服を作る際に必要となる『イビルシープ』の体毛をゲットするためにナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)とその仲間たちは久々に地上に舞い降りた。
『メェー! メェー!』
「羊《ひつじ》さーん、おとなしくしててくれよー」
彼が野生の『イビルシープ』の群れに近づくと、羊《ひつじ》たちは全力で彼から離れ始めた。
「えっ?」
彼が別の羊《ひつじ》たちの群れに目をやると、その群れも一斉に彼から離れ始めた。
「んー?」
彼が別の群れに目を向けると同時に、その群れに突進し始めると、その群れも他の群れと同じ行動を開始した。
「……ううっ……どうして、逃げるんだよ。お前たちは時間が経《た》てば経つほど、強くなるんじゃないのかよ」
彼が四つん這いになっていると、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)が彼の肩に手を置いた。
「ナオ兄、どうしたの? 疲れたの?」
「いや、違うよ。なんか俺が近づくと、羊《ひつじ》たちが逃げていくんだよ。俺は『ワ○パチ』かよ」
「うーん、じゃあ、逆にそれを利用すればいいんじゃないのかな?」
「逆にそれを利用する?」
「うん、そうだよ。シャチみたいにジリジリと獲物を追い詰めていって、獲物が弱るまで獲物をボールみたいに扱って、弱ったところを」
「待て待て待て。俺はそこまでやろうとは思ってないぞ?」
「えっ? そうなの?」
「ああ、そうだ」
「そっか。じゃあ、追い詰めるところまでやってみようか」
「そうだな。何事も挑戦してみないと、どうなるのか分からないよな」
彼はスッと立ち上がると、中規模の群れに目を向けた。
「羊《ひつじ》さんたちー! 俺と戦おうぜー!」
彼が走り始めると、羊《ひつじ》たちは彼から全力で逃げ始めた。
「待て待てー!」
『メェー!』
「逃げるなー! 戦えー!」
『メェー!』
「クソー! どうして逃げるんだよー!」
彼が群れに追いつき、羊《ひつじ》たちの群れの周りを走り始めると、羊《ひつじ》たちは急停止した。
「マナミちゃん、マナミちゃん」
「ん? どうしたの? シオリちゃん」
シオリがマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》に声をかける。
彼女はナオトの方を指差して、そのことを伝えた。
「えっと、シオリちゃんはあれが何か知りたいの?」
「うん」
「え、えーっと、あれはたしか……」
「追い込み漁よ」
そう言いながら、二人のところにやってきたのはミノリ(吸血鬼)だった。
「そ、そうそれです!」
「どれだけ大きな生物だろうと、行動範囲を狭《せば》めてしまえば狩るのは容易よ。まあ、ナオトはそんなことこれっぽっちも考えていないだろうけどね」
彼女がそんなことを言うと、ナオトが気絶させた羊《ひつじ》たちを大量に運んできた。
「大量! 大量!」
「そうね、大量ね」
「えーっと、一匹、二匹、三匹……」
「マナミちゃん、寝ちゃダメだよ」
「あっ、そうだったね。ありがとう、シオリちゃん」
「どういたしまして」
シオリはそう言うと、羊《ひつじ》の体毛にダイブした。
「もふー♪」
「そうだなー。もふもふしてるなー。癒《いや》されるよなー」
彼が羊《ひつじ》の体毛を枕にしていると、シオリもそれをマネした。
「ちょっと二人とも。まだまだ体毛が必要なんだから寝ちゃダメよ……って、もう手遅れみたいね」
「そうですね。もう二人は夢の中みたいですね」
「はぁ……仕方ないわね。マナミ、他のみんなに伝えて。ナオトとシオリが起きるまでは狩《か》りを続行するって」
「分かりました!」
マナミはそう言うと、目にも留まらぬ速さで走り去った。
「体はともかく精神年齢まで幼《おさな》くなられたら困るんだから、しっかりしてよね」
彼女が彼の頬を指でつつくと、彼は「んなぁ……」と言った。
彼女はしばらくそれを何度も繰り返し行っていたという。
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