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「何だ? 太一、どうした?」
ぶっきらぼうだが、部長が心配げに副部長を見ている。
「これは……何でもない、から。竜こそ、その腕のボタンはどうしたの?」
「ああ? これはいつの間にか、だ」
二人が探りながら見つめ合い、長い沈黙が続く。
二人とも怪しいし、二人とも怪しくない。
だとしたら。
俺はチラリと夏樹を見ると、夏樹は呑気に舌を出す。
「ほら、舌が緑、緑」
「……お前は楽しそうだな」
メロン味のかき氷を美味しそうに食べている。
ああ、面倒くせー。
自分の事のはずなのに、酷く面倒だ。
「疲れた。俺、もう帰って寝たいっす」
「送る!」
「彼氏か!」
ばーかっと叩くが、夏樹は口をへの字にして意思が固そうな顔で俺を睨む。
護衛みたいだな。俺はお姫様かってーの。
……でも、まぁ。
帰りは駅からバスだから、後ろに立って貰えてちょっとだけ頼りになった。
ちょっとだけだけど。
午前中に体育があると眠くなる。
そんな、くそ暑い夏の日でも、教室は冷房が効いて涼しかった。
ついうとうとと眠たくて机に伏せる。
「おい、今から部活だぞ」
「分かって……る」
ただ、もう少し目を閉じていたいと思っていたら、廊下をバタバタと走る音が聞こえてきた。
「夏樹先輩! 今日の部活は遅れます!大変です!」
俺は伏せているから気づかないのか、一年は夏樹の名前だけ呼ぶ。
「どーした?」
「ブラックバスが数匹、プールに侵入してるんです!」
「はぁ?」
ガタガタと立ち上がった夏樹は、窓辺に立つとプールを覗き込む。
どうやらプールでは一年たちが網を使い、ブラックバスを捕まえようと悪戦苦闘しているらしい。
「うわー。おい十夜、俺たちも手伝いに行くか?」
「お前だけ言って来いよー。俺寝る」
「……ったく。すまん、一年だけで大丈夫か?」
夏樹がそう言うと、一年はブンブンと頭を縦に振る。
「もちろんです! もちろんです! オリンピック強化選手の夏樹先輩にはそんな事させれません!」
オリンピック強化選手……。
そう言えば、中学の時に新記録を二個作った夏樹は、そんなのに選ばれてたらしいな。
バシャバシャ
『そっちに行ったぞー』
『待て待てー!』
『ぎゃ、滑った!』
冷房の稼動音と、プールから聞こえる一年生たちの声。
「あっは。あいつら要領悪いな。見てられねー」
隣でクスクス笑う夏樹の声。
全部が俺を深い眠りへと導いていく。
……そうだ。
夏樹は俺がこんな風に眠ってたら話しかけてきたんだ。
バシャバシャ
高校一年の春。
友達の委員会が終わるのを、眠りながら待っていたある日。
『なぁ、一緒に水泳部入らねー?』
『え?』
誰だっけ、この馴れ馴れしいやつ。
それが第一印象だった。
浅黒い肌の、ちょっと距離が近いこの男、誰だっけ?
『さっきの身体測定、体重も身長も同じだったじゃん。ちょっと運命感じたわ』
『……男に運命ってお前なぁ』
『水泳部に入ったら水着の女の子を見放題だぞ』
『…………まじ?』