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ぱたん
「ただいま〜。」
まだ人気のない、ひんやりとした部屋に声をかける。
今日も疲れたな。
らっだぁを待っていてあげたいけどどうしよう、めちゃくちゃ眠い。
ここ最近は、らっだぁと話せていないどころかまともに顔も見れていない。
俺も忙しいし、らっだぁは俺よりもっと忙しいからしょうがないけど。
「⋯寂しい、」
ふと、そんな気持ちがこみあげた。
そんなこと言ったって、どうしようもないのはわかってるけど。
寂しくなったんだ。誰か、俺を温めてよ。
「ん⋯」
くあぁぁ⋯っ、とあくびをして、目をしぱしぱと瞬かせる。
もう朝になって、星達も塵になってしまった。
らっだぁは結局、昨日帰ってきたのかな。
バタバタッ
「ん?」
ダイニングから聞こえた足音に、少しの期待が沸く。
「らっだぁっ!」
「⋯え、」
寝間着を引きずって駆け出してみれば、久々に見る恋人の姿。
隈がひどい、どれだけ頑張ってるんだろう。
俺のために頑張ってくれてるのに、俺は何もできてない。
「ぐちつぼ⋯おはよう、久しぶり。また、今日が始まったね。」
「らっだぁ、おはよっ⋯、隈すごいよ?ちゃんと休んでる?」
「それはぐちつぼもでしょ。最近帰ってくるたびに眠りが浅くなってない?心配なんだけど。」
淡々と返される言葉に、少し胸が痛んだ。
心配してるのは俺の方だよ。
らっだぁが寝てるところ、最近一回も見たこと無いし。
眠りが浅くなってるのは、いつまでも帰ってこないらっだぁを迎えたくて。
「おかえり」って言いたいから、待ってるんだよ。
「らっだぁがいてくれれば、俺は大丈夫。それこそ、らっだぁの方が寝てないじゃん。」
「俺もぐちつぼがいてくれればいいの。そろそろ俺、会社行くよ。」
「⋯ん、俺も行く。いってらっしゃい。頑張ってな。」
「いってきま〜す。ぐちつぼも頑張れよ。」
行かないで、そう言いたい気持ちをぐっと飲み込んだ。
俺なんかよりらっだぁの方がつらいんだから。
大丈夫、おやすみを云うまでの辛抱だ。
ぱたん
「⋯はぁ、」
しんどい。
仕事がほとんど日付より早く終わらなくなってきて、まともな生活すら送れていない。
できるだけ、隈とか隠すようにはしているけど。
ひどく疲れてるんだ。
潤してよ、なんて言えるはずもない。
本当はぐちつぼが俺を待ってくれていて、そのせいで寝られていないのも知っている。
それでも、つらさに負けてしまって感情を込めて話すことができない。
ぐちつぼが俺にちゃんと向き合おうとしているのに、俺は距離を置くばかりだ。
ぐちつぼだって疲れてるはずなのに。
「ちょっ、待って!」
「へ?」
ぎゅっ
ぐちつぼにハグされた。
どういうこと?ぐちつぼも会社に行かなきゃいけないのに。
「寂しかったから⋯ハグ、だけでも。」
「⋯なにそれ、めっちゃ可愛い。」
「なっ⋯うるさい。」
思わず本音を呟けば、赤くなって睨まれてしまった。
本当のことなんだからしょうがない。
俺に会えなくて、寂しかったんだ。
「いいよ、好きなだけ一緒に居るから。」
「⋯ん。」
今までの寂しさも埋められるくらい、ずっと一緒に。
ハグをしよう。
アナタと私だけのハグをしよう。
「はぁ⋯、」
今家に帰るのがめちゃくちゃ気まずい。
朝すごい恥ずかしいこと言ったし、帰った時にらっだぁがいたら本当に逃げたいくらい。
「⋯ただいま〜。」
人気のない部屋。
昨日と、変わらない部屋。
期待なんてしなきゃよかったかな。
悲しくなった。誰か、俺を慰めてよ。
これじゃ、昨日と同じままだ。
夜になれば、お日様が裏切って去っていく。
俺が暗いのが怖くて苦手なこと、知ってるくせに。
「なんで、帰ってこないんだよ⋯。」
「⋯つぼ、ぐちつぼ、」
「んぇっ?」
体が揺さぶられて目を覚ます。
「⋯らっだぁっ?」
「ん、おはよう。また今日が始まったね。」
らっだぁのお決まりの挨拶が耳に響く。
なんで、
「ごめんね、いつも早く帰ってこれなくて。」
「へ、」
唐突な謝罪に戸惑う。
そんなことないのに、俺の方が、俺は何もできてないのに。
「⋯おやすみが云えるだけ、有りにしてくれないかな。これからは。」
そう言って、俺を抱きしめるらっだぁ。
⋯それって。
「⋯俺さ、ひどく考えんだ。もし、らっだぁがいなくなっちゃったらって。」
震える声で、小さな気持ちを伝える。
狂わしてくれるくらいに、らっだぁに愛してほしい。
そうしたら、ここにいても良いと思えるから。
アナタと私だけの街にしよう。
正直、もう何もかもがぼろぼろで。
しんどくなって、余計に眠れない夜が続いていた。
心の恋もノミだらけになってしまった気がして、ぐちつぼと話すのが少し怖くなっていた。
つらくて、苦しくて、割れたガラスの破片が手に刺さって。
この血だらけの手で、ぐちつぼを抱きしめるのが怖かった。
それでも傍に居たいから、そんな血だらけの愛でも、隣の席に立候補した。
その正体を、必死に衣だらけの上書きで隠して。
ぐちつぼの一番でいたいのに、この血だらけの愛は一等賞になれるのかな、なんて思ったりして。
だから、また繰り返す。
俺から言える、精一杯の愛。
「おはよう、また今日が始まったね。」
お星様に礼を言うばかりだ。
「ねえぐちつぼ、俺ね、ひどく疲れてんだ。潤してよ。」
お決まりのセリフに、少し本音を付け足して。
固まっているぐちつぼを、ぎゅっと包みこんだ。
「⋯うん。」
「大丈夫、ずっと一緒に居るから。」
ハグをしよう。
ハグにしよう。
「私と、」
「私だけの、」
「「ハグにしよう。」」
End。