「俺が付き合ってた彼女と別れて、律と鈴が付き合っていた事が面白くなくて、二人の仲を壊してやりたかった俺は……鈴を自分のモノにしよう、律から奪ってやろうと思って……嫌がる鈴を、無理矢理犯したんだ」
そう淡々と話し出したお兄さんの言葉に、私は絶句した。
そして、それを聞いた鈴さん本人は悲痛な表情を浮かべると顔を俯けてしまい、律はというと、拳を強く握りしめてはいるけど、表情は変わっていなかった。
要するに、鈴さんが自ら望んでお兄さんと関係を持ったわけではなくて、無理矢理されたというのが、事の顛末だった。
そして、それを話せなかった鈴さんと律の関係は悪化して、律は真実を知らないまま別れてしまったという事なのだ。
だとしたら、鈴さんが律を想っている事に納得がいく。だって、彼女自らが望んでいない事が原因で別れてしまったんだから。
「……律、知ってたんだ?」
あまりに冷静な状態で話を聞いている律を不思議に思ったお兄さんが問い掛ける。
「ああ、それを知ったのはだいぶ後の事だけどな。鈴本人から聞いた」
「そっか。鈴はそれを話して、俺の元から律に連れ去って貰いたかったのかな?」
お兄さんの問い掛けに頷く事も否定する事もしない鈴さん。
彼女の事はあまり好きではないけど、話を聞いて律から離れた真相を知ってしまった今、彼女には心底同情する。
私が鈴さんの立場だったら、もの凄く辛いもの。
再び誰も話さなくなってしまい、気まず空気が漂っていく。
「……鈴から話を聞いた時、俺は兄貴を本気で殺してやりたいと思った。ふざけるなって思った……けど、元は鈴も兄貴が好きだったわけだし、俺が自分の気持ちに気づかなければ、こんな事になってなかったのかもしれないとも思った。何よりも二人は結婚しちまったし、もう今更だろって思ったよ」
今度は律が胸の内をぽつりと話し始めた。
律は律なりに自分の中で気持ちの整理をつけて過去の事にしようと思っていたはずなのに、鈴さんは何故、結婚してしまってから過去をカミングアウトしたのだろうか。
その答えは、すぐに知る事になる。
「……そうだね、でも、鈴はきっと、もっと早く言いたかったんだと思う。勿論、俺と結婚する前に打ち明けたかったんだと思うよ。でも、それが出来なかったんだよ……」
「蓮……もういいの、お願いだから、もうこの話は止めて……」
「もう隠す必要はないよ。全て話した方が楽だろ?」
「何だよ、まだ何か隠してる事があるのか?」
「ああ、そうだよ。そもそも俺と鈴が、何で結婚したか分かる? 鈴は俺に無理矢理されて律と別れさせられたのに、望んで結婚するはずないって分かるだろ?」
「何だよ、それじゃあ、結婚も無理矢理強要したってのか?」
「……強要するつもりはなかった。けど、そうせざるを得ない状況になった……っていうのが正しいかな。当時鈴のお腹には俺との子供が出来て、その事がきっかけで俺たちは結婚を決めたんだ」
鈴さんとお兄さんが結婚する事になった理由――それは、二人の間に子供が出来たからだった。
「何だよ、それ。そんなの親父もお袋も言ってなかったじゃねぇか」
「それはそうだよ。父さんにも母さんにも言ってない。安定期に入ってから周りには言うつもりだった。けど、籍を入れて少しして、子供は……流れちゃったんだよ……」
「…………そう、だったのか……」
「それでも、もう籍は入れてたから今更別れる事も出来なかった。鈴も、過去の事は水に流して俺と生きる決意をしてくれたけど、子供もいなくなって、やっぱり俺の事は許せなかったんじゃないかな? 一緒に居ても、どこか楽しくなさそうだった。俺はそんな鈴の傍に居るのが辛くなって、他の女に逃げるようになった。だから鈴は、律に助けを求めに行ったんだろ? 俺の元から連れ出して貰いたくてさ」
「…………」
「今更謝って済む事でもないけど、鈴には悪い事をしたって思ってる。俺は好きだけど、やっぱり俺たちはこのまま一緒に居続けていても、関係の修復は出来そうにないね。もう、鈴の好きなようにしていいよ」
お兄さんは彼女にそう言ったけど、鈴さんはただ黙ったまま。
そんな鈴さんに代わって口を開いたのは律だった。
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