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拓実からの突然の告白に、蓮は戸惑いを隠せなかった。
拓実の言葉は、まるで熱を帯びた刃物のように、蓮の心を切り裂いた。
蓮は、拓実の優しさがどうしてなのか、ずっと疑問に思っていた。
それが「愛」だと告げられ、蓮の心は大きな波に揺れた。
嬉しい、という感情も確かにあった。
拓実の献身的な姿を見て、蓮は彼に惹かれ始めていた。
しかし、同時に、言いようのない罪悪感が蓮を襲った。
「俺は、拓実の記憶の中の『蓮』じゃない…」
蓮は、そう心の中で呟いた。
拓実が愛しているのは、きっと過去の自分だ。
もし記憶が戻らなかったら?
拓実の愛を、記憶のないまま受け止める資格が自分にあるのだろうか。
その日の夜、蓮は眠れなかった。
拓実の告白が、頭の中で何度も繰り返される。
ベッドの中で、蓮は自分の胸に手を当てた。
そこには、拓実への感謝と、戸惑い、そして、微かな恋心が同居していた。
翌朝、リビングのテーブルには、蓮の好きなフレンチトーストが置かれていた。
拓実は、蓮が目を覚ますと、いつものように優しい笑顔を向けた。
「おはよう、蓮くん。よく眠れた?」
蓮は、拓実の優しさが、どうしようもなく苦しかった。
自分は、拓実の愛に応えることができないかもしれない。
その罪悪感が、蓮の心を締め付ける。
「…うん、眠れたよ」
蓮は、そう言うのが精一杯だった。
拓実は、蓮の様子がいつもと違うことに気づいていた。
しかし、拓実は何も言わなかった。
ただ、静かに蓮の隣に座り、朝食を共にした。
蓮は、拓実との日々の生活の中で、多くの記憶の断片を取り戻していった。
ある日、拓実の部屋にある棚を整理していた蓮は、一冊のノートを見つけた。
それは、拓実が書いたダンスの練習ノートだった。
そこには、蓮のダンスに対する情熱と、拓実への思いが綴られていた。
「蓮くんのダンスは、世界一だ。俺は、蓮くんの隣で踊ることができて、本当に幸せ」
その一文を読んだ瞬間、蓮の頭の中に、拓実と二人で汗を流しながらダンスの練習をしていた過去の映像が鮮明に蘇った。
その映像は、幸せなものばかりではなかった。
練習で壁にぶつかり、言い争いになったこと。
互いの意見がぶつかり、口を聞かなくなったこと。
それでも、最後は必ず、二人の愛がすべてを乗り越えていた。
蓮の瞳から、涙が溢れた。
それは、過去の自分と拓実の関係を少しだけでも思い出すことができた喜びの涙であり、そして、まだまだ記憶のない自分への悲しみの涙だった。