テラーノベル
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しばらくしてから僕の景色は前見ていた景色に戻った。
前見ていた景色。
つまり、僕を拒絶した鳥居の姿が目前にある景色。
しょうがないから僕はその場を離れ、
違う鳥居が無いか探した。
すると、近くに2つの鳥居があった。
が、1つは入れなかった。
入れなかったとはいえ、
先程のように見えない壁に阻まれた訳では無い。
「どういう仕組み…?」
そう僕が疑問の声を零すのも仕方無いと思う。
なぜならこの鳥居、
近付けば近づくほど姿が消えてしまうという謎の鳥居。
そうしてもう1つの鳥居の方はというと…
入ることが出来た。
が、鳥居を潜った瞬間、
僕の頬を掠めて矢がどこからか飛んできた。
「は…?」
息を吐くと同時に疑問と戸惑いが混ざったような声を漏らす。
「人の子よ。余は貴様の侵入を許さぬ」
そんな声と共に和傘を差した一人の女性が現れた。
ほぼそれと同時にザーザー雨が降り出す。
紫陽花が咲いており、
所々に蜘蛛の巣があるこの場所。
「聞いておるか?」
「今すぐ出て行かぬと申すなら、死と同等。ここで血に染める」
そう言ってキリキリと弓を引く音が響く。
本能的に気づく。
『きっと次は確実に殺される』と。
というか殺気が凄まじく身体に当てられていて、逃げようとしても恐ろしくて逃げれない。
勝手に手が震えるほどの恐怖。
酷く睨むその目。
きっとライオンに見つかった兎ってこんな気分なんだと思う。
そう思いながらも一歩一歩と後退り、
ついには鳥居の外に出る。
「どうすりゃいいんだよ…」
そう呟きながらも解決策なんぞ、
何も思いつかない。
そうこうしているうちに僕はいつの間にか先程の場所、若木が巻き付いている鳥居の前に居た。
「悪かったよ…僕が酷いこと言ったせいだって分かってる……」
必死に言葉を探しながら誰も居ない鳥居に謝る。
そう言いながら一つ、気がついた。
僕の頭にはいつも疑問が浮かんでいた。
例えば学校で
『個性は大事』
『みんな違ってみんないい』
と学ぶくせに、
社会人になったら
『個性はいらない。従うのが正義』
『言われた通りに動け』
『みんながみんな同じでいるべき』
と学び返される。
教師たちはそれを知っているはずなのにも関わらず、なぜ嘘をわざわざ教えるのか。
良い子供に育てようとするため?
生徒を教師の生きる環境を良くするための道具として?
学んで疑問を出やすくするため?
考えれば考えるほどに分からなかった。
そう思い返してみれば、
僕は最低の子供だったかもしれない。
蒼葉くんにも言ってしまったあの言葉。
『男の子は男の子らしくカッコイイものが好きであるべき』
『女の子は女の子らしく可愛いものが好きであるべき』
今思えば最低かもしれない。
つまり、この鳥居が僕を
『拒絶』した理由はきっと……
僕が蒼葉くんを傷つけたから。
一生残る傷をつけてしまったから。
今更謝ったところで何も変わらないと思う。
それなのに僕は────
「蒼葉くんと話したい」
そう呟くように言ったと同時に僕の目の前にある通れないはずの鳥居から何かが割れるような音が響いた。
『まさか』と思いながらも鳥居の奥に手を伸ばす。
と僕の手は、
腕は、
鳥居を潜った。
そして足を進めて全身を鳥居の奥へ潜らせる。
もちろん、目の前には蒼葉くんの姿があった。
だが最初会った時の笑顔は消え、
あるのは涙の跡が残った頬と僕を見て怯えて揺れる瞳。
「蒼葉くん…」
そう言いながら僕は蒼葉くんに1歩近づいた。
が、蒼葉くんは2歩下がる。
「ごめん…僕が…、悪かった」
「男でも可愛いを好いてもいいし、女でもカッコイイを好いていいって気がついた」
「謝っても遅いと思うけど…許してくれなくてもいいから」
「それでもいいから僕は…謝りたかった」
自分でも声が震えてるのが分かる。
上手く蒼葉くんと目を合わせれず、
目を伏せて話す。
正直に言えば無礼だなと自分でも思えた。
だけれど、
身体が上手く動いてくれなかったんだ。
僕は何に怯えている?
加害者は自分なのに?
前までの強気な態度はどこへ消えたんだ?
嫌な言葉による疑問攻撃が僕を傷つける。
それはただ苦しくて痛くて辛いものだった。
だけど分かる。
きっと蒼葉くんはこれよりも痛かったはず。
辛かったはず。
…苦しかったはず。
反射板のように傷つけた分、
自分が後々傷つくと、
後悔すると分かっていたなら、
僕はあんなこと言わなかっただろうに。
でも知らないからこそ知れたこと。
僕が謝ってから数十分が経っただろうか?
なのにも関わらず蒼葉くんの返答は無い。
僕は意を決して俯きがちだった顔を上げ、
蒼葉くんを見た。
───────蒼葉くんは、泣いていた。
驚いたように目を丸くして大粒の涙をぼろぼろと流していた。
「ごめ───」
「成長したね里玖にぃ」
僕の反射的に出た謝罪の言葉は蒼葉くんの声によって消されてしまった。
泣きながらも微笑む蒼葉くん。
その顔に、
その表情に、
その優しい声に僕は酷く懐かしさを思い出した。
が、やはり思い出せない。
何かが引っかかっているかのように上手く思い出せない。
鳥居の前で聴いた懐かしいあの声。
そして蒼葉くんが今、僕に微笑む表情。
その全てが僕の心を酷く揺るがせた。
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