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夜は、やけに静かだった。 神楽を狙う連中のアジトは、廃工場の奥。
最初から、話し合いなんてつもりはない。
「三人で行くアル」
神楽が言ったとき、銀時は少しだけ目を細めた。
「……ああ」
それ以上、何も言わない。
戦いは、すぐに始まった。
刃が飛ぶ。銃声が響く。鉄の匂い。
新八は必死に食らいつく。神楽は前へ出る。 でも、その視界の端にはいつも――
銀時の背中。
斬る。
弾く。
けれど、殺す勢いはなかった。
銀時の動きは、いつもと違った。
攻めているようで、違う。
前に立っているようで、常に二人の位置を確認している。
「銀さん、前!」
新八が叫ぶ。
その瞬間、横から別の刃。
神楽に向かって、一直線。
速い。
間に合わない。
――そのはずだった。
視界が白くなる。
次に見えたのは。
自分たちの前に、立ち塞がる背中。
肉を裂く音。
「……銀ちゃん?」
時間が止まる。
刃は、銀時の腹を深く抉っていた。
赤が、溢れる。
「……あー……」
銀時が、小さく息を吐く。
「クソ、が」
そのまま、膝が折れる。
「銀さん!!」
新八の叫びが、夜を裂く。
敵がまだ動いている。
だが。
もう、視界に入らない。
神楽の瞳が、静かに変わる。
「新八」
低い声。
「銀ちゃんを病院に運ぶネ」
「でも――」
「今すぐアル」
有無を言わせない声だった。
新八は、震える手で銀時を抱える。
重い。
こんなに重かったのかと、初めて思う。
血が止まらない。
「生きてください……死なないでくださいよ……!」
銀時からの返事は無い。
神楽は、振り返る。
そこにはまだ、敵がいる。
夜兎の目になる。
「――許さないアル」
その声は、冷たい。
怒りではない。
決意だ。
銀ちゃんを守るために。
万事屋を守るために。
その夜、廃工場に立っていた敵は、一人残らず地に伏せた。
病院の廊下。
手術中の赤いランプ。
新八の手は、まだ血で染まっている。
神楽は壁にもたれて、じっと前を見ている。
「僕……」
声が震える。
「何も、できなかった」
守られただけだった。
いつもそうだ。
神楽の拳が、ぎゅっと握られる。
「私もネ」
悔しい。
悔しくて、吐きそうだ。
銀時に守られることを前提に戦っていた。
自分が斬られる未来も、考えたことすらなかった。
「また、一人で背負ったアル」
でも。
それを許したのは、自分たちの弱さだ。
新八が顔を上げる。
「強くなりたい」
はっきりと言う。
「銀さんの後ろじゃなくて、隣に立てるくらい」
神楽も、ゆっくり頷く。
「次は、私が前に立つネ」
守られるだけじゃない。
守れる側に。
やがて、ランプが消える。
医者が出てくる。
「一命をとりとめました」
二人は、その場に崩れ落ちる。
助かった。
また、間に合った。
数日後。
病室で目を覚ました銀時は、第一声で言った。
「……腹減った」
神楽と新八は、同時に涙をこぼしながら怒鳴った。
「バカ!!」
銀時は、きょとんとする。
「なんでそんな泣いてんだよ。」
新八は、ぐしゃぐしゃの顔で言う。
「次は守られませんからね」
「は?」
神楽が、真っ直ぐ銀時を見る。
「次は三人で守るアル」
銀時は、少しだけ目を見開いて。
それから、困ったように笑う。
「……めんどくせぇ奴らだな」
でも。
その笑いは、どこか安心していた。
背中だけじゃない。
隣に立とうとする二人がいる。
万事屋は、また一段、形を変えた。