ここは20XX年。街から離れた丘のふもとにその家はあった。
若い男女が2人ずつで暮らすそこはいつも活気に溢れていた。
「ねえ、このお箸誰のだっけ?」
そう快活な明るく高い声を家に響かせるのは、朱莉という名の女の子。
色素の薄い短い茶髪は、所々跳ねていた。
「それ俺の。頂戴」
その問いかけに返すのは千紘。朱莉の2つ上の兄である。
彼は妹と違い黒髪で、やはり髪は跳ねている。兄の方が酷い。
「もう、ちゃんと棚に戻してよ」
「あはは、いつも思うけど、朱莉がお姉ちゃんみたいだね」
朱莉の厳しい声にのんびりとした口調で話しかけるのは楓。
名前も見た目も中世的だが、男性である。
「確かに。本当は生まれてくる順番が逆だったのかな」
そうやって千紘を無意識に小馬鹿にするのは優華。
彼女は髪が長く、綺麗な黒髪を後ろで1つにまとめていた。
「うるせ、ほら飯食おうぜ?俺腹減った」
「まあ、お兄ちゃんの言う通りか」
いただきます、と4人の声がまばらに響く。
食べ始めてからしばらくは無言だったが、数分経った後、優華が口を開いた。
「そうだ、私あそこの大樹に行きたいんだよね」
「大樹ってあの大樹?優華ちゃん自然とか好きだっけ」
「まあ、楓の言う通りそこまで好きというほどではないけどね。面白い噂を聞いちゃったの」
優華がそう言うと、噂話が大好きな朱莉がずいっと身を乗り出す。
それを見た楓がくすっと笑う。
「うん、何でもね、あそこの大樹が異世界に繋がってるだとか何とか」
「そんな話あるわけねえだろ、おとぎ話じゃあるまい」
千紘が噂を気だるげな声で否定すると、それに裏腹に朱莉が口元に手を当ててにやにやし始める。
「そんなこと言っちゃって、1番非現実的な話が好きなのお兄ちゃんじゃん。お部屋にファンタジー系の本ばぁっかりあるのだ〜れだ」
「うっ……せえな、ファンタジー好きでもいいだろ」
そう言う千紘の顔はほんのり赤くなっていた。
そんな状況を見た優華が、むすっとした顔でテーブルを指で叩き始める。
「あの、あのね。この噂意外に信憑性高くって気になって。だから皆で行きたいなって思って」
「いいんじゃない?あたしは賛成だよ」
「俺も行ってみたい。面白そう」
「……まあ、お前らが行くなら行くわ」
「よしじゃあ決まりだね!ご飯食べ終わったらもう行っちゃわない?」
「え、早くね?」
「思い立ったが吉日って言うでしょ?つまり今から行った方がいいの」
「あはは、優華らしいや……」
兄妹は優華の頑固さに苦笑いを漏らした。
「うっわあ……近くに来たことあんまりないけど、こんなに大迫力だとは」
朱莉は首を目一杯上に向けて呟く。
他の3人もそれは同様で、大樹の大きさに圧巻されていた。
「で、優華ちゃんが言うには確か異世界に行けるんだったよね」
「そうそう。えっとね、まず大樹の幹のどこかにある模様を探すの」
「模様?」
そんなもん見つかるのか?とため息をつく千紘を、優華がまあまあと言って宥める。
その間に、朱莉と楓はその模様を探し始めていた。しかも朱莉は地面に手をついてかなり本気である。
「うーん……目立つ模様は見当たらない……?」
「そうだね……俺も見つかんないや」
「……あ、もしかして、これか?」
優華がえ?と嬉しそうな声をあげて千紘の方に向かう。
千紘が指差すのは女性からするとかなり高い位置だった。背が高いのは千紘だけだったので、彼のおかげだろう。
そこにあったのは、それこそファンタジー作品に出てきそうな魔法陣のような、紋章のようなものだった。
「すごい、そもそも模様が見つからない人もいるのに」
「背が足りないだけじゃなくて?」
「ううん、人によって模様の位置は違って見えるんだって。えっと、それでこの模様に来ている人全員の手をかざす……と異世界に行けるらしい?」
「本当?やろう!あたし異世界行きたい!」
「俺もやってみたい。優華ちゃんも千紘も、ほら」
「うん」
「……おう」
楓に促され、優華と千紘は模様に手をかざす。
すると、カッと白い眩い光が辺りを包んだ。目を瞑る。
やがて、4人の意識は宙に浮いていき、眠りに落ちてしまった。
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