1.見つけた
ミスティアは今しがたターゲットに決めた男を真っ直ぐ見つめ、ソライアが言っていたことを思い出した。
『いいか?まずお前がターゲットに近づく。その会社の社員なら誰でもいい。上手く利用できそうなやつを選べ。そして話を伸ばして時間を稼ぐんだ』
『あなたはどうするの?』
『私はお前とターゲットが話している隙にメインコンピューター室に忍び込む。要はミスティア、お前にやってほしいのはターゲットの足止めだ』
『分かったわ。私に任せて!』
ソライアのドレス姿が見られるならばと、ミスティアは自信ありげに返事した。
2.演技
(この男との話をできるだけ伸ばして足止めする。そしたらあとはソライアがやってくれるはず…)
ミスティアは俯いた状態で笑顔を作り直し、それを男に向けた。
「あら!ここの社員さんなんですね!ぜひ!」
内心はもちろん笑ってなんかいない。今までこうやって数々の男を騙してきた。
「そのワンピース、とてもよくお似合いですね」
「ほんと?嬉しいわ!」
「えぇ、私が今まであったどの女性よりも素敵です。……そうだ、パーティーが終わったら2人でどこかバーでも行きません?近くにいいところがあるんですよ」
男はポケットからスマホを取り出し、バーの情報を調べだした。
「良いんですか?じゃあ、お言葉に甘えて…」
ミスティアが頬を赤らめた。その姿はまるで本当にそうしているかのようだった。これが演技だなんて、恐らく誰も気づかないであろう。
「あ、これこれ─」
男がミスティアにスマホを見せようとしたその瞬間。
ドン!
「っと!」
突然、通りすがった女が男にぶつかった。男が軽くよろける。
「あ…すみません」
女はペコリと小さく頭を下げて去っていった。
「大丈夫ですか?」
ミスティアが男を心配そうに上目遣いで見る。男は「大丈夫大丈夫!」と笑い、スマホ画面をミスティアに向け直した。
その光景を、少し離れたところからじっと見つめる女がいた。先程男にぶつかった女である。
女は会場の端まで移動し、自身の右手に視線を落とした。
その手中にあったのは、本来男が持っているはずの、メインコンピューター室の鍵。
女─ソライアは男を心の中で嘲笑った。
3.ここからは
ヴーッ……ヴーッ…
「!」
男と笑顔で談笑するミスティアは、自分のスマホが鳴ったことに気がついた。
ソライアからのメールである。
『作戦成功』
「フッ…」
ミスティアは「了解」とだけ返し、スマホから目を離した。
その頃、ソライアは誰もいない薄暗い通路を渡り、エレベーターまで移動していた。
パーティー会場は3階。コンピューター室があるのは5階である。いつまで男を会場に留めておけるか分からないため、できるだけ早く事を済まさなければならない。
ソライアは到着したエレベーターに乗り、階数ボタンを押した。
チン、という高い音と「5階です」という無機質な声が静寂なフロアに響く。小走りでコンピューター室まで向かうソライアは「こんな時のためにミドルヒールを履いてきてよかった」と思った。
物音を立てないように長い廊下を進み、1つ1つ扉の上のプレートを確認する。途中いくつか監視カメラがあるが、既にハッキングしてあるので姿が映ることはない。
そして。
「ここか…」
コンピューター室があった。他の部屋より重そうな扉に、『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙。いかにもな雰囲気を醸し出している。
ソライアはポケットから鍵を取り出した。ジャラジャラと音を出す何本もの鍵の中からコンピューター室の鍵を見つけ、眼前の鍵穴に挿しこもうとした。
が、その時。
「誰だ!?」
「!?」
突然何者かの大声が聞こえた。ソライアは咄嗟に持っていた鍵を隠した。
4.邪魔者
「何だお前は!?そこで何してる!?」
暗闇で姿はよく見えないが、声からして恐らく中年の男であると分かった。
パーティーに潜入し、ターゲットに近づき、鍵も奪った。残るは扉を開け、PCに入っている情報をUSB端子に移すだけだというのに。
(こんなところで見つかるとは…)
ソライアは歯噛みした。思考を巡らせている間にも、男はどんどん近づいてくる。
「不法侵入者だな?警察に突き出してやる!」
(任務を続行する暇はナシ、か)
ゆっくりと距離を縮める男を見据え、ソライアは決めた。
(ならば─)
ダン!!
「なっ!?」
ソライアは一瞬の隙をついて男に接近し、そのまま壁に向かってジャンプした。壁に足を着き、駆け上って男を飛び越え、そして地に着地して猛スピードで廊下を走った。
「ま、待て!おい!」
ソライアの魅せるそれは、まるで重力を無視しているような華麗な動きだった。組織の中でもかなり高い身体能力を持つソライアは、あとを追いかける男をどんどん引き離していった。
続
コメント
2件
ミスちゃんの演技のところやっぱ好きやわ😻 フッって笑うところと切り替え早いのおもろい笑! ソラちゃんバレちゃったの悔しいな…() 次回楽しみ😁 3部構成何気に珍しいわね!、