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第55話「四百三十一歳のエルフに監視される場合」
相沢直人のスマートフォン。
画面。
写真。
スーパー。
駅。
マンション。
会社への道。
そして。
文章。
『あなたが何歳まで生きるのか、知りたいだけです。』
森野リリカ。
画面を見る。
「……気持ち悪い」
相沢。
「うん」
森野。
「いつから?」
エリアス。
画面越し。
『同棲開始からだと思います』
「思います?」
『私は娘の行動をすべて把握しているわけではありません』
アルト。
「父親なのに?」
エリアス。
『四百三十一歳の娘ですよ』
アルト。
「……」
相沢。
「確かに」
森野。
「納得しないでください」
エリアス。
『最後に直接会ったのは』
「いつ?」
『十一年前です』
森野。
「十一年」
『エルフとしては最近です』
相沢。
「時間感覚がおかしい」
森野。
「私も最近だと思いました」
「森野さんもおかしい」
警察。
通報。
写真。
メッセージ。
提出。
マンション管理会社にも。
連絡。
防犯カメラ。
確認。
森野。
「引っ越します?」
相沢。
「森野さんは?」
「……」
考える。
「引っ越したいです」
「じゃあ引っ越そう」
「いいんですか?」
「住所知られてるなら」
「はい」
「安全優先」
森野。
「せっかく」
部屋を見る。
「同棲始めたばかりなのに」
「場所変わるだけ」
「……」
「同棲は続く」
耳。
少し。
上がる。
アリア。
「うち来る?」
森野。
「あなたの家、修理中でしょう」
「あ」
修一。
「ホテル暮らしも飽きた」
森野。
「まだホテルだったんですか?」
「快適だよ」
アリア。
「朝食ビュッフェ最高」
森野。
「火事起こした人が一番楽しんでる!」
翌日。
会社。
警備。
強化。
森野。
髪。
巻いている。
耳。
隠す。
月島。
今日は。
髪を下ろして。
耳。
半分だけ。
隠している。
田中。
二人を見る。
「何か」
森野。
「はい」
「ファッションみたいになってきましたね」
月島。
「何がです?」
「耳」
田中。
「出す日」
「隠す日」
「半分の日」
森野。
「今日は安全優先です」
田中。
「それでいいと思います」
森野。
少し。
笑う。
午前十時。
部長。
「相沢」
「はい」
「森野さん」
「はい」
「しばらく在宅勤務でもいいぞ」
森野。
「でも」
「仕事はどこでもできる」
「……」
「会社前で張られるよりいい」
相沢。
「俺も?」
「一緒に監視されてるんだろ」
「はい」
部長。
「二人とも在宅」
田中。
「同棲で在宅」
森野。
「田中さん」
「はい」
「その言い方やめてください」
ぴく。
午後。
高橋から。
連絡。
盗まれた血液。
まだ。
見つからない。
研究。
全面停止。
そして。
新しい事実。
病院の防犯カメラ。
地下駐車場の男。
車。
その後。
別の場所で。
発見。
車内。
空。
血液。
なし。
森野。
「ソフィア本人?」
高橋。
『分かりません』
「アルトじゃない?」
『アルトさんの映像とは』
『体格が違います』
森野。
「じゃあ」
『少なくとも』
高橋。
『複数人が関わっている可能性があります』
森野。
ため息。
夕方。
自宅。
相沢。
パソコン。
森野。
パソコン。
在宅勤務。
同じテーブル。
二人。
無言。
キーボード。
カタカタ。
相沢。
「森野さん」
「はい」
「会議中?」
「違います」
「コーヒー飲む?」
「お願いします」
「砂糖?」
「なし」
相沢。
立つ。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「プリン」
「食べない」
「まだ何も言ってません」
「先に答えた」
「正解です」
普通。
あまりにも。
普通。
だから。
森野。
少し。
怖くなる。
この普通を。
誰かが。
外から。
観察している。
午後六時。
仕事。
終了。
森野。
カーテン。
確認。
相沢。
「閉まってるよ」
「はい」
「三回目」
「分かってます」
「怖い?」
「はい」
即答。
耳。
見えない。
でも。
相沢には。
分かる。
相沢。
「今日は外出やめよう」
「夕飯」
「宅配」
「……」
森野。
「それも住所知られます」
「じゃあ冷蔵庫」
二人。
開ける。
卵。
豆腐。
キャベツ。
納豆。
プリン。
三個。
森野。
「生きられます」
「何作る?」
「豆腐」
「料理名じゃない」
そのとき。
インターホン。
二人。
止まる。
森野。
「誰?」
相沢。
モニター。
宅配業者。
「荷物」
「頼みました?」
「頼んでない」
「私も」
相沢。
インターホン。
『どちらからですか?』
宅配業者。
送り主。
読み上げる。
森野。
顔。
変わる。
「知らない名前」
相沢。
『受け取り拒否します』
荷物。
持ち帰り。
十分後。
警察へ。
連絡。
差出人。
偽名。
中身。
確認。
翌朝。
連絡。
箱の中。
小さな。
ガラス瓶。
一本。
森野。
「血?」
警察。
『液体については鑑定します』
「他には?」
『手紙が』
森野。
「何て?」
『本人に伝えて構わないとの判断ですので』
読み上げる。
『これはあなたの血ではありません』
森野。
「……」
『次はあなたの血で試します』
森野。
「何を?」
『以上です』
電話。
切れる。
森野。
ソファ。
座る。
相沢。
「森野さん」
「……」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃありません」
「うん」
「腹立ってます」
相沢。
「怖いじゃなく?」
「怖いです」
「うん」
「でも」
森野。
拳。
握る。
「腹も立ちます」
その日の午後。
エリアス。
緊急来日。
森野。
会社の会議室。
相沢。
アルト。
エレナ。
高橋。
エリアス。
初めて。
画面ではなく。
本人。
白い髪。
長い耳。
八百十二歳。
森野。
「娘さんを止めてください」
エリアス。
『はい』
ではなく。
本人の声。
「そのために来ました」
アルト。
「居場所は?」
「分かりません」
「役に立たないな」
エリアス。
「百六十七歳の若造に言われたくありません」
アルト。
「若造?」
森野。
「そこ喧嘩しないで」
エリアス。
鞄。
開く。
古い。
ノート。
出す。
高橋。
「これは?」
「ソフィアの研究記録です」
森野。
「持ってるんですか?」
「一部だけ」
「いつの?」
「約百年前」
高橋。
ページ。
見る。
文字。
数値。
記録。
「人体実験?」
エリアス。
「違います」
「では?」
「彼女自身です」
森野。
「自分?」
エリアス。
「ソフィアは」
「自分の血液を」
「人間の細胞へ与える実験を」
「何十年も繰り返していました」
高橋。
ページ。
めくる。
表情。
変わる。
「これは」
森野。
「何です?」
高橋。
「細胞寿命が」
「……」
「延びているように見える」
エリアス。
「当時の技術です」
「再現性もありません」
「科学的証拠とは呼べない」
高橋。
「分かっています」
さらに。
ページ。
最後。
一文。
高橋。
読む。
『完全なエルフより』
「……」
『人間社会で長期間生活したエルフの血液のほうが』
「……」
『反応が強い可能性』
森野。
止まる。
「だから」
エリアス。
「はい」
「ソフィアは」
森野を見る。
「あなたを狙っています」
森野。
「私が」
「人間社会で」
「長く暮らしているから?」
「それだけではありません」
「じゃあ?」
エリアス。
「あなたは」
「百年以上」
「人間社会で暮らし」
「人間を愛し」
「今」
相沢を見る。
「再び人間と生活している」
森野。
「それで?」
エリアス。
「ソフィアの仮説では」
「エルフの身体は」
「愛着を持った人間と長期間暮らすことで」
「何らかの変化を起こす」
高橋。
「根拠は?」
「ありません」
「……」
「だから仮説です」
森野。
「そんな」
「恋愛で血が変わるなんて」
エリアス。
「私も信じていません」
アルト。
「だがソフィアは信じている」
「はい」
森野。
「じゃあ」
嫌なことに。
気づく。
「血だけじゃ」
「足りない?」
エリアス。
黙る。
森野。
「ソフィアが欲しいのは」
「私の血だけじゃない?」
エリアス。
「おそらく」
「……」
「相沢さんの血液も」
相沢。
「俺?」
高橋。
「比較対象」
森野。
立ち上がる。
「駄目です」
全員。
見る。
「相沢さんは関係ありません」
相沢。
「森野さん」
「駄目」
「落ち着いて」
「嫌です」
「俺はまだ何も」
「嫌です!」
耳。
髪の中。
大きく。
動く。
森野。
「私が公表したから」
「……」
「私が研究に協力したから」
「……」
「私が」
相沢。
「違う」
森野。
「でも」
「俺は」
相沢。
「自分で一緒にいる」
森野。
「……」
「森野さんに巻き込まれてるんじゃない」
「……」
「俺が選んでる」
森野。
黙る。
アルト。
相沢を見る。
長い。
沈黙。
そして。
「人間」
相沢。
「はい」
「お前」
「はい」
「少しは」
アルト。
「まともらしいな」
森野。
「少し?」
相沢。
「お兄さん基準なら高評価じゃない?」
その夜。
警察から。
連絡。
送られてきた。
ガラス瓶の液体。
鑑定結果。
人間の血液。
ただし。
通常とは。
少し違う。
森野。
「どう違う?」
高橋。
電話。
『提供者は』
「はい」
『かなり高齢だと思われます』
「何歳?」
『正確には分かりません』
「……」
『ただ』
『老化関連指標が』
「はい」
『藤堂修一さんに』
森野。
息。
止まる。
『非常によく似ています』
森野。
「誰の血?」
『DNA照合対象がないので』
『分かりません』
その瞬間。
エリアスから。
電話。
森野。
「はい」
『森野さん』
声。
いつもの。
穏やかさがない。
「どうしました?」
『ソフィアから』
「……」
『連絡がありました』
森野。
「何て?」
エリアス。
『会いたいそうです』
「誰に?」
少し。
沈黙。
『あなたではありません』
森野。
嫌な予感。
エリアス。
『相沢さんに』
森野。
「駄目です」
即答。
相沢。
隣。
「何?」
森野。
「絶対駄目」
『森野さん』
「会わせません」
『理由を聞いてください』
「何です?」
エリアス。
『ソフィアは』
『相沢さんに』
『選んでほしいと言っています』
森野。
「何を?」
エリアス。
静かに。
答えた。
『人間として』
『普通に老いて死ぬか』
『それとも』
『エルフと同じ時間を』
『生きるか』
森野。
何も。
言えなかった。
コメント
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第55話、めっちゃ面白かった…!タイトルからして「四百三十一歳のエルフに監視される場合」って冷静な感じで笑ったけど、中身は結構重かったな。 相沢が「俺が選んでる」って言ったシーン、ここだけはマジでグッときた。森野さんが自分を責める流れを、ちゃんと止めてくれる存在なんだなって。アルトの「少しはまともらしいな」もクスッときたけど、兄弟間の温度差がいいスパイスになってる。 エリアスが本人登場したのも熱いし、まさか相沢に選択を迫られる展開になるとは思わなかった。これは次回どうなるか読めなくて震えるわ…🔥