TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

流れ星が落ちる季節

一覧ページ

「流れ星が落ちる季節」のメインビジュアル

流れ星が落ちる季節

6 - 第6話無数の煌めき

♥

1

2022年08月12日

シェアするシェアする
報告する


ドアの横には、小さな窓がある。そこに映るのは、空に浮かぶ星の群れ。

この星屑の街でも、星々を見ることはある。

街の上空に広がる夜空には、無数の光点が存在しているからだ。

けれども、それは本当の意味での夜空ではなかった。

街灯のない路地裏では、星たちは闇のなかに沈んでいる。

月明かりさえもない夜の暗闇のなか、それでも彼らは輝いていた。

地上に降ることのない、遠い輝きとして。

この部屋の窓から見えるのも同じ光景だ。

空を見上げればいつでもそこにある、ありふれた風景。

だからだろうか。

僕は、いつも見慣れているはずのそれを、不思議にも思わなかった。

けれど、今こうして改めて眺めてみると、やはり奇妙な感覚に襲われる。

この街に漂う空気そのものが、この景色を生み出していることに気づかされるのだ。

まるで、ここにしかないものが、ここにはあるかのような錯覚。

それこそが、僕にとっての夜空なのだということを、思い知らされるようだった。………………。

ふと我に返ると、いつの間にか隣に来ていた彼女が、同じように窓の外を見ていた。

「きれいね」

彼女はぽつりとそう言うと、目を細めるようにして微笑んだ。

僕は小さく息をつくと、それに同意するようにうなずく。

それからしばらくの間、僕らは何も言わずに同じものを眺め続けた。

やがて、僕の方から彼女に話しかける。

「今日は、何かあったのか?」

その質問に対して、彼女は首を横に振った。

どうやら特に変わったことはないらしい。

まあ、普段通りの一日だったということだ。

ただ、それだけのこと。

そんなふうに言ってしまえば聞こえはいいけれど、要するにそれは、ぼくたちの日常の延長線上にあるものでしかない。流れ星なんてものは、結局のところ一瞬の出来事に過ぎないのだ。

空を見上げればいつでもそこに浮かんでいるし、願い事を三回唱えようと思ったって、一回目を口に出した時点でもう終わっている。それどころか、二度目を唱え終わる頃には新しい星が流れていく始末なのだ。

だからといって、夜空に浮かぶ無数の煌めきを否定する気もない。ぼくだって毎年この時期になると、なんだか妙に気分が高まって落ち着かない気持ちになる。それに今年は特別だ。なぜなら、ぼくにとって流れ星とは、単なる現象ではなくひとつの物語でもあるからだ。

去年の冬、私は空を見上げた。

それは、とても美しい流れ星だった。

真っ暗な夜空を切りさく光の筋は、一瞬にしてぼくの心に焼き付いた。

あの輝きを忘れることなんてできないと思った。

今年も同じ季節になった。

あの時見た流れ星を思い出す度に、胸の奥がきゅっと締め付けられるような気持ちになる。

きっと来年になっても、同じ気持ちになれると思う。

だって、あんなにも素敵なものだったのだもの。

ぼくにとって、忘れられない出来事なのだから。

あの後、願い事を三回唱えるのは無理だと知って、ちょっとだけがっかりしたことを覚えている。

でも、また見られるかもしれないと思って、少し期待してもいる。

今度はちゃんと言えるだろうか。

そんなことを考えながら、今日も私は窓の外の夜空を見上げる。

そして思う。

どうかお願いします。

いつかもう一度、あの綺麗な光が見られますように。

loading

この作品はいかがでしたか?

1

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚