「フィーサ、飛ぶぞ」
「え、飛ぶ……?」
「上だ」
「ひゃああぅぅ――!?」
シーニャを水の壁に守らせた状態で風魔法を使用した。印の力からさらにブーストをかけ、上空にいる火竜のさらに上にまで飛び上がるためだ。残念ながら飛行魔法は習得出来ていないが、風魔法を強めたことで上空に飛び上がるのは容易だった。足下に小さな風の渦を置き、その上に足を乗せているといったイメージだ。
バランス的なものはやや不安定だが、火竜の上から降下していくだけなので問題ない。
「剣の姿のままで良かったなの……。敵の様子はどうなっているなの?」
「よく見えるぞ」
火竜はもちろんのこと、散開していた敵が混迷を極めている様子が見て取れる。
「フィーサ、吸収した属性は?」
「え、えっと、土なの……」
「土か。それを剣の中に留めておいてくれ」
「わらわはどうすれば?」
攻撃する時間は一瞬だ。土属性を含めた力もろとも、命中させる……それだけのこと。
「そのままでいい。後は火竜を斬るだけだ」
「わ、分かったなの。イスティさま、存分に!」
両手剣フィーサブロス――彼女を両手で握りしめ、剣の中に蓄積された土属性の力を凝縮。属性の力をさらに高めて命中率を向上。火竜にダメージが伝わった瞬間、原形を保つことを不可能とする属性変化を生じさせる。土を石に変え、そのまま地上へ落とすことが狙いだ。
「――狼狽《うろた》えても無駄だ! 悪いが、石になってもらうぞ」
地上と視界上の近くにしか炎を吐き出せない火竜。上空からの攻撃にはすべが無い。風を解き、上空から地上へ垂直に降下する。剣先が接すると共に火竜の頭上に攻撃の衝撃が走った。竜にしては表皮が硬くないことで、剣身の重みを生かし力まかせに突き下ろす。
一連の攻撃によって貫通させることに成功した。
「ガグググゥゥ……!」
声とも取れぬ呻き声を上げて地上へと落ちて行く火竜は深手を負って動きを鈍らせていたが、次の瞬間には石と化していた。
「よし、地上に降りるぞ」
「ええ? も、もう終わったなの?」
「あぁ、火竜はフィーサのおかげで石化した」
「土の属性だけだったのに、あっけないなの……」
「まぁ、竜さえ片付ければ後は何とかなるから」
耐火スキルの限界値を確かめられただけでもいい。目に見える範囲で残っている敵は、この場に呼ばれた魔族のみ。強い魔法攻撃を仕掛けて来る奴も見当たらない。それが闇の狙い通りなら、ここでおれの実力を計ったといったところだろう。
「シーニャを出してあげるなの?」
「ああ」
火竜の吐き出した炎から守る為だったが水で作り出した壁は上手くいった。今度はもっと上手く魔法を使って行かなければ。
「ウニャァ~! アック、敵をやっつけたのだ?」
「そこに転がっている石がそうだよ」
「ウニャッ! さすがなのだ」
「でもまだ残党が残っているんだけど、暴れておくかい?」
「もちろんなのだ!」
差し当たってシーニャが苦戦するような魔族は見当たらない。ある程度の戦力差を見定められたかもしれないが、重力魔法でほとんどを失くしたのは大きかった。高低差を利用する敵もすでに皆無なので、後はシーニャが全て倒してくれるだろう。
「イスティさま、こんなにお強くなっていたなの?」
まともに剣を振ることが出来なかった時に比べればそうかもしれない。もちろんそれは、おれだけじゃないだろうが。
「……フィーサもだろ? おれは火の神と風の神の印を宿しているだけだよ」
「えぇっ!? 印章を? アグニさまから授かったなんて、すごいことなの!!」
「む、そうなのか。風の方は嫌そうにしていたけど……」
「人間のイスティさまに神の力が……うぅっ、末恐ろしいなの」
嫌々ながらも力を使わせてくれているのはありがたいことだ。素直じゃないというか何というか。
「とにかく、後は闇の奴を何とかしないと」
「小娘がどこまで追いかけて行ったのか、見当もつかないなの」
「……だな」
広場に集結していた魔族と火竜は、重力魔法と貫通攻撃で始末を終えた。残党はシーニャが切り裂き中ではあるが、ひとまず落ち着けそうだ。
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