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愛していた。
ずっと。
そう、
それも、
過去の話。
『ぁ゛、が……』
『…………………………』
『らっ、だ…』
『…なぁに?』
『好き、だったよ。』
『…俺もだよ。』
もしも、俺だけの世界ならば。
そう、誰かを恨むことなんて、知らないで済んだのに。
どうしても、どうしても。
貴方のことが許せない。
仕事で疲れた日には、いつもこの山に足を運ぶ。
星がよく見えて、足元に花が咲き誇る幻想的な場所だ。
悩みやつらさなど吹き飛んでしまうほどに美しくて、時が経つのも忘れてしまう。
夜は、ただ永い。
だから、こうしてその寂しさを濁してしまいたいんだ。
「…人は、捨てきれない。」
ふと頭に浮かんだ言葉を、そのままに呟く。
そう、だから、見苦しいね、なんて思ってしまう。
俺も、その愚かさと儚さが中途半端に混ざった、醜い生き物。
それなのに、この期に及んで尚、朝日に心動いているのは何故だろうか。
山を下って、見慣れた扉の中へ帰る。
今日はもう寝てしまおうか。
そう考えながら、かすかに痛む脳みそを抱えて歩く。
一本だけ手折ってきた花を花瓶に生けた。
ふと、幸福の裏側に潜む、不幸について思考を巡らす。
幸せの上澄みを抱きしめてしまったら、もう最期だ。
その美しさに溺れて、堕ちて、手の届かないところまで沈んでから、後悔がやってくる末路。
その綺麗さを信じてしまった、私の白さを憎むの。
「あなたを好きでいたあの日々が何よりも、なんてね。」
そんな妄言を吐いては、ひとり自嘲する夜。
こんな日々でも今はもう本当に、大切で、愛しくて、痛くて、惨め。
感謝の一つも思い浮かばない毎日。
『らっだぁなんか大っ嫌いだ!』
『はぁ!?こっちのセリフなんだけど!』
『本当に意味わからん!』
『そっちこそわかんねーよ!』
『もういい!別れるっ!』
『は、』
もしもあの頃、お日様を浴びた布団に、包まる健気な君が。
そのままで居てくれれば。
どれほど、どれほど良かったのか。
もう、知る由もない。
今日もあの山に向かう。
最近は、星の動きと花の種類で季節を見分けることができるようになってきた。
我ながら、成長したもんだと感心している。
今日はもう帰ろうか。
寂しさが離れてくれない日は、眠ってしまうに限る。
あぁ、またお花を摘んで、今日も家に帰る。
「ただいま〜。」
手と手を合わせて。
祈りみたいだね、なんてふと思う。
それも似たようなものだろう。
もうすぐ其方に往くからね。
たとえ心に蛆が湧いても、まだ香りはしているから。
生きていることに変わりはない。
あの日の温もりを、酷く愛してる。
『らっだぁなんか知らん!』
『はぁ!?なんでよ、ぐちつぼだって悪いじゃん!』
『なんで俺のせいになんの!?』
『だって先にやったのはぐちつぼでしょ!』
『だからそれがらっだぁのせいだって言ってんの!』
『ちゃんとその時言ってくれればわかったんだけど?』
『はぁ?』
何もわからない。
忘れてしまってほしい。
寂しい。
どうすればいい?
ただ、ともすればもう、醜悪な汚染の一部。
何もわからない。
忘れてしまってほしい。
寂しい。
ならどうすればいい?
いっそ忘れちゃえばいい?
そうだ、家に帰ってキスをしよう。
消えることがないから、せめて俺から消してしまいたい。
『さよなら。きっと、もう会うことはないね。』
『…………………………』
『また来世で幸せになろうか。』
『………………………………』
『きっと神様が助けてくれるから。』
どうすればいい?をどうすればいい?
まだ私は貴方の一部だ。
幸せと、生きていることが拮抗する。
腐ってしまうこの身を、飾ってください。
私のことだけは忘れないで。
今日も山を登る。
綺麗な星空が、爛漫と咲く花々が、いつしか眩しく思えていた。
このままこの輝きの中に、溶けてしまえれば楽だろうな。
それでも、ここを手放すことができないのは、きっと俺が汚れているから。
貴方のように、散ってしまうことは叶わないんだろうな。
…あれ、
「貴方って…誰だっけ?」
ふと、そんなことに気づく。
けれど、疑問はどうでもよかった。
憶えていないから、仕方がない。
思い出せないから、仕方がない。
「…あは、」
一輪の花を手にして、いつもと同じ道を辿る。
頭痛が酷い。
ただただつらい。
何故だろう、特に何かしんどいことがあったわけでもないのに。
ただどうしようもなくつらい。
花を花瓶に挿す。
また、幸せと不幸について考える。
不幸の中に浮かぶ幸福を抱きしめてしまったら、もう最期だ。
あり得ないほどに美しい幸せに溺れて、ささやかな愛で満たされることがなくなってしまうから。
その煌めきを信じてしまった、私の白さを憎むの。
あなたを好きでいたあの日々が何よりも、なんて、もう言えるはずもない。
そんな自分の感情が、大切で、愛しくて、痛くて、惨め。
なのに、忘れることすらできないのは何故?
あぁ、またお花を摘んで、今日も扉の向こうに帰る。
「…さよなら。」
手と手を合わせて。
願うことなど何も無いのに。
それももう、ただただ静けさの最中。
もうすぐ其方に往くからね。
未だ心に蛆が湧いても、まだ香りはしているんだ。
生きることに理由なんてないけれど。
あの日の温もりを、酷く愛してる。
愛している。
『神様………ッ』
貴方に会いたい。
頭が痛い。
つらい。
苦しい。
『会いたい…だけ、なのに、』
「じゃあ、死んだら?」
「…は、」
何故こんなにも苦しいのだろう。
『神様なんていなかったね。』
あぁ、天使の笑い声で、今日も生かされている。
今日も生かされていたんだ。
『…ごめん、ごめんね、』
もうすぐ其方に来る頃ね。
「らっだぁ。」
「…うん。愛してくれて、ありがとう。」
「死んで。」
「いいよ、今行くから、待ってて。」
あの頃のままの君に、また出会えたとして。
どれほど醜く成り下がろうと、貴方が愛してくれる限り。
今度はちゃんと手を握るからね。
『ぁ゛、が……』
『…………………………』
『らっ、だ…』
『…なぁに?』
『好き、だったよ。』
『…俺もだよ。』
もしも、俺だけの世界ならば。
そう、誰かを恨むことなんて、知らないで済んだのに。
もう、誰かを愛することなんて、知らずに済んだのに。
どうしても、どうしても。
愛することを辞められなくて、恨むことすらできないから。
貴方のことが許せない。
愛されていた。
貴方に。
そう、
これも、
過去の話。
End。