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彼の瞳の奥に光が走ったように見えた。
一瞬にして輝きを増していく光輝。
まるで、 今にも天高く駆け上らんとする彗星のように……。
空へと向かっていく光の尾……。
それは、星の生まれる瞬間の光景だ。
まぶしいほどに輝くその姿に、 僕は思わず目を細めていた。
やがて、僕の目の前で、 小さな光はゆっくりと落下しはじめる。
ふわっと舞い降りてきたのは、 まぼろしのように美しい白い羽根……。
天窓のガラス越しに見える空は、 澄み切った青に染まっていた。
雲ひとつない晴れやかな天気なのに、 太陽の位置が低いせいなのか……
不思議なことに、まるで夜のよう。
そんな蒼い光のなかを……一筋の光が駆け抜けていく。
光の尾を引いて飛ぶその姿は……鳥だろうか? それとも……流れ星? 一瞬のうちに通り過ぎて行ったそれは、 確かに鳥でも流れ星のように見えたのだけれど……。
なぜか……不思議とその輝きに懐かしさをおぼえた。
「あぁ、また来たね」
突然、耳元で聞こえたのは……
聞き覚えのある、優しい声。
びっくりして振り返ると、そこに立っていたのは……
「えっ!? お兄ちゃん!?」
いつも優しく微笑んでいる兄の姿がそこにはあった。
だけど……どうしてここにいるんだろう? それに……ここは学校の屋上だし……。
「今日はもう寝よう」
空を見上げれば、星々が煌めいている。
それはまるで宝石のように美しく輝いているけれど、 今の僕にとっては鬱陶しいだけだ。
僕はベッドの上に身を投げ出した。
布団を被ることもせずに、仰向けになる。
天井の星明かりだけが僕の顔を照らしている。
窓の外からは虫たちの鳴き声が聞こえてくる。
でもそんなものは気にしない。
どうせ明日になればまたいつも通り、朝早くから夜遅くまで働き続ける日々が始まるのだ。
こんな時間くらいは何も考えずに眠ってしまおう―――
そう思った時だった。
視界の端を光が横切った。
流れ星だ。
願い事なんて考えてなかったけど、咄嵯に目を瞑った。
強く願う。
(どうか神様お願いします。来週納期の仕事だけはありませんように!)
心の底からの祈りと共に目を開けると、そこには見慣れない光景が広がっていた。
辺り一面真っ白な空間。
床や壁の境目が分からないほどに白いため、今自分が立っているのか座っているのかさえも分からなくなる。
気が付くと、さっきまでの星明りの代わりに淡い光を放つ球のようなものがいくつか宙に浮かんでいた。
ふわふわと漂うそれらの輝きは淡く優しいものだったが、それでも不思議と周りの様子を窺い知ることが出来た。
改めて自分の身体を確認する。服装に変化は無いし、怪我をしている様子も無い。ポケットに入れておいたはずの財布も無くなっている。あの事故は何だったのか……
「あーっ!」突然大声で叫んだ俺に周囲の注目が集まる。しまった!ここは駅のホームじゃないか!俺は急いで電車に乗り込んだ。
あれから一週間経った今も俺は同じ状況に悩まされている。今日こそは真相を突き止めようと思い立ったものの、会社では忙しくてそれどころじゃない。仕事が終わると疲れ果てていてとても調べようという気にならないのだ。帰宅してベッドに入ると泥のように眠ってしまう。
それでも何とか睡眠時間を削って、ネットで検索したり人に聞いたりしながら少しずつ調べを進めている。今のところ分かった事といえば、あの日は月曜日だったこと。通勤途中に線路内に猫が落ちていたらしいこと。俺は猫を助けるために身を投げ出したということくらいである。結局、何も分からないままだ。