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僕の身体がふらりと揺れる。驚きすぎて全身の力が抜け、立っていられなくなったのだ。

しかしすぐにラズールが僕の肩を抱いて支え「大丈夫ですよ」と優しく囁く。

僕はラズールを見上げた。

力強く頷いたラズールの目を見ていると、不安で押し潰されそうになっていた気持ちが、少しだけ軽くなる。震える手を大きな手で握られて、ようやく言葉を発することができた。

「ぼ…私を妃に…?バイロン国の使者は…確かにそう言ったの?」

「はい、書簡を預かっております」

「見せて」

「かしこまりました」

騎士が上着の中から上質な紙で包まれた書簡を取り出す。

手が震える僕の代わりに、ラズールが書簡を受け取った。そして僕に見えるように広げた。

そこには、新たにイヴァル帝国の王となったフェリ女王に、クルト第一王子の妃となるよう要求する、もし断るならば、力によって国と王を奪い取ると書かれていた。

「そんな…」

「フィ…フェリ様っ」

僕の視界がぐらりと揺れる。目の前が暗くなり固く目を閉じた。次の瞬間、僕の身体が宙を浮く。

「部屋で休まれた方がいい。おい、その書簡を大宰相の所へ持って行ってくれ。王は気分が優れない。部屋でお休みになられる。しばらく誰も部屋へ近づけるなと伝えてくれ」

「はっ!かしこまりました」

顔の上からラズールの厳しい声がする。

僕が倒れる前に、ラズールが抱き上げてくれたのだ。

僕はラズールの胸に顔を寄せると、意識を手放した。

「フィル…フィル…」

「んぅ…」

「気がついた?」

僕を呼び続ける声に気がついて、ゆっくりと目を開けた。目の前にネロの顔がある。ネロは僕と目が合うと、安心したように笑った。

「僕…」

「気を失ってたんだよ。それにうなされてた。大丈夫?」

「大丈夫…じゃないかも」

「そうだよなぁ。クルト王子のヤツ、無理難題をふっかけてきたよな」

「うん…。そもそも妃になんてなれる訳ないのに…僕は男だから」

「女だったとしても嫌だろ?」

「うん…」

「いっそ男だってバラしちゃえば?」

「えっ」

ネロの言葉に驚いて、僕は飛び起きようとした。しかしネロに肩を押されて、ベッドに戻されてしまう。

「まだ起きたらダメだよ。体調も戻ってないところにショックなことを聞いたんだから。もう少し休んでな」

「男だと…バラす…?」

「そう。フィルもさ、女のフリをするのは疲れただろ?」

「でも、イヴァル帝国は女でないと王になれない…。姉上がいなくなった今、残った僕が姉上の代わりになるしかない…」

「なぁ、そもそもなんで女じゃないとダメなんだ?」

「それは…」

女王じゃないと国が滅びるから。そう言い伝えられている。そのことに、今まで疑問すら持たなかった。だけど本当にそうなの?女のフリをしているのに、こんな困難な目に合うのなら、男に戻ってもいいのでは?

そこまで考えてダメだと首を振った。

「ダメだ…できない。それはしてはダメなんだ」

「なんでっ」

ネロが声を荒げて怒った。

僕のために怒ってくれてるのかな。だとしたら嬉しいな。

僕は止めるネロの手を優しく押して、上半身を起こした。そしてシャツのボタンを数個外すと、前をはだけさせた。

「何して…えっ?」

手を口に当て、ネロが目を見開いている。

そうだ、それがこの痣を見た人の正しい反応だ。

ラズールやトラビスが僕の痣を見ても怖がらないから、むしろキレイだなんて言うから麻痺してた。この痣が僕の身体に傷をつけることを許さないから、勘違いしてた。

間違えてはいけない。これは僕が呪われた子だという証。これを見た人はおぞましく思うのだ。そしてこの痣は、僕の身体に傷をつけることを許した。痣で覆われた左腕を、リアム王子が斬り落とすことを許した。

でも…。このことがバレるとラズールに怒られるのだけど。本当に痣がある箇所を傷つけることができるのなら、呪いの効力はなくなったのではないか。僕はもう、呪われた子ではないのではないか。そう思って、ラズールが傍にいない時に脇腹を刺してみた。

結果、刃は刺さらなかった。ゆっくりと押してみても、勢いよく突き出してみても、短剣の鋭い尖端は、肌を突き破らなかった。

「なんだ…呪われたままじゃないか…」

そう呟いて、僕は泣いた。両手で顔を覆い唇を噛んで、声が外に漏れないようにして泣いた。

呪いがなくなったのなら、この重圧から逃げたかった。僕は王にはなりたくない。王の器じゃない。王となった姉上の影で、姉上の手伝いができればそれでよかった。姉上が僕をいらないと言うのなら、どこかの田舎で農夫をしながら暮らしてもよかった。

でもこの国の王族は、もう僕しかいなくて、僕が王になるしかない。国のためにやれる限りのことを頑張るしかない。

「これは…どうしたんだ?」

ネロの声に飛んでいた意識が戻る。

僕はネロと目を合わせて少しだけ笑った。

「母上が亡くなった頃にね、急に現れたんだ。これは呪いの痣。僕が呪われた子だという印…」

「呪われた…。フィルが双子で男だからか?」

「そう。この国では双子は不吉で、王子はいらないから」

「…くっだらねぇ!そんなアホな言い伝えがあってたまるかっ」

いきなりネロが大きな声を出したので、驚いた。驚いて、ポカンとネロの顔を見つめた。

ネロが手を伸ばして痣に触れた。少し冷たい手に、僕の身体がピクンと揺れた。

「気持ち悪く…ないの?」

僕の問いに、痣を見ていたネロの目線が僕の顔に移る。

ネロは僕の顔をジッと見つめた後に、明るく笑った。

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