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 エーゼ・ロワン達は割れた空を見上げた。次第に目を細めて全員が緊張感に包まれる中、その咆哮は聞こえた。


 ――――オォォォオオオオオ……


 それは木々だけでなく、降り注ぐ雨さえ揺らすほどの咆哮であり、まぎれもなく何らかの巨大生物の雄叫びであった。その咆哮に全員で顔を見合わせると、更に表情を引き締めて武器を取る。


 大地が揺れる音。アンダージャスティスを含めたその場にいる全員の体を押さえつけるような雄叫び。思わず全員が手を止めた。


「なに……」


 震える声でエーゼ・ロワンが言葉を漏らす。エーゼ・ロワンだけではない。本物のアンダージャスティスのメンバーは勿論、偽物のアンダージャスティス、捕まっている生徒たちさえ震えを抑えきれなかった。


 何故なら、恐ろしいのだ。空の方角から凍えるようなプレッシャーが放出されており、全員の足を止めた。

 戦闘のプロフェッショナルであるアンダージャスティスを、魔法剣士学園を襲撃するテロリスト達を、暴力を学ぶ生徒たち全てである。


 エーゼ・ロワンはアンダージャスティス面々ではもっとも強く、本気を出せばアンダージャスティスのメンバー達をたった一人で殺せる。そんなアンダージャスティスでさえ思わず足を止める怖気だ。当然、他の四人はエーゼ・ロワン以外の存在はそれ以上の威圧感や恐怖を感じ取っているはずである。


 エーゼ・ロワンは一度深呼吸する。

 平常心を取り戻した四人は、一度深呼吸をして顔を見合わせる。


「どうしますか、エーゼ・ロワン様?」

「このまま学園の襲撃者を排除するか、モンスターを排除しますか?」


 部下二人の問いは、他のメンバーの言葉を代表していた。問われたエーゼ・ロワンは少し考えると、首を縦に振った。


「ええ。どの道、このまま帰ることは出来ないわ。様子は確かめないと。不可視化の魔法で姿を隠せるものは使って。他のメンバーは全火力で襲撃者を殲滅する。あっちのモンスターは足止めす」

「了解した」


 部下それぞれ分かれる。不可視化の魔法を使うと、大地の上を滑るように進む。

 エーゼ・ロワンは空を割って現れたモンスターに近づく。威圧感が強くなる。


「――――!」


 そして、エーゼ・ロワン達はその惨状を目撃した。

 ……そこは文字通りの戦場であった。木々が倒れ、大地は荒れ果て、もはやそこは開けた広場――いや、荒野となっている。その中心に二つの影が互いに向き合い、この人類の文明及ばない未開の地で人知れず戦闘に及んでいた。


 獰猛な豹のを思わせる青い髪を持ち仮面の欠片を口に貼り付けた獣の人。

 本来は陰鬱な黒と月、そして砂しかない世界に生息するモンスターの一人だ。分厚い霊圧を纏い、唸り声を上げていた。


 そして、それに相対するのは青い翼と天使の輪っかを持ち、左手に銃と右手に剣を持つ白い軍服の男、キルゲ・シュタインビルド。

 周囲の霊子を絶えず吸収し、モンスターを分解して自身のエネルギーへと変換して神聖滅矢として射出する。



 その二人を見て、エーゼ・ロワンは背筋が凍る。何故なら、解ってしまった。青い翼の軍服のキルゲ・シュタインビルドは目に見えるほどの霊子を身に纏い、目前の破面に相対している。この寒々しい凍えるような殺気の発信源は、そのキルゲ・シュタインビルドなのだろうとアンダージャスティスの者達は一目で全員が理解した。


「――――オラァ!!」

「ふっ!!」


 猛き豹が唸り声を上げ、剣を持って突進する。その反動で地面が揺れ、地盤が揺らぐ。しかしキルゲ・シュタインビルドはその背筋の凍る突進を目前にしても、微動だにしない。まるで恐怖を感じていないかのようにキルゲ・シュタインビルドは冷静に、振り上げられた鋭い鉤爪に向かって一歩踏み込むと片手に持つ青い剣を軽々と振り上げて、左側面から脇を狙うように刃を滑り込ませた。


「ちぃっ!!」


 しかし、相手も手練れであった。その強靭な硬皮がキルゲ・シュタインビルドのゼーレシュナイダーの一撃を阻み、金属音と火花を散らせた。硬皮を傷つけた仕返しだと言うように、青い天使の頭上に鋭い鉤爪が降ってくる。


 そして、再び金属音と火花が散った。

 キルゲ・シュタインビルド血管に霊子を流し込み、硬化する静血装は破面の一撃を弾くと、片方の霊子兵装を地面に突き刺し、剣の攻撃の後に突進してくる破面を衝撃を支えた。


 キルゲ・シュタインビルドの体が少し下がる。両足が地面にめり込み、そして十メートルほど地面を滑って行き後ろに下がった。

 ……その光景が信じられない。あの獰猛なプレッシャーを持つ仮面の男からの攻撃を吹き飛ばされず押し留めるだなんて。


「オラオラオラァ!!」


 モンスターの男はもう片方の前脚による蹴りでキルゲ・オピーを狙う。キルゲ・シュタインビルドはその体躯に足を添えると、鉤爪が降ってくるより早くその場を離脱した。


 ……それは一体、どのような身体能力なのか。軽々と重霊子兵装でありながら、まるで重みを感じていないかのように軽やかに空を蹴ってジャンプし、数メートル離れた学園に着地する。



「ちっ、霊子を吸い尽くしやがって。うざってぇ」

「野蛮だ。獣のようだ。モンスター」

「リッパーだ」

「何?」

「ジャック・ザ・リッパー。てめぇを殺す男の名だ」

「死ぬ男の名など覚える必要はありませんね」


 ……雨が降っている。視界は悪い。地面はぬかるんでいる。だが、一匹と一人にはそんな事は関係ないのか、頓着せずに互いに向かい合い、隙を伺っていた。


「――――」


 キルゲ・シュタインビルドとジャック・ザ・リッパーが互いを睨み、そして両者が地を蹴る。天使と獣が交差する刹那、エーゼ・ロワンの視界に、一つの影が割り込んだ。その影はキルゲ・シュタインビルドとジャック・ザ・リッパーの頭上……空中で広がり、そのまま瞬時に二人に覆い被さろうとする。


 その頭上での異常に、キルゲ・シュタインビルドもジャック・ザ・リッパーすぐに気がついて足を止める。

 一瞬の硬直――その隙を狙うように、キルゲ・シュタインビルドを始末する為にアンダージャスティスの一人の中から小さな人影が一つ飛び出し、同時に魔法を詠唱した。


「待て! キルゲ・シュタインビルドに手を出すな!」


 この場合、キルゲ・シュタインビルドは通常とは異なり完全な戦闘形態を取っている。それに攻撃するのはあまりにリスクが高い。だがアンダージャスティスのメンバーは純粋な物理ダメージの魔法を使用した。



「『魔法発動・宝石の剣の連撃/アマ・デトワール』」


 巨大な水晶の短剣を作り上げる。純粋な物理ダメージの魔法であるため、無効化されにくい。それをキルゲ・シュタインビルドに向けて射出しようとした。しかし寸前、エーゼ・ロワンはぎょっとする事になる。


 場慣れしている筈のキルゲ・シュタインビルドが、頭上の空中に広がった宝石の剣雨を気にせずにに向かって踏み込んだのだ。更にその魔法を全て分解して自身へ収束させてエネルギーを増幅させる。


 初手に続いてその場に飛び出そうとしていたアンダージャスティスのメンバーも驚きに目を見開き一瞬足を止める。キルゲ・シュタインビルドはアンダージャスティスに向けてゼーレシュナイダーを振りかぶり、またジャック・ザ・リッパーの動きに気づいて剣から霊圧を迸らせる。剣から霊圧攻撃の前兆だ。


 ――オオオォォォォ!!


 キルゲ・シュタインビルドの霊子の翼から極太の霊子ビーツが放たれる。ジュッワという気持ちのいい音が鳴る。ジャック・ザ・リッパーの皮膚が焼かれ吹き飛んだ。


「ぐおお!?」


 皮膚の焼かれた痛みにジャック・ザ・リッパーは目を細めて地面に叩き落される。キルゲ・シュタインビルドが再び跳躍して距離を取り、エーゼ・ロワン隣に着地した。


「っ……!」

「手は出さず、私達より生徒の開放を」

「はい」


 簡素な会話がされる。エーゼ・ロワンがキルゲ・オピーの補佐官であることを知っていて、尚且つアルファが実力者であることを知っているシャドウガーデンのメンバーは、魔法で巨大な水晶の剣を射出する。


 水晶の刃は分解されてキルゲ・シュタインビルドのエネルギーになる。

 ジャック・ザ・リッパーはアンダージャスティス達に目を向けると、「チッ」と舌打ちした。空に浮かぶと、アンダージャスティスのメンバーを視線で探す様子を見せた。そしてアンダージャスティスに接近し、拳を顔面に叩き込まれる。


「邪魔するんしゃねぇ!!」

「くっ!! 狂犬か! こいつ!!」


 アンダージャスティスの一人が叫び、続いてエーゼロ・ロワンが全員に指示を送る。


「総員撤退!! アンダージャスティスは偽物のアンダージャスティスを始末し、体育館に集められた魔剣士学園の生徒を開放する!!」


 そういってアンダージャスティスのメンバーは撤退していく。


「さて、終わりにしましょう。モンスター」

「テメェを殺す」


 巨大な爆発が起きた。そして赤い光と、青い光がぶつかりあい、弾け飛ぶエネルギーは鋭い刃のように学園を巻き込んで切り刻む。


「全弾命中……手応えはあったが、しかし残存霊圧は無し。逃げましたか。自分の弱さにめまいがしますよ。さて、戦闘もこなせる外交官として生徒達を助けなければ」


 ドカン!! と生徒達が集められている体育館が爆発して燃えた。魔法が使えるようになったのか生徒達が避難しつつ、戦闘を行っている。


「手助け……は必要ないようですね」


 学園を襲撃したテロリスト達は黒崎創建の神聖滅矢によって貫かれて無力化されていく。

 キルゲ・シュタインビルドが霊圧感知すると、副学園長室に二つの霊圧がある。窓ガラスを突き破って、突撃くる。 


「副学園長とライナー君ですか。イーバーンは負けましたか。所詮はモンスターの急造兵。使えませんねぇ、貴方は死になさい」


 キルゲ・シュタインビルドはライナーに向けて砲撃して部屋ごと吹き飛ばした。勝てないと思ったのか彼は消えた。


「キルゲ・シュタインビルド外交官、よく、気づいた」 

「私達、殲滅師は霊圧という個人エネルギーを判別できます。外見だけでは隠せませんよ」

「厄介なものだ、殲滅師」


 黒ずくめの男が言った。そして顔を隠していた仮面をとると、初老の男性の顔が現れた。白髪の混じった髪をオールバックにした彼は、副学園長だった。 

 副学園長は仮面を火の中へ投げ入れ、黒ずくめの装束も脱いで燃やす。


「このテロは何故? 拷問して聞き出しても良いですが、自分で喋ってくれると助かります」 

「なぜ、か……少し昔の話になる」 


 副学園長は腕を組み呟いた。 


「かつて私は頂点に立った。君達がこちら側の地域に侵略を開始する少し前の話だ」 

「武闘祭の優勝記録があると記憶していますが」 

「武闘祭など、頂点には程遠い。本当の頂点はずっと先にあるものだ」 


 副学園長は笑った。そこに嘲りの色はなく、どこか疲れたような笑いだった。 


「私は頂点に立ってすぐ病にかかってね、一線を退いた。苦労して上り詰めた私の栄光は一瞬で終わった。それから私は病を治すすべを探し求め、シルバーというアーティファクトの研究者にその可能性を見出したのだ」 

「ほう、アーティファクト」  


 キルゲ・シュタインビルドは目を細める。

 集めていたアーティファクト関連の情報で度々出てきた女性研究者の名前だ。


「シルバーはシエルの母だ。賢すぎて学界に嫌われた不幸な女だ。だが研究者としては最高峰の知識を持っていて、彼女の立場は私にとって都合のいいものだった。私は彼女の研究を支援し、数々のアーティファクトを集めた。シルバーは研究に集中し、私は彼女の研究を利用する。彼女は富も栄誉も興味がなかったから、いい関係だったよ。そして私は『強欲の瞳』に出会った。私が探し求めたアーティファクトだ」

「……それで?」

「だがね、シルバーは……あの愚かな女は『強欲の瞳』が危険だと言って国に管理してもらうよう申請を出そうとした。だから殺してやった。身体の先から中心へ突いていき、最後は心臓を突き刺し捻った」 

「おや、勿体ない。洗脳や脅迫でもして利用すれば良いのに」

「あれは短慮だったと後悔しているよ。強欲の瞳は私の手に残ったがまだ研究は途中だった。だが私はすぐに都合のいい研究者に出会ったよ。シルバーの娘、シエルだ。彼女は何も知らず、何も疑わず、私に尽くしてくれた。私が仇だとも知らずにね。可愛い可愛い、愚かな娘だ。母娘二人のおかげで強欲の瞳は完成した。あとは魔力を集める舞台を整えてちょうどいい隠れ蓑を用意するだけで済んだよ。今日は……私の願いが叶う最高の一日だった」 


 クツクツと副学園長は嘲った。 


「あの男……ライナーというテロリストならともかく、君たちには勝てない。だから交渉、いや懇願をしたい」

「おや、私はこの力で君たちを排除する!! と襲いかかってくるものかと」

「あの巨大な空を割る怪物をバラバラにする男に勝てると言えるほど耄碌していないよ。私のアーティファクトの知識と、この王都での立場を利用して援助する。だから見逃してくれ」

「ふむ」


 キルゲ・シュタインビルドは思考を高速回転させ、結論を出す。


「これから我ら星十字団の下で歩むのならば、力を授けましょう」

「ありがとうございます、キルゲ・シュタインビルド外交官」


 そうして、お互いに握手を交わした。


異世界侵略部隊隊長キルゲ・シュタインビルトの華麗なる活躍

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