ある暑い夏の日の夜。
友人達と海辺で花火をしてはしゃいでいた。
「あのー、すみません」
突然知らないおじさんから声をかけられる。
怒られるかなーなんて思いながら、僕らはいったんはしゃぐのをやめて、おじさんに耳を傾けた。
「指輪落ちてませんでしたか?」
どうやら指輪を探しているらしい。
この辺りに落としたんですか?
そう聞いたがおじさんは無反応にただ、一点を集中したような表情だ。
よほどショックなのかなと思いながら、俺たちは、いやー指輪は見てませんねーと、一応辺りを探してみる。
とはいえ、砂浜だし波が押し寄せて足を濡らすくらい海が近い。
これはいくら探しても無駄だろうと思い、すみません僕らは見てないですと答えた。
すると
「そうですか」
と言い、海に正面を向けると男は虚な目で何かに話しかけた。
「まさみー、やっぱり無さそうだ」
そう言いながら海へジャブジャブ入っていき、やがて男は首下まで海面に浸かる位置にくると振り返って、僕らにこう叫んだ。
「もし、見つかったら届けにおいで!!」
トプン
男は完全に海の中へ消えた。
これは後日談だが、これは幽霊の類の話ではなかった。
その海で数年前に身投げした女がいた。
身元を証明したのは旦那さん。
旦那はある事に気がついた。
打ち上がった遺体に指輪がなかったのだ。
男は指輪を探し続けた。
そうあの男だ。
男は奥さんを追って後払い自殺したのだ。
見つからない指輪を僕らに託して。
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