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ドアの横には、小さな窓がある。そこに映るのは、空に浮かぶ星の群れ。
この星屑の街でも、星々を見ることはある。
街の上空に広がる夜空には、無数の光点が存在しているからだ。
けれども、それは本当の意味での夜空ではなかった。
街灯のない路地裏では、星たちは闇のなかに沈んでいる。
月明かりさえもない夜の暗闇のなか、それでも彼らは輝いていた。
地上に降ることのない、遠い輝きとして。
この部屋の窓から見えるのも同じ光景だ。
空を見上げればいつでもそこにある、ありふれた風景。
だからだろうか。
僕は、いつも見慣れているはずのそれを、不思議にも思わなかった。
けれど、今こうして改めて眺めてみると、やはり奇妙な感覚に襲われる。
この街に漂う空気そのものが、この景色を生み出していることに気づかされるのだ。
まるで、ここにしかないものが、ここにはあるかのような錯覚。
それこそが、僕にとっての夜空なのだということを、思い知らされるようだった。………………。
ふと我に返ると、いつの間にか隣に来ていた彼女が、同じように窓の外を見ていた。
「きれいね」
彼女はぽつりとそう言うと、目を細めるようにして微笑んだ。
僕は小さく息をつくと、それに同意するようにうなずく。
それからしばらくの間、僕らは何も言わずに同じものを眺め続けた。
やがて、僕の方から彼女に話しかける。
「今日は、何かあったのか?」
その質問に対して、彼女は首を横に振った。
どうやら特に変わったことはないらしい。
まあ、普段通りの一日だったということだ。
ただ、それだけのこと。
そんなふうに言ってしまえば聞こえはいいけれど、要するにそれは、ぼくたちの日常の延長線上にあるものでしかない。流れ星なんてものは、結局のところ一瞬の出来事に過ぎないのだ。
空を見上げればいつでもそこに浮かんでいるし、願い事を三回唱えようと思ったって、一回目を口に出した時点でもう終わっている。それどころか、二度目を唱え終わる頃には新しい星が流れていく始末なのだ。
だからといって、夜空に浮かぶ無数の煌めきを否定する気もない。ぼくだって毎年この時期になると、なんだか妙に気分が高まって落ち着かない気持ちになる。それに今年は特別だ。なぜなら、ぼくにとって流れ星とは、単なる現象ではなくひとつの物語でもあるからだ。
去年の冬、私は空を見上げた。
それは、とても美しい流れ星だった。
真っ暗な夜空を切りさく光の筋は、一瞬にしてぼくの心に焼き付いた。
あの輝きを忘れることなんてできないと思った。
今年も同じ季節になった。
あの時見た流れ星を思い出す度に、胸の奥がきゅっと締め付けられるような気持ちになる。
きっと来年になっても、同じ気持ちになれると思う。
だって、あんなにも素敵なものだったのだもの。
ぼくにとって、忘れられない出来事なのだから。
あの後、願い事を三回唱えるのは無理だと知って、ちょっとだけがっかりしたことを覚えている。
でも、また見られるかもしれないと思って、少し期待してもいる。
今度はちゃんと言えるだろうか。
そんなことを考えながら、今日も私は窓の外の夜空を見上げる。
そして思う。
どうかお願いします。
いつかもう一度、あの綺麗な光が見られますように。