名前を呼ばれると、少しだけ期待してしまう。
自分以外の誰かと楽しそうに話していると、胸の奥がちくりとする。
そんな感情を抱えていることを、おらふくんは知らない。
知らなくていい。
だって、今の関係が壊れるのは嫌だから。
「……このままでいい」
自分に言い聞かせるように呟いた。
そのとき、通話が再びつながった。
『おんりー?』
「っ、なに?」
『いや、返事ないから。大丈夫かなって』
「大丈夫だよ」
『そっか』
少し間が空いた。
『……なあ、おんりー』
「ん?」
『今度、ふたりで出かけへん?』
おんりーは固まった。
「……え?」
『あ、いや! その、いつもゲームばっかりやし。たまにはご飯でも食べに行こうかなーって!』
いつもより、少しだけ早口だった。
『もちろん、嫌やったら全然ええねんで! 無理せんでええし!』
「……嫌じゃ、ない」
自分でも驚くほど、小さな声だった。
『……ほんま?』
「うん」
『やった! じゃあ、予定合わせよな!』
ぱっと明るくなる声。
その声を聞いた瞬間、おんりーの胸の奥で、何かが弾けた。
ふたりで出かける。
それは、友達同士でも、相棒同士でも、普通にすることだ。
特別な意味なんてない。
——ない、はずだ。
それなのに。
「……楽しみにしてる」
気づいたら、そう口にしていた。
通話の向こうが、ぴたりと静かになった。
「……おらふくん?」
『……っ、うん! 俺も! めっちゃ楽しみ!』
少し裏返った声。
おんりーは不思議に思ったけれど、深くは聞かなかった。
もしも、そこに何か意味があるのなら。
自分から確かめる勇気は、まだなかった。
3.知らない誰かの話。
数日後。
ふたりで出かける約束をした日が近づいてきた頃、仲間たちとの通話で、何気ない話題が上がった。
「そういえば、おらふくんってαやったよな?」
誰かの問いに、おらふくんが答える。
「せやでー」
「Ωの人と付き合ったりしたら、相性ええとか言うやん?」
「まあ、そういう話は聞くなあ」
何でもない会話。
本当に、何でもない話だった。
けれど、おんりーは画面を見つめたまま、動けなくなった。
αとΩ。
相性。
付き合う。
自分とおらふくんのことを考えてしまう。
もし、自分がΩじゃなかったら。
もし、おらふくんがαじゃなかったら。
それでも自分は、彼を好きになっていただろうか。
きっと、なっていた。
優しいところも、楽しそうに笑うところも、誰かの小さな変化に気づけるところも。
性質なんて関係なく、好きになっていたと思う。
けれど。
おらふくんが自分の性質を理由に、誰かを選ぶのだとしたら。
その誰かが、自分ではなかったら。
「……おんりー?」
呼ばれて、顔を上げた。
「ん?」
「どうしたん? 静かやけど」
おらふくんが、心配そうにこちらを見ている。
「……なんでもない」
「ほんまに?」
「うん」
おんりーは笑った。
いつものように。
それ以上、何も聞かれないように。
4.言えない理由。
その日の夜。
おらふくんは、ひとりでスマートフォンを見つめていた。
画面に表示されているのは、おんりーとのメッセージ画面。
『今度、何食べたい?』
送ったメッセージに、少しして返事が来た。
『なんでもいいよ』
『それ一番困るやつやん!笑』
『じゃあ、おらふくんが決めて』
『えー、俺が決めてええの?』
『うん』
短いやり取り。
たったそれだけなのに、何度も読み返してしまう。
「……あかん、にやける」
スマートフォンを伏せ、両手で顔を覆った。
好きだ。
おんりーのことが、好きだった。
一緒にいる時間が増えるたび、気持ちは少しずつ大きくなっていった。
最初は、頼れる相棒だと思っていた。
ゲームが上手くて、冷静で、努力家で。
でも、知れば知るほど、それだけじゃ足りなくなった。
ふとしたときに見せる笑顔。
自分の冗談に呆れながらも、最後には笑ってくれるところ。
誰かのために、さりげなく動けるところ。
そして、ときどき見せる、誰にも頼ろうとしない横顔。
本当は、もっと頼ってほしい。
つらいときには、つらいと言ってほしい。
嬉しいことがあったら、一番に教えてほしい。
できることなら、これから先もずっと隣にいたい。
でも。
「……俺が言うたら、困らせるかな」
おらふくんは、ぽつりと呟いた。
自分はαで、おんりーはΩ。
だからこそ、相手に余計な気を遣わせたくなかった。
自分の性質を理由に、気持ちを受け入れてほしいわけじゃない。
相性がどうとか、運命がどうとか。
そんなものではなくて。
おんりー自身に、自分を選んでほしい。
それが、わがままだとしても。
「……好きやねんけどなあ」
誰にも届かない声だった。
5.約束の日。
待ち合わせの日。
おんりーは、約束の時間より少し早く到着していた。
何度もスマートフォンの画面を確認する。
服装は変じゃないだろうか。
髪はちゃんと整っているだろうか。
いつもと違うと思われないだろうか。
考え始めたら、きりがない。
「……何やってんだろ、俺」
今日はただ、一緒にご飯を食べるだけ。
それだけなのに。
「おんりー!」
聞き慣れた声がして、顔を上げた。
おらふくんが、こちらに向かって手を振っている。
「ごめん! 待った?」
「いや、今来たとこ」
「ほんま? よかったー!」
隣に並んだおらふくんは、いつもと同じ笑顔だった。
「今日、楽しみにしててん!」
「……俺も」
「えへへ」
その笑顔を見た瞬間、おんりーは思った。
やっぱり、好きだ。
この人のことが、どうしようもなく好きだ。
だからこそ。
この時間が終わるのが、少し怖い。
楽しく過ごせば過ごすほど、帰り道が寂しくなる気がした。
一緒に笑えば笑うほど、もっと一緒にいたくなる気がした。
それでも、おんりーは隣を歩く。
おらふくんが楽しそうに話す声を聞きながら、時折相槌を打つ。
いつも通りに。
大切な相棒として。
——この気持ちを、知られないように。
けれど、歩いている途中。
おらふくんが、ふいに足を止めた。
「……おんりー」
「ん?」
「今日さ」
少しだけ、声が真剣になる。
「俺、ひとつ聞いてもええ?」
「……なに?」
おらふくんは、一度口を開きかけて、閉じた。
言いたいことがある。
伝えたいことがある。
でも、それを言ってしまったら、今までのふたりには戻れないかもしれない。
それでも。
「……おんりーって、好きな人おる?」
時間が止まった気がした。
おんりーの心臓が、大きく跳ねる。
好きな人。
そんなの。
目の前にいる。
ずっと、隣にいる。
でも、言えない。
「……なんで?」
ようやく出てきた声は、自分でも驚くほど静かだった。
おらふくんは、困ったように笑った。
「……ちょっと、気になっただけ」
「……そっか」
沈黙が落ちる。
おんりーは視線を逸らした。
今、答えてしまいたい。
好きだと。
ずっと好きだったと。
でも、その一言で、この人を失ってしまったら。
——そんなの、耐えられない。
「……いるよ」
気づいたら、そう答えていた。
おらふくんの表情が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……そっか」
その声は、いつもより少し小さかった。
「……どんな人なん?」
「……優しい人」
おんりーは、前を向いたまま答えた。
「一緒にいると楽しくて。……気づいたら、その人のことばっかり考えてる」
本当のことだった。
何ひとつ、嘘はない。
ただ、肝心な名前だけを言えなかった。
おらふくんは、しばらく黙っていた。
それから、いつものように笑った。
「……そっか。ええ人なんやろな」
「……うん」
「……応援してるで」
その言葉に、おんりーの胸がぎゅっと締めつけられた。
応援なんて、しないでほしかった。
そんな優しいことを言わないでほしかった。
だって。
好きな人は、あなたなんだ。
あなたに好きになってほしいんだ。
——でも、それは言えない。
おんりーは、笑った。
「……ありがと」
その笑顔の意味を、おらふくんは知らない。
そして、おらふくんの胸の中にある気持ちも、おんりーは知らなかった。
ふたりは再び歩き始める。
肩が触れそうな距離で。
あと少しだけ、手を伸ばせば届く距離で。
それなのに。
ふたりの間には、まだ、言えない言葉がひとつずつ残っていた。
「好きだよ」
たったそれだけの言葉が。
どうして、こんなにも遠いのだろう。
——第1話・終。
次回予告
第2話「もしも、俺じゃなかったら」
おんりーが好きな人の話をした日から、おらふくんはほんの少しだけ距離を取るようになる。
それを感じ取ったおんりーは、嫌われたのかもしれないと思い始めて——。
一方のおらふくんも、相棒の隣で笑いながら、言えなかった言葉を何度も飲み込んでいた。
コメント
1件
ああ、もう、このもどかしさ……!(涙) おんりーが「いるよ」って答えたとき、おらふくんの「そっか」が小さくなったのがもうね……。お互いに「好き」って気持ちを隠して、相手を想って一歩引いてしまうところ、胸がぎゅっとなりました。相棒としての優しさと恋心が両方あって、どっちも大事だからこそ言えないんだろうな。「応援してるで」って言うおらふくん、優しすぎますよ…。次話、距離がどうなるのか怖いけど読みたいです。