人生において、夏は何回くるのだろう。僕は15回夏を繰り返した。どの夏も、まるで光輝いているようで。仮に80年生きるとしたら、残り65回。多いようで、案外少ない。きっと僕はあっという間に大人になって、老いて、死を迎えるのだろう。日々、そんなことを漠然と考える。思わずため息を吐いた。何か不満があるわけでも、鬱憤がたまっているわけでもないけど。ふいに、後ろに気配を感じた。
[お主、子供の分際でため息をつくでない。幸せが逃げる]
[…そうか。幸せは逃げないさ。もう充分満たされてるし]
俺は振り返った。そこには、左前の白くておんぼろの着物を着た、髪の長い女の人がいた。そして片目が髪の毛で隠されている。ダイヤのように美しい瞳だった。
[子供でも、ため息の一つや2つや500や一億はつくだろ]
[いや、さすがに多すぎるであろう。にしても……何故そんなに平然としている。私のこの格好がみえておるか?]
[みえてるけど]
[お主、私は髪の毛も長い!そして着物を着ている!そしてこの独特の喋り方!何か思わんか!]
[思わん。別に世の中には髪が長くて着物を着ていて、独特な喋り方の人もいるさ]
[なら教えてやろう!私は妖怪だ!襲われるかもしれとか、考えんのか!]
[そう言ってる時点でいい人だろ。悪い妖怪はすぐに襲うよ。まあ、妖怪みたことないけど。今日までは]
青い空が広がる夏、僕は妖怪に出会ってしまった。妖怪といっていいのか分からないほど、人間ぐさい妖怪に。
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