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転校してきた殺し屋君第2章:崩壊する日常
第7話:夏の陽炎と銀色の銃口
梅雨が明け、アスファルトを焼くような陽射しが千葉の街を包んでいた。 指谷との死闘から数ヶ月。教頭先生の「配慮」により、浩一たちは停学という名目のもと、表向きは静かな学校生活を送っていた。今日から夏休み。蝉の鳴き声が、鼓膜を執拗に叩く。
「凪くん、待って」
帰宅路、背後から声をかけてきたのは海沼玲亜だった。いつものおどおどした様子で、裾をぎゅっと握りしめている。 「どうした、海沼。もうすぐ夏休みだぞ」 「……お別れの前に、少しだけ話したいことがあるの。こっち、来てくれる?」
彼女が指差したのは、古い雑居ビルの合間に続く、陽の当たらない路地裏だった。 黒咲の脳裏に、以前彼女の家(シェアハウス)で感じたあの「重い空気」が蘇る。だが、彼女の瞳に宿る悲痛な色が、彼の判断を一瞬だけ鈍らせた。
路地裏に入り、人影が完全に途切れたその時。 海沼が足を止め、振り返った。その手には、震えながらも、一丁の銀色の拳銃が握られていた。
「……え?」 黒咲の思考が、コンマ数秒停止する。 「ごめんなさい、凪くん。本当に……ごめんなさい」 彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。しかし、銃口は真っ直ぐに黒咲の心臓を捉えていた。
「海沼、お前……何を言ってる。その銃をしまえ。冗談にしては悪趣味だ」 「冗談じゃないの……! こうするしかないの。そうしないと、あの子たちが……シェアハウスのみんなが殺されちゃう!」
浩一の背筋に冷たい戦慄が走る。 彼女もまた、黒幕(あの女)の手駒に過ぎなかったのだ。指谷が「個人的な私怨」で動いていたのに対し、彼女は「守るべきもの」を人質に取られ、プロの殺し屋を狩るための刺客へと仕立て上げられていた。
「凪くんは、優しすぎた。指谷くんの時だって……あんなに怒ってくれたのに」 海沼の指がトリガーにかかる。 「さよなら、私のヒーロー」
カチッ――。
安全装置が外れる金属音が、路地裏に虚しく響いた。 陽炎の向こう側で、浩一は「偽物の日常」が完全に終わりを告げたことを悟った。目の前にいるのは、守るべきクラスメイトではない。自分を殺しに来た「敵」だ。
「……いいだろう、海沼。それがお前の選んだ道なら」
浩一の瞳から光が消え、殺し屋・黒咲雅樹の顔が浮かび上がる。 銃声が轟く直前、浩一の体が影のように沈み込んだ。
(つづく)
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ひとせるな
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