「だけど、その子とは駄目になっちゃったんだ。その子は良いところのお嬢様でさ、今どき信じられないけど、政略結婚の為の許嫁がいたんだ。彼女はそんな気なくて俺と別れたがらなかったんだけど、彼女の父親が怒って……俺たちは半ば強制的に別れさせられた。それが、ちょうど高校卒業の頃だった。律と鈴は俺が別れた頃に付き合い始めたみたいで、俺としては心底面白くなかったよ。別に二人が悪いわけでもなかったけど、八つ当たりだって分かってたけど、許せなかった。二人が幸せそうにしてる事が……」
それも律から話を聞いた通りで、お兄さんは律と鈴さんの仲を壊したくて、鈴さんに迫ったと。
「だから俺は、どうしても律から鈴を奪ってやりたくて――」
お兄さんがそう言葉を続けようとした、その時、ドンッと外から窓を叩く音が聞こえてきた事に驚いて外へ視線を移すと、
「律……!?」
殺気に満ち溢れた表情を浮かべた律の姿がそこにあった。
そして鍵のかかっていないドアは外から開けられ、
「琴里!!」
律のその声と共に、私の身体は抱き締められた。
「律……」
「馬鹿野郎! 何で電源切るんだよ! 心配したんだぞ!?」
「……ご、ごめん、なさい。けど、どうして?」
「探したに決まってんだろ? 街で会ったって兄貴が言ってたから、まだ近くに居るかと思って探してたんだ。そしたら兄貴の車見つけて、二人の姿が見えたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
これには流石に驚いたけど、息を切らしてまで探してくれた事は、凄く嬉しかった。
「つーか兄貴も、電話に出ろよな!」
「うーん、出ようとはしたけど、琴里ちゃんの意志を尊重したんだよ」
「クソが!」
「はは、酷い言われよう」
律は息を整えると真剣な眼差しでお兄さんを見つめ、
「……兄貴、これから俺のアパートに来てくれ。鈴を待たせてる。このままじゃ駄目だと思う。一度話をしよう。琴里も、来てくれるか?」
「……うん」
「……はあ。分かったよ」
律の言葉に渋々と言った感じでお兄さんは了承し、私たちは律のアパートへ向かう事になった。
アパートに着くと中で待っていた鈴さんに出迎えられた。そして、重苦しい空気の中、私と律が横並びに座り、その向かい側に鈴さんとお兄さんが並んで座って話し合いが始まったのだけど、いざ話そうとなると何を切り出したらいいのか分からないようで、誰が話を始めるか探りあっている状態だった。
暫くして、その沈黙を破り最初に口を開いたのは――お兄さんだった。
「さっき、琴里ちゃんとは話が途中だったよね。鈴、律、俺、さっきまで俺たちの過去について彼女に話をした。ちょうど、俺が二人の仲を壊してやろうと思ってた時の話をしている途中だったんだ。彼女、途中まで聞いてて気になってるだろうし、二人もそのまま聞いてくれるかな?」
「蓮! その話は……」
「鈴、黙って聞いてろ。兄貴が話すって言ってんだから俺は聞きたい。過去の話だ、今更何を聞いても……俺は平気だから」
お兄さんの言葉に何故か慌てる鈴さんと、それを制して冷静な態度で対応する律。
一体お兄さんが話そうとした事の続きには何があるのか、私は気になって仕方がないのと同時に不安な気持ちが溢れてきて、ザワつく心を必死に鎮めていた。
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