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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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#見捨てられた
リコりす@現在熱38℃☆
7,545
#Telamon
ありきたりな雑炊
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夜よりもなお濃い紫黒の霧が、静かに世界を侵食していた。
ナス科の花――ナイトシェードが、毒々しい紫の花弁を揺らしながら一面に咲き誇る。
甘い香り。
死を誘う香り。
そこは、生も死も許されないFORSAKENの境界。
その花畑の中央で、一人の青年が膝をついていた。
アズール。
細い身体は血に濡れ、胸には一本の短剣が深々と突き刺さっている。
傷が痛いのではない。
もっと深い場所が、壊れていた。
――愛しています。
最後に自分が口にした言葉だけが、何度も何度も耳の奥で反響する。
その相手は、自分を抱き締める代わりに、この胸へ刃を突き立てた。
ツータイム。
信じた。
愛した。
人生で初めて、自分の全てを預けてもいいと思えた相手だった。
なのに。
「……あぁ……」
涙すら流れない。
魂が泣くことを忘れてしまった。
生きてもいない。
死んでもいない。
崩れかけた魂だけが、この花畑に取り残されていた。
その静寂を裂くように。
カツ――
カツ――
規則正しい靴音が響く。
泥も血も恐れず歩いてくるその足音だけが、この世界では異様なほど美しかった。
アズールがゆっくり顔を上げる。
赤。
視界に飛び込んできたのは、闇の中で燃えるような深紅。
真紅のシルクハット。
薔薇を思わせる赤いスーツ。
影の奥で妖しく微笑む赤い瞳。
ザ・スペクター。
FORSAKENを支配する絶対者。
恐怖を喰らい、絶望を育て、命さえ娯楽として弄ぶ怪物。
それなのに。
彼はまるで教会の祭壇から降りてきた聖人のような穏やかな笑みを浮かべていた。
「……可哀想に。」
低く、美しい声。
「誰より深く愛した者ほど、誰より深く傷つく。」
その声音には慈悲があった。
優しさがあった。
温もりがあった。
だからこそ。
それは恐ろしかった。
スペクターは善悪を理解している。
人が何を求め、
何を恐れ、
どんな言葉で救われるのか。
その全てを知識として知っている。
だから彼は、誰より完璧に”優しさ”を演じることができた。
ゆっくりと膝をつく。
白い手袋に包まれた細い指先が、泥と血で汚れたアズールの頬へ触れる。
温かい。
まるで本当に、生きている人間の体温だった。
「……私を……殺しに来たのですか……」
掠れた声。
怯えきった瞳。
傷よりも深く刻まれた裏切りが、彼を震わせていた。
スペクターは小さく微笑む。
「違うよ。」
その一言だけで、世界が静かになる。
「私は君を迎えに来た。」
長い腕が、そっとアズールを包み込む。
拒絶されない。
押し返されない。
抱き締められた。
その事実だけで、壊れかけた心が悲鳴を上げる。
「君は悪くない。」
その言葉に。
アズールの瞳から、堰を切ったように涙が零れ落ちた。
誰も言ってくれなかった。
誰も信じてくれなかった。
「植物を愛し、人を癒やし続けた君を……あのような狂人が踏みにじった。」
スペクターは髪を撫でる。
宝物でも扱うように。
「もう大丈夫。」
耳元で囁く。
「私がいる。」
その一言は、救済そのものだった。
孤独だった。
利用され続けた。
愛した相手に殺された。
そんなアズールにとって。
この腕だけが。
この胸だけが。
世界で唯一、安全な場所に思えた。
「あなた様は……」
震える声。
スペクターは静かに微笑む。
「私は生命を司る者。」
赤い瞳が細くなる。
「君に、新しい人生を授ける神だ。」
その瞬間だった。
アズールの中で何かが音を立てて崩れた。
ツータイム への想い。
苦しみ。
未練。
全部。
全部どうでもよくなっていく。
ただ、この人だけを見ていたい。
この人に必要とされたい。
この人の役に立ちたい。
その願いだけが、壊れた魂を満たしていく。
「はい……」
涙で濡れた顔のまま微笑む。
「あなた様のためなら……何でも。」
その返事を聞いたスペクターは、優しく頬を撫でた。
まるで愛しい恋人を見るように。
けれど。
赤い瞳だけは、どこまでも冷たかった。
そこには慈愛も同情もない。
あるのは観察者の興味だけ。
壊れた魂ほど、美しい。
救われたと思い込む魂ほど、よく育つ。
恐怖も。
憎悪も。
絶望も。
その全てが、彼にとっては最高級の収穫物だった。
「私の可愛いアズール。」
甘く。
蕩けるような声。
「君には、新しい役目を与えよう。」
胸の傷口へ指先がそっと触れる。
「君の愛を踏みにじった者たちを。」
「永遠に狩り続ける、私だけのキラーとなるんだ。」
迷いはなかった。
「……はい。」
アズールは微笑む。
その笑顔には、かつて人を癒やそうとしていた青年の面影は残っていない。
「あなた様のお望みのままに。」
スペクターは再び彼を抱き寄せる。
まるで最愛の恋人を慈しむように。
まるで慈悲深い神のように。
その口元だけが、誰にも見えない角度で静かに笑っていた。
ナイトシェードの花々は、静かに揺れる。
まるで、一つの魂の再生を祝福するように。
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