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「夏樹!」
なんでそんなデタラメを!
「何!? お前怪我は? 財布は無事か!?」
部長がベンチから立ち上がると、頭の先からペタペタと触ってきた。
ひー。部長は体温まで熱いんだから触るの止めてくれー。
「大丈夫れふ……」
ほっぺをぎゅうぎゅう触られながらも必死でそう言うと、熊谷先輩がやんわりと手を掴んで離してくれた。
「竜。十夜くんが苦しそうでしょ?」
「あ、ああ。すまない」
「まぁ勘違いかもしれないから、大丈夫っす。降ろさせてすみません」
ヘラヘラそう笑って頭を掻くと何故か夏樹が目を吊り上げた。
「勘違いで済まされるか! 部長、最近十夜は私物が」
「わー! わー!」
慌てて口を押さえると、もごもごと夏樹の息が当たる。
「よし。分かった。今日は此処で解散。一年はまだ元気なら先生捕まえて学校で泳いでもいいぞ」
その言葉に一年からは喜びと動揺の二通りの声が聞こえてきた。
「お前らと太一は俺に付き合え!」
そう叫ぶと部長は『氷』と書かれた暖簾が揺れる駄菓子屋目指して歩き出す。
駅のホームからこの駄菓子屋を見つけた部長の視力は5.0はあると思う。
「ふぁぁぁぁぁ!!!」
「竜。急いで食べるからだよ」
熊谷先輩が、部長の隣であたふたしている。
部長に俺の私物がなくなる話をしたのを発狂してたら、同時にかき氷を急いで食べたせいで頭がキンキンしたらしい。
「何でもっと早く言わなかった! そんなに部長の俺は信用できぬか!」
何故か武士口調で熱弁してくる部長に苦笑いするが、
んな私物無くなるのは水泳と関係ないから相談できないし。
「でも、私物も水泳キャップも教室や部室に置いてたんだよね。なのに今回は財布なんて……犯人はお金に困ってるのかな?」
先がスプーンになっているストローで、かき氷をサクサクと削る熊谷先輩が、んー?と首を傾げる。
「副部長、可愛いっすね」
「へ?」
「かき氷の食べ方可愛い」
「……お前、熊谷先輩に失礼だろ?」
なんで話の腰を折るような事を言うんだ。
熊谷先輩だってきょとんとしているし。
「おい。お前らは心当たりないのか?」
「ないっすよ」
可愛い食べ方なんぞ馬鹿にされないように苺味のかき氷を大口で食べる。
「苺味ってのも可愛いな」
……部長。
貴方も真面目に聞いてないんじゃないのか。
「まぁ、私物はまめに持って帰るし、水泳も毎日持って帰るっす」
「「それじゃ駄目だ」」
口を揃えて言ったのは、部長と夏樹だ。
「へ?」
「そうだねぇ。本人に手を出してきた以上、一人になるのも危険かなって思うよ」
危険って。
てか……。
一番怪しいと思っていた二人がこんなに俺の事、真剣に考えてくれるなんて。
やっぱ痴漢は俺の勘違いだったかもしれないし。
「じゃあ、学校では女子みたいにトイレまで夏樹と一緒にいけばいいのか」
「任せろ」
「……やだよ」
そこまで男がベタベタするなんて。
「でも十夜くん、最近気が抜けてるし、さっきだってファスナーが」
そう言いながら、副部長のかき氷を食べる手が止まる。
「ファスナー……開いてたし」
思い出したのか自分の事のように真っ赤になって俯く。
けど、――どうして知ってるんだ。
「熊谷先輩、ジャケットのボタン、外れてますよ」
「あ」
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「いつから無いんですか?」
探るような、真っ直ぐな夏樹の追求に、何故だか副部長は泣きそうな真っ赤な顔で固まる。
「この……ボタンは……」