私は三人組に慰められたあと、本屋に寄った。
これといった理由は特にないが、放課後どこか寄ることに憧れを抱いてはいたからだ。あとは普通に、私は本が好きだった。
とある店にある本屋に寄ってうろちょろしていた。そこでふと漫画コーナーへと移った。
いつも小説ばかり読む私だが、クラスの人たちが漫画の話題を話しているのを聞いて、興味が湧いたのだ。
漫画コーナーで興味のある題名の漫画を見つけたから、それを手に取ってみた。どうやらこの漫画は小さな子供の恋愛の漫画らしい。私はあの三人組のことが頭に残っていたためか、その漫画を手に取り、レジへと向かっていた。
レジで買ってからすぐに家へ帰り、そのまま一巻を全部読んでしまった。
私はその時思った。
「…私も漫画描きたいなあ」
その漫画を描いた人に憧れ、私も小さな子供を題材とした漫画を描きたいと強く思うようになった。それが漫画家へのきっかけだった。
私はその後、最終巻まで買い占め、何日かで全巻読み終わってしまった。
私は漫画を読み終えてから、より一層、漫画家になりたいと憧れを抱くようになった。
「お父さん」
私がお父さんのことを呼ぶとお父さんは、なんだ?と話を聞いてくれた。
「私、もうすぐ大人だから今からでも一人暮らしとか始めたいんだけど…」
私がそう言うとお父さんは真剣な顔へと変えた。
漫画家になりたいとは言ったものの、漫画家一本で食っていくには難しいと、お母さんにもお父さんにも否定されることは分かっていたから、一人暮らしに逃げたかったのだ。まあ、理由は他にもあるのだが。
「そうか…そろそろ大人だからな…」
そう言うとお父さんは一人暮らしの許可を出してくれた。
私はお父さんにお願いして、木造のアパートに住ませてもらうことになった。
家に関するお金は全部お父さんが払ってくれるとのことだった。まあ、スマホ代もお父さんが払っているけれど。
そんなこんなで、私は高校二年生の春に一人暮らしを始めた。
新たな学年になったりと、春は沢山の行事があるからか、家はおすすめがすぐ見つかり、授業が本格的に始まる前だったから、引越し作業に手間がかかる心配もなかった。
それから、私は絵の研究や、物語の作り方などをネットや本、クラスメイトに聞いたりして、漫画家になっていった。
「…私の過去といえばこんな感じ。つまんなくてごめんね」
私が苦笑混じりにそう言うと奇縁ちゃんは興味のなさそうな声で、別に、と言った。
「でも、お姉さんはそんなことで美輝ちゃんを襲おうとしたわけ?理由にもならないし」
「…そうだよ」
奇縁ちゃんの言うことはごもっともだ。私は理由にもならない理由を抱えて、一人の小さな女の子の純粋さを奪おうとしたんだ。
「奇縁ちゃんの言う通りだよ。承認欲求は自分が努力さえすればなんとかなるのに、二度と戻らない美輝ちゃんの純粋さを奪おうとした。絶対戻らない、大切なものを」
私は涙を流しながら話した。自分の才能のなさで認められないと言って、それがなんだ。まだ私よりも未来のある子の純粋さを欠かせば、それはもうトラウマとなって、将来それを引きずることになってしまうんだ。
私が自分の行いを悔やんでいる時、奇縁ちゃんは床に置いていた包丁を取って言った。
「ねえお姉さん。私さ、人を殺したの」
「……は?」
私は驚いて素っ頓狂な声が出てしまった。涙はもう流れていない。引っ込んでしまった。
奇縁ちゃんが人を殺した?なんのために?学校に通ってないとはいえ、まだ小学一年生くらいの年齢の女の子が?
混乱する私を他所に、奇縁ちゃんは淡々と告げた。
「私のお母さんと、美輝ちゃんのお母さんとお父さんを殺したの。まあ、まだ合計三人だけどね」
私は驚きと恐怖心がさっきの光景から蘇り、声も出せず、動けないでいた。
だって、その事実を告白されたら、私のことを、口止めとして殺すかもしれないから。
奇縁ちゃんは新しくガムテープを私に 貼ろうとし、包丁を首元に少し当てて、顔色ひとつ変えずに言った。
「お姉ちゃんが私たちの、私と美輝ちゃんの生活を邪魔しないで、警察に通報しないなら、殺さないであげる。ああ、あと漫画の相談とかも受け付ける。
だけど、警察に通報しようものなら、遠慮なくお姉さんを殺す。どっちがいい?」
私は恐怖で一杯一杯だったが、奇縁ちゃんの提案を聞いて、恐怖心はあまりなくなった。
「本当に私が警察に通報しないなら、漫画の相談、受け付けてくれるの…?」
私が聞くと奇縁ちゃんはうん、とだけ言った。
漫画の相談を受け付けてくれて、警察に通報しないだけなら、私だってできる。
「わかった。警察に通報しない。だから、漫画の相談、受け付けてくれる?」
私が真剣な眼差しでそう言うと、奇縁ちゃんはやっとガムテープと包丁から手を離してくれた。
「良かった。お姉さんが警察に通報しないような人間で」
奇縁ちゃんは少し狂気じみた笑みを浮かべた。その目は笑っていない。そして、その赤い瞳に私はまだ、映っていない。
包丁とガムテープを椅子にかけてあった鞄に入れ、思い出したように上を一瞬見つめ、私の方を振り返った。
「お姉さんってお金持ち?もしお金持ちだったらさ、お願いがあるんだけど」
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