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<女王様とトランプ兵のような>
※オリキャラと学園長の関係上、オリキャラが学園長に対して(超超超)ド失礼な事を言います。ご了承ください。
2025-01-26
「っ、はぁ、はぁっ、…」
今、私は一体何処を走っているのか。それすらも分からないまま、私はひたすら疾走していた。
(何処にいるのかな、あの馬鹿アイル…!)
アイルどころか、その手掛かりすら得られない。生徒1人すら居ない。本当に廃校じゃないんだよね、と思う程に、此処は静かだった。
「…!、此処は…」
目に付いたドアに掛かる札は[学園長室]。つまりは、あの人がいるかもしれないということ。
「…、行くしか、ないか。」
このまま走っているだけでは何も進展しない。だからドアをノックして、その向こうへと静かに話しかける。
「…学園長。ライラだよ。いるんでしょ。」
別に居てもいなくても開けることには変わりないけれど。長年の癖というかなんというか、つい声をかけてしまう。
「おや、ライラさんですか。はい。私はここに居ますよ。どうしたんです?」
失礼を承知で言わせてもらうと、かなりわざとらしい声が聞こえた。まるで来るのを待っていたような、分かっていたような、そんな声が。
「前と同じことを話すつもりは無いよ。いいから教えて。アイルの居場所。」
「ふむ。…今開けますので少々お待ちを。」
ガチャ、と音がして、私は杖に触れながら警戒した。ドアを開けた瞬間、学園長が攻撃してきても反応できるように。
「…随分と警戒なさってるようですね。」
「当たり前だよ。いつでも警戒して、異常時は早急に反応しなきゃならない。それが師匠の教えだから。」
「…あの人の教え、ですか。…それで、今日はどうしたんです?」
「アイルのことだよ。今、アイルは何処にいるの?」
「…さぁ。私はアイル君のお母様ではないので。検討もつきませんね。」
「…。本当は分かってる癖に。なんでそんなに誤魔化すの?アイルからの命令?」
「本当に、貴方には嘘は通じませんね…ええ。はうです。私が頑なに話さないのは、アイル君からのお願いです。」
「そっか。…でも話してもらうよ。」
「…何故、そこまでアイル君に固執するんです?」
「……私の、大切な幼馴染だから。」
「だから、何がなんでも魔法界に一緒に帰るって決めたの。これは固執でも執着でもない、ただの覚悟だよ。」
「…随分と素晴らしい友情ですねぇ…まぁ、諦めてもらうまでですが。」
その瞳はきっと、厳しい目だ。いつも笑っている学園長の口元ですら、1ミリも笑っていないのだから。
「ううん、諦めないよ。もう迷わない。私は、アイルと一緒に帰るって、そう決めたから。」
「…夢物語ですね。」
乾いた笑みすらこぼさない声。きっと死ぬまで忘れることはないだろう。
「そう言われてもいいよ。そのくらいのことを私はしようとしてるんでしょ。分かってるよ。」
学園長との話を終わらせ、廊下の先へと向かおうとすると、手が伸びてくる。
「行かせません。」
───まるでアイルを守る学園長みたい。
「…そっか。なら…遠慮はしないから。」
✦✦✦
「ウィンド!」
風を繰り出しながら、校内を駆け回る。
「おやおや、先程からそれしか出していませんが。大丈夫ですか?」
「っ、残念だろうけど、私はまだまだ余裕だよ、…っ!」
口では強がっていても、体は正直らしい。魔力切れを起こしそうになっている、というのを理解するのに、時間はそうかからなかった。
視界は歪み、耳を刺す声は四方から聞こえ、体幹は崩れる。貧血を起こした時のような、そんな感覚が私を襲った。
「…その割には、随分と肩で息をしているようですけど、大丈夫です?」
「…生憎、敵に心配されるほど弱くないよ。」
後ろから不意をつく。その軌道は右肩を狙う。
「…そうですか。」
残念そうに、けれど愉快そうに、学園長は私の攻撃をのらりくらりと躱す。右肩に当たるどころか、かすりもしない。でもそんなの想定内だ。
「っ、早くアイルが居る場所を教えて。そうじゃないと殺しちゃうよ。」
攻撃の鋭さを強める。その風は、研がれた刃のように鋭い。
「どうぞ、殺せるものなら。」
その微笑みが嫌に目につく。
「っ、舐めて…、!」
でもきっと私は学園長を殺せない。分かってる。
だってずっと足掻いて足掻いて、それでも誰にも勝てないままだったから。
「ほらほら、そんなに手加減して大丈夫なんですか?どうしてもアイル君の場所を知りたいのでしょう?昔のやり方で殺ってもらってもいいんですよ?あの無慈悲で残酷なやり方で。」
手を広げながら、どうぞここを狙ってくださいと言わんばかりに微笑む学園長。
「…ごめんね?そういうってことは昔の私と戦いたかった?でもそれは叶わないよ。」
シャンデリアと天井を繋ぐ糸が切れる。ガシャンと派手な音がして、その廊下は光を失った。
「私は私。学園長がどれだけ求めて求めて、その結果自他の人生を壊したとしても、過去はもう戻ってこないんだよ。例えその壊す対象が命だったとしてもね。」
感覚で学園長へ攻撃を送る。学園長のことが見えなくても、耳や肌に触れる風は分かるから。暗がりで特訓してた甲斐があったな、と過去の自分に賞賛を送る。
「…まるで、体験したことがあるような口ぶりですね。」
パキパキと踏まれるガラスの音が廊下に響く。
「あはは、そう見える?」
言葉では笑っている、けれど表情はきっと笑っていない。そんなのは自分でも分かっていた。だって、私は今、どうしようもなく辛いから。
「…ええ、とっても。」
-最後に聴こえた声は、寂しそうなものだった。
「…そっか。」
あーあ、なんか少し悲しくなっちゃったな。
かくして、私は学園長を踏破した。
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